32 / 35
第5章 俺達だけが知っている中盤の急展開
第5-7話 二人目の四天王はキンクリです(後編)
しおりを挟む(嫌だ嫌だ! 死にたくない!)
グランリッチであるマッディの手のひらから膨大な魔力がほとばしる。
アレが直撃すれば自分の身体などチリ一つ残らないだろう。
有力貴族の跡継ぎとして生を受け、魔王の降臨が迫っているからと勇者候補として育てられてきたレナード。
家とスポンサーの期待を一身に受け、努力してきたオレサマの英雄譚がこんな所で終わって良いはずがない……!
それも、ぽっと出の田舎勇者ごときに勇者候補筆頭の栄誉を攫われるなど……!
くそっ、くそおおおおおおおっ!!
どんなに歯を食いしばっても、目の前に迫った残酷な運命を変えることはできない。
覚悟を決めたレナードが目を閉じた瞬間。
ドンッ!
「な、何じゃ!?」
「わ、ワシの腕がああああっ!?」
閃光一閃。
空から降り注いだ光がマッディの右腕を吹き飛ばす。
すたっ
「勇者レナード殿、御無事ですか?」
「なっ!? 聖槍のルクア!?」
さらさらとそよ風になびく黒髪。
空を覆っていた密雲が途切れ、差し込んだ日光が傷一つないラメラー・アーマーに反射しキラリと光る。
「行くよ! 神狼!」
ウオオオオンッ!
世界の救世主と呼ばれている勇者候補筆頭、聖槍のルクア。
聖槍ゲイボルグの穂先は金色に輝き、強力なエンチャント魔法が掛かっている事がわかる。
彼は傍らに控える銀狼に一声かけると、右腕を吹き飛ばされ片膝をついているマッディを横目に見ながら大きくジャンプした。
*** ***
(う、うおおおおおっ!?)
(今の登場シーンは完璧だったよっ! わたし、本当に伝説の勇者みたい!!)
(わふわふわふ~~んっ!!)
勇ましく駆けだしたルクアとポチコ。
尻餅をついて腰を抜かしているレナードからは見えないが、彼女達の表情は緩み切っていた。
志を同じくする勇者候補の危機に、さっそうと駆けつける黒髪のイケメン勇者と美しい神狼。
そのまま伝説の英雄譚の挿絵に使えそうなシチュエーションに彼女らのテンションは上がりっぱなしだ。
(えっと……最初はわたしたちの力を見せつけるように雑魚掃除だよねっ!)
「フォーメーション、ミストラル!!」
ばんっ!
ぐぐっ、と聖槍ゲイボルグ(イミテーション)を握りしめたルクアは、今適当に考えた作戦名を叫ぶとポチコの背に両手をつくと反動で大きく右にコースを変える。
彼女の意図を正確に把握し、頷いたポチコもその反動で左側へ。
「ナ、ナンダト!?」
そこには、主君を助けるため敵を包囲殲滅しようと展開していた骸骨戦士の大群がいた。
まさか少ない戦力を分散するとは思っていなかったのか、彼らの動きが乱れる。
「”認識改変”……部分解除!」
「行け! ポチコ!」
どこからか男の声が聞こえた瞬間、驚くべきことが起きた。
ズモモモモモ……
ガオオオオオオオンンッ!!
二回りほど巨大化したポチコは大きく口を開き、漆黒のブレスを吐きだす。
ブワワワッ!
闘気と魔力が混じり合った破壊の濁流は、左翼の骸骨戦士たちを跡形もなく吹き飛ばす。
「やるねポチコ、わたしも負けないぞっ!」
「究極奥義、ルクアスクライド・絶っ!」
ズガアアアアアアアアアッ!
ルクアが右手に構えた槍が纏う黄金の闘気がひときわ輝き、闘気の渦が右翼の骸骨戦士たちを粉々に粉砕する。
「……ふむ、やはりポチコの方が見栄えするな」
「ええ~っ!? ラン、ひどいっ!」
わふん!
数百体はいた骸骨戦士を殲滅し、ルクアたちは上機嫌だ。
*** ***
「ば、馬鹿な……あれだけの敵を一撃でだと!?」
腰が抜けたままのレナードは、目の前で繰り広げられた勇者候補筆頭の戦いぶりに改めて衝撃を受けていた。
(勇者の力も勿論だが、あの狼はいったい?)
(それに……あの男だ)
レナードの視線が岩陰に身を隠すランジットの方を向く。
勇者候補ルクアに付き従う目立たない付与魔術師。
勇者ルクアのサポートとは名ばかりの、売名目的のつまらぬ奴と思っていたのだが。
自分の事を棚に上げ、ランジットを睨みつけるレナード。
(ヤツはただの付与魔術師ではない?)
(それにこの違和感は……はっ!?)
レナードの視線がランジットとルクアを交互に行き来する。
その瞬間、天啓なのか悪魔の囁きか……レナードの脳内に電流が走った。
*** ***
(キヒヒヒッ……いったん仕上げじゃな)
()
尻餅をついたままポカンと虚空を見上げるレナード。
彼の瞳の輝きを確認したマッディは、満足そうに笑みを浮かべる。
「……ふん! たかが骸骨戦士どもを倒したくらいでいい気になるなよ、小僧?」
ブアッ!
どこか芝居が掛かった仕草でローブを脱ぎ捨てるマッディ。
ローブの下の貧弱な身体には、邪悪な紋様が描かれた魔獣の骨が絡みついている。
「あれは……魔獣ベヒーモスの骨っ!?」
「左様……ワシが若い頃に使役した魔獣でな?
