9 / 35
第2章 俺だけが知ってしまった魔王の秘密
第2-4話 魔王様の悩みを聞いてみる
しおりを挟む「まったく……余がちっちゃいからと侮ってくれますよね。 闇の炎で滅しますよ?」
「大体っ、魔王なんかになりたくなかったのに……幼馴染のシュベちゃんが勝手に応募するから」
「いくら余が魔界の始祖に繋がる血筋だとは言ってもですね、そんなのは道楽で異界征服に出てる放蕩兄者にやらせればいいのですっ!!」
ぽふぽふっ!
押さえてきたストレスが爆発したのか、うさちゃんクッションをポコポコとグーパンする魔王フェル。
見た目はとても可愛らしいが、放たれる言葉はとても物騒で……しかも彼女のパンチはヤバそうな粒子を纏っている。
気の抜けた表情をしていても、あのクッションの耐久力は20億とかあるに違いない。
素材研究のため持ち帰りたいな。
目の前に全人類の敵である現魔王がいて……可愛く愚痴をこぼしている。
そんなありえない光景を前に思わず現実逃避をする俺。
だが、目の前に広がる現実は待ってくれなくて。
「……こほん。 失礼しましたランさん」
ひと通りクッションに八つ当たりして満足したのだろう。
彼女は居住まいを正すとベッドを整え、俺を部屋の真ん中に置かれたソファーに誘う。
「ふふっ……この魔界紅茶、最上級品なんですよ」
最高に座りごごちの良いクッション。
魔王様自ら淹れた紫色の紅茶を前に、ゆっくりと話し始めるフェル。
「それでは改めまして……余が当代、始祖から数えまして157代目の魔王フェルーゼです」
はい知ってました。
「先ほどの愚痴を聞かれてお分かりになったと思います……余は魔王などになりたくなかったのですが、幼馴染の悪戯によって魔王にされてしまいました」
「余の家柄的に断ることが出来なくて……」
可愛らしい顔に憂慮の表情が浮かぶ。
勇者になりたいのに耐性に阻まれて”偽装”勇者をしているルクアと、魔王になりたくないのにその地位に就かされたフェル。
当代の魔王と勇者はお互い悩みを抱えているようだ。
「実家の目もありますので余としては世界征服の準備を進めねばなりませんが……正直これっぽっちも興味ないですし、世界征服などしたら美味しいスイーツ屋さんも滅されてしまうじゃないですか!」
「それは魔界含めた全世界の損失!! 許されるはずありません」
「そこで余は一計を案じ……魔王城を含めた各地ダンジョンの一斉補修を当代で行うという事にして時間を稼いでいます」
なるほど……ギルドの記録で見たことがある。
魔王が降臨して半年……過去の記録に比べて魔王軍の活動は低調で、そのかわりダンジョンの封印は厳重だと。
そんな事情があったとは……ん? それでは”空詠の塔”ではなぜ?
魔王がそういう方針を取っているのなら、なぜあんな序盤の塔に最上位の中ボスが配置されていたのか。
俺の疑問は、続けて放たれたフェルの言葉で氷解する。
「ですが……先代から仕えている四天王の一部が余を侮っておりまして、魔王軍を勝手に動かしたのです」
「幸い、”空詠の塔”のレッドドラゴンは勇者候補により退治されたのですが」
それやったの、幼馴染の偽装勇者。
事実を言うと色々とややこしくなりそうなので黙っておく。
「余としては、真の魔王候補である兄者が戻ってくるまで世界征服を遅らせ、時間稼ぎしたいのです」
「ですが余自慢のこの可愛らしい容姿……どうしても上位連中には舐められてしまいますので、なんとか恐怖政治を敷いて従わせたい」
「恥ずかしながら余は妙案を持っておらず……興味深いスキルをお持ちのランさんに相談したいのです」
「兄者は快楽主義者で相対的にレベルの低いこの世界には興味ありませんから、兄者を魔王にねじ込めば数百年単位で平和な時代が訪れるでしょう」
一息に説明を終えたフェルは、紅茶をひとくち味わう。
なるほど……。
俺は彼女の言葉を脳内で反芻する。
世界征服などしたくない現魔王。
時間稼ぎをし、彼女の兄が戻ってくれば……魔王軍は世界征服を目的としなくなる。
人類との間に講和を結ぶことも可能だろう。
これはもしかして、大チャンスなのでは?
愛らしく世界征服をしたくない魔王様に、民衆の支持とやる気はあっても魔王を倒せない勇者様……。
俺が上手く立ち回ることで、時間稼ぎをすることは十分に出来そうだった。
「そういうことなら……ぜひ俺に手伝わせてくれ」
「!! やった! ありがとうございますっ!」
「不肖第157代魔王フェル、お友達として……ランさんに絶対の信頼を捧げますっ!」
ぱあああっ
彼女の笑顔と共に、俺の左腕に不思議な紋様が浮かび上がる。
「これでランさんはいつでも余のプライベートルームに転移できますので……他にもいろいろと相談させていただきます!」
なでなで
「ふわわっ!?」
そのあまりに可愛らしい笑顔に、思わず俺は魔王様の頭を撫でてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる