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第21話 迫る危機
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同日朝、C工区。
「ちっ! なぜこのオレ自ら動かなきゃならねーんだ」
ギルドの担当となっているC工区の片隅で毒づいているのは、ギルドマスターの陣だ。
数日前、中堅クラスのダンバスが数人脱退した。
「ここを耐えれば報酬ランクを上げてやろうと考えていたのに恩知らずが!」
確かに、今回の案件を受注する為に少々無理のあるノルマを押し付けたのは認める。
日曜日も含めた夜勤は体力的に辛かったのだろう。
「それだけのことで、”栄誉”をみすみす捨てやがるとは!!」
オレのお陰で”大阪湾海底トンネル工事”に参加したダンジョンバスターと言う肩書が手に入ると言うのに。
「”働き方改革”などど抜かすぬるま湯世代はこれだから使えねぇ!」
今年35歳になる陣は最初期からのダンジョンバスターだ。
最高でBランク近くまで稼いだこともある。
そのオレが、低ランクダンジョン狩りに精を出すなど……!
とはいっても下請けの身、シフトに穴をあけるわけにはいかない。
「……ん?」
その時、僅かな異変に気付く。
夜勤の作業員が引き上げたあとなので周りには誰もいない。
「ダンジョンか?」
10メートルほど向こう、巨大なシールドマシンの先端部に隣接した素掘りの岩肌がぼんやりと光っている。
ダンジョン出現の予兆だ。
「ったく、めんどくせぇな」
ネットを通じて”監視”され、ダンジョン出現と同時に封印される都市部と違い、このような大深度地下のダンジョンは放っておけばこちらの世界と繋がってしまう。
その前に封印処理を施すのがコモンクラスと呼ばれる下請けダンジョンバスターの仕事である。
陣はダンバスアプリを起動すると、スキャンモードにする。
「ダンジョンのランクは……Dか」
チーフ連中に報告義務のあるC以上ではない。
陣の裁量で狩ることのできるランクだ。
(そういえば、アプリに新機能が搭載されていたな。 念のため試してみるか)
ギルドマスターが使うアプリが先日アップデートされ(どうやら、ノーツ研の研究成果らしい)、ダンジョンのランク測定だけではなく”ガチャ”の出現可能性を確認する事が出来るようになった。
ぴこん!
ピンク色の文字でアラートがポップアップする。
「”アイテムガチャ”の出現可能性あり……だとっ!?」
出現可能性としては数パーセント程度だろうが、通常1万分の1とも言われる出現確率からすると相当に高い。
「お、おお! オレにもツキが回って来たのか!?」
先日、ユウのヤツがDランクダンジョンで固有装備を引き当てたらしい。
ヤツに出来てオレに出来ないはずはない。
陣は周囲に誰もいない事をもう一度確認すると、こっそりとDランクダンジョンの中に入るのだった。
*** ***
「……何だこりゃ?」
Dランクダンジョンの壁と言えば、生物系の見た目をしている事が多い。
だがこのダンジョンは。
「クリスタル……か?」
ダンジョン全体が水晶のような素材で構成されている。
「まさか、”スペシャル”じゃないだろうな?」
鉱山や限界突破のような特別なダンジョンは”スペシャル”と呼ばれ、発見したダンジョンバスターは一夜にして英雄になれる。
あのSSランクのシロー・ヤマダも鉱山を発見してA+ランクに成り上がったのだ。
「く、くくくくくっ!
ついに来たぞオレが成り上がるときが!!」
ダンジョンを進むに従い、陣の予感は確信に変わる。
なぜならモンスターが出てこないのだ。
これもスペシャルなダンジョンの特徴である。
「は、ははっ!」
ダンジョンの最奥、数十メートルはある巨大な水晶が折り重なって出来た部屋。
そこに存在する物体をみて、掠れた歓声を上げる陣。
自分の目が信じられない。
宙に浮かぶオーブは白銀。
「こ、鉱山だ!!」
日本国内に存在する鉱山は現時点で1つだけ。
コイツの権利を大企業にそのまま売ったとしても数十億円の価値になるだろう。
「い、いただきだっ!!」
目を血走らせ、白銀のオーブに手を伸ばすジン。
……ズドオンッ!
オーブに手を触れた瞬間、とてつもない衝撃が陣を襲い……彼の意識はそこで途切れた。
*** ***
「ギガファイア!!」
ズドンッ!
レミリアの放った極大魔法がダンジョンの部屋ごとボスモンスターを焼き尽くす。
「エネルギーシールドLV20!」
爆炎の余波をシールドで受け止め、威力が逃げないようにする。
「ま、ざっとこんなもんね!」
数々の”固有スキル”を使いこなす彼らにとってAランクダンジョンなど障害にすらならない。
レミリアの極大魔法一発で事足りた。
「ねぇねぇ、褒めなさいよぉ~!」
「まったく……」
もうアラサーだというのに、ふたりきりの時は子供っぽく甘えてくるレミリア。
仕方ないので優しく頭を撫でてやる。
だがすぐに、ベテランダンジョンバスターの顔に切り替わる。
「これで3つ目か……さすがに多すぎるな」
真剣な表情になったシローを見て、レミリアも表情を引き締める。
「シローはあの噂信じてるの?」
「オリジナル鉱山におけるスキルポイント大量喪失事件……それに伴う上位ダンジョンの出現増加か? 低レベルなゴシップだな」
「だが、ダンジョンに関して私たちが知っている事は少ないんだ」
「まあね~」
何故ダンジョンが出現するのか。
中に生息しているモンスターはどこから来たのか。
そもそも”スキルポイント”とは何なのか?
「あたしが元居た世界とも全然違う」
レミリアの故郷は魔法が発達した世界だった。
エーテルと呼ばれる魔法元素を元に体系化された魔法文明。
だが、こちらの世界にそのようなものは存在しない。
なのに、ダンジョンの中ではレミリアの世界の物とは異なる魔法が使えるのだ。
「リーサたんに聞いてみるのもいいかもね」
自分と同じ転生者で獣人族。
かなり”近しい”世界から転生した可能性もある。
「それに……」
「それに?」
最近気になることがある。
自分たちのスポンサーに関係する事なので、軽率に発言は出来ないが……。
「じつはね、シロー……」
ドンンッ!!
レミリアが何かを口にしようとした時、大きな衝撃が坑道全体を揺らす。
「なんだ!?」
「シロー! ダンバスアプリが!」
珍しく慌てた様子のレミリアがダンジョンバスターアプリの画面を指さす。
「くっ……!?」
新(新た)に出現したダンジョンのランク……SS+。
ダンジョンの脅威度を示す魔法陣が漆黒に染まっている。
「”災害”クラスだと!?」
世界でも数年に一度観測されるかされないかと言う最凶レベルのダンジョン。
それがこの工事現場に出現したのだ。
「ちっ! なぜこのオレ自ら動かなきゃならねーんだ」
ギルドの担当となっているC工区の片隅で毒づいているのは、ギルドマスターの陣だ。
数日前、中堅クラスのダンバスが数人脱退した。
「ここを耐えれば報酬ランクを上げてやろうと考えていたのに恩知らずが!」
確かに、今回の案件を受注する為に少々無理のあるノルマを押し付けたのは認める。
日曜日も含めた夜勤は体力的に辛かったのだろう。
「それだけのことで、”栄誉”をみすみす捨てやがるとは!!」
オレのお陰で”大阪湾海底トンネル工事”に参加したダンジョンバスターと言う肩書が手に入ると言うのに。
「”働き方改革”などど抜かすぬるま湯世代はこれだから使えねぇ!」
今年35歳になる陣は最初期からのダンジョンバスターだ。
最高でBランク近くまで稼いだこともある。
そのオレが、低ランクダンジョン狩りに精を出すなど……!
とはいっても下請けの身、シフトに穴をあけるわけにはいかない。
「……ん?」
その時、僅かな異変に気付く。
夜勤の作業員が引き上げたあとなので周りには誰もいない。
「ダンジョンか?」
10メートルほど向こう、巨大なシールドマシンの先端部に隣接した素掘りの岩肌がぼんやりと光っている。
ダンジョン出現の予兆だ。
「ったく、めんどくせぇな」
ネットを通じて”監視”され、ダンジョン出現と同時に封印される都市部と違い、このような大深度地下のダンジョンは放っておけばこちらの世界と繋がってしまう。
その前に封印処理を施すのがコモンクラスと呼ばれる下請けダンジョンバスターの仕事である。
陣はダンバスアプリを起動すると、スキャンモードにする。
「ダンジョンのランクは……Dか」
チーフ連中に報告義務のあるC以上ではない。
陣の裁量で狩ることのできるランクだ。
(そういえば、アプリに新機能が搭載されていたな。 念のため試してみるか)
ギルドマスターが使うアプリが先日アップデートされ(どうやら、ノーツ研の研究成果らしい)、ダンジョンのランク測定だけではなく”ガチャ”の出現可能性を確認する事が出来るようになった。
ぴこん!
ピンク色の文字でアラートがポップアップする。
「”アイテムガチャ”の出現可能性あり……だとっ!?」
出現可能性としては数パーセント程度だろうが、通常1万分の1とも言われる出現確率からすると相当に高い。
「お、おお! オレにもツキが回って来たのか!?」
先日、ユウのヤツがDランクダンジョンで固有装備を引き当てたらしい。
ヤツに出来てオレに出来ないはずはない。
陣は周囲に誰もいない事をもう一度確認すると、こっそりとDランクダンジョンの中に入るのだった。
*** ***
「……何だこりゃ?」
Dランクダンジョンの壁と言えば、生物系の見た目をしている事が多い。
だがこのダンジョンは。
「クリスタル……か?」
ダンジョン全体が水晶のような素材で構成されている。
「まさか、”スペシャル”じゃないだろうな?」
鉱山や限界突破のような特別なダンジョンは”スペシャル”と呼ばれ、発見したダンジョンバスターは一夜にして英雄になれる。
あのSSランクのシロー・ヤマダも鉱山を発見してA+ランクに成り上がったのだ。
「く、くくくくくっ!
ついに来たぞオレが成り上がるときが!!」
ダンジョンを進むに従い、陣の予感は確信に変わる。
なぜならモンスターが出てこないのだ。
これもスペシャルなダンジョンの特徴である。
「は、ははっ!」
ダンジョンの最奥、数十メートルはある巨大な水晶が折り重なって出来た部屋。
そこに存在する物体をみて、掠れた歓声を上げる陣。
自分の目が信じられない。
宙に浮かぶオーブは白銀。
「こ、鉱山だ!!」
日本国内に存在する鉱山は現時点で1つだけ。
コイツの権利を大企業にそのまま売ったとしても数十億円の価値になるだろう。
「い、いただきだっ!!」
目を血走らせ、白銀のオーブに手を伸ばすジン。
……ズドオンッ!
オーブに手を触れた瞬間、とてつもない衝撃が陣を襲い……彼の意識はそこで途切れた。
*** ***
「ギガファイア!!」
ズドンッ!
レミリアの放った極大魔法がダンジョンの部屋ごとボスモンスターを焼き尽くす。
「エネルギーシールドLV20!」
爆炎の余波をシールドで受け止め、威力が逃げないようにする。
「ま、ざっとこんなもんね!」
数々の”固有スキル”を使いこなす彼らにとってAランクダンジョンなど障害にすらならない。
レミリアの極大魔法一発で事足りた。
「ねぇねぇ、褒めなさいよぉ~!」
「まったく……」
もうアラサーだというのに、ふたりきりの時は子供っぽく甘えてくるレミリア。
仕方ないので優しく頭を撫でてやる。
だがすぐに、ベテランダンジョンバスターの顔に切り替わる。
「これで3つ目か……さすがに多すぎるな」
真剣な表情になったシローを見て、レミリアも表情を引き締める。
「シローはあの噂信じてるの?」
「オリジナル鉱山におけるスキルポイント大量喪失事件……それに伴う上位ダンジョンの出現増加か? 低レベルなゴシップだな」
「だが、ダンジョンに関して私たちが知っている事は少ないんだ」
「まあね~」
何故ダンジョンが出現するのか。
中に生息しているモンスターはどこから来たのか。
そもそも”スキルポイント”とは何なのか?
「あたしが元居た世界とも全然違う」
レミリアの故郷は魔法が発達した世界だった。
エーテルと呼ばれる魔法元素を元に体系化された魔法文明。
だが、こちらの世界にそのようなものは存在しない。
なのに、ダンジョンの中ではレミリアの世界の物とは異なる魔法が使えるのだ。
「リーサたんに聞いてみるのもいいかもね」
自分と同じ転生者で獣人族。
かなり”近しい”世界から転生した可能性もある。
「それに……」
「それに?」
最近気になることがある。
自分たちのスポンサーに関係する事なので、軽率に発言は出来ないが……。
「じつはね、シロー……」
ドンンッ!!
レミリアが何かを口にしようとした時、大きな衝撃が坑道全体を揺らす。
「なんだ!?」
「シロー! ダンバスアプリが!」
珍しく慌てた様子のレミリアがダンジョンバスターアプリの画面を指さす。
「くっ……!?」
新(新た)に出現したダンジョンのランク……SS+。
ダンジョンの脅威度を示す魔法陣が漆黒に染まっている。
「”災害”クラスだと!?」
世界でも数年に一度観測されるかされないかと言う最凶レベルのダンジョン。
それがこの工事現場に出現したのだ。
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