ワシの魔界一と言われる魔力と永遠の命を支えているのじゃよ!」
「そこのヘルハウンド風情で敵うかのぉ?」
ブアアアアアアアアアアアアアアッ!
マッディの全身から、膨大な魔力が立ち上る。
*** ***
「ば、馬鹿なっ! これほどの魔力……まさか魔王すら超えるのか!?」
雑魚敵を一掃された後、奥の手を見せる四天王。
吹き上がる強大な魔力に焦りの表情を浮かべる勇者ルクア。
……うん、演出としては安直だが効果は完璧である。
魔王フェルーゼからマッディの秘密を聞いていた俺にとっては予想の範疇だ。
もちろんルクアとポチコに対策は授けてある。
「ルクア、ポチコ! いったんヤツから距離を取れっ!」
「了解っ!」
ガオンッ!
マッディはフェルの耐性偽装に気付いている。
ならば、ルクアの事も感づいていると考えるのが自然だろう。
俺たちはそいつを逆手に取る!
「……ヘルモード459」
ブオン!
「くっ!」
マッディの左手から放たれた漆黒の魔力球を、ギリギリでかわすルクア。
「無駄じゃ無駄じゃ! ソイツは地獄の底まで付いてゆくぞぉ!」
ギュンッ!
「!?」
魔力球は空中で鋭角ターンすると、がら空きの背中を狙う。
しまったという表情を浮かべるルクア。
だが、流石に勇者ルクアである。
とっさに身体をひねり、右腕に持った聖槍ゲイボルグの柄を魔力球の方に向ける。
バッキイイインンッ!
かろうじて魔力球を迎撃する事には成功したが、闘気を込めた穂先に比べ、柄の部分は脆い。
あえなく二つに折れ飛ぶ聖槍ゲイボルグ。
「ああっ!? ボクの武器がっ!?」
「ふん、ここまでのようじゃの!」
ズルッ!!
「なにっ!?」
一瞬生じたスキを見逃すほど甘くない。
吹き飛ばしたはずの右腕を一瞬で再生させたマッディは、間髪入れず巨大な魔力球を放つ。
「ルクア!?」
体勢を崩し、丸腰のルクア。
必殺のタイミング……マッディの醜悪な口元が、笑みを形作るのが見えた。
……さて、そろそろいいか。
俺は勇者候補レナードとそのパーティメンバーが呆然と戦いの様子を見つめていることを確認すると、とっておきのスキルを発動させる。
「ルクア! 剣を使うんだ!!」
(”属性反転”……ルクアの攻撃属性を男性勇者に!)
ここ数か月ひそかに練習していた俺の切り札。
以前は使うのを躊躇していたが、今後の事を考え効果範囲を局限して発動できるよう練習したのだ。
「ラン!!」
とっさに抜き放った聖剣アスカロン(本物)が蒼く輝く。
見た目はエンチャント魔法だが、ルクアの攻撃属性を一時的に男性勇者に変化させる。
「いっくぞ~っ!」
「ルクアスラッシュ!!」
ドンッ!
聖剣から放たれた闘気の奔流が、魔力球を吹き飛ばす。
「!!」
ブオオオオオオッ
叫び声を上げる暇もなく、ルクアスラッシュはマッディを飲み込み……。
ズガアアアアアアンッ!!
直径数メートルのクレーターを残し、四天王第三柱であったマッディの姿は跡形もなく消え去ったのだった。
『ま、マッディ様がヤラレただと……に、逃げろ!』
自分たちの主人が一撃で斃されたことに驚いたのか、散り散りになって逃げ去るアンデッド軍団。
「……ふぅ」
魔界の生き字引と言われたグランリッチの最期。
いささかあっけない気もするが、属性の反転は身体に大きな負担がかかる。
ヤツの防御力自体が大きく落ちていたのかもしれない。
「う、うおおおおお……ダンジョンで拾った剣にこんなパワーが?」
「もしかして凄い武器なの!?」
いや、その剣はフェルが用意してくれた聖剣アスカロンでな?
むしろお前がいつも使っている槍の方が偽物なんだが。
聖剣を掲げ感動に打ち震えているルクアに歩み寄る。
まあルクアの二つ名的に、イミテーションな聖槍も修理してやるか……。
「ん?」
いつの間にかレナードたちの姿が消えていた。
俺たちに助けられたことがそんなに悔しかったのだろうか。
まあ、幾ら奴が帝国貴族でも四天王を二人も倒したルクアの対抗馬にはなりえないだろう。
それより、次はフェルの番だ。
俺は通信魔法をフェルに繋ぐのだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最弱ジョブ『村人』を極めたらなんでも転職出来る様になった件(仮)
こうじ
ファンタジー
とある田舎に住んでいるロイスは平穏無事に生活する事が夢のちょっと変わった青年。その夢を実現する為には18歳の時に行われるジョブ進呈式で最弱のジョブである村人を手に入れるのが必要だった。しかし前日に不思議な声が聞こえた事で運命は一変する。その声の主はジョブの女神で愛し子を探していた、という。その条件は女神の声が聞こえ更に無欲である事。その条件に当てはまってしまったロイスは女神の愛し子に選ばれる事に。『村人としての生活を保証してくれるのならば別に良いけど?』『オッケー、村人として勝ち組なジョブ&スキルをあげるわ♪』こうしてロイスは『最弱にして最強な村人』というとんでもない人生を歩む事になる……。
※タイトルは仮です、途中で変える可能性もあります。
羅天絞喰
D・D
ファンタジー
運命
災厄に蔑まされる人々。運命に定められたら自分で変えることはできない。
が、そんな絶望に染められた者たちを、決められたレールの上でしか生きられない、そんな状況に抗っていく。
終わりとかは決めていません。
それなりに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる