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第2章 俺だけが知ってしまった魔王の秘密

第2-4話 魔王様の悩みを聞いてみる

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「まったく……余がちっちゃいからと侮ってくれますよね。 闇の炎で滅しますよ?」
「大体っ、魔王なんかになりたくなかったのに……幼馴染のシュベちゃんが勝手に応募するから」
「いくら余が魔界の始祖に繋がる血筋だとは言ってもですね、そんなのは道楽で異界征服に出てる放蕩兄者にやらせればいいのですっ!!」

 ぽふぽふっ!

 押さえてきたストレスが爆発したのか、うさちゃんクッションをポコポコとグーパンする魔王フェル。
 見た目はとても可愛らしいが、放たれる言葉はとても物騒で……しかも彼女のパンチはヤバそうな粒子を纏っている。

 気の抜けた表情をしていても、あのクッションの耐久力は20億とかあるに違いない。
 素材研究のため持ち帰りたいな。

 目の前に全人類の敵である現魔王がいて……可愛く愚痴をこぼしている。
 そんなありえない光景を前に思わず現実逃避をする俺。

 だが、目の前に広がる現実は待ってくれなくて。

「……こほん。 失礼しましたランさん」

 ひと通りクッションに八つ当たりして満足したのだろう。
 彼女は居住まいを正すとベッドを整え、俺を部屋の真ん中に置かれたソファーに誘う。

「ふふっ……この魔界紅茶、最上級品なんですよ」

 最高に座りごごちの良いクッション。
 魔王様自ら淹れた紫色の紅茶を前に、ゆっくりと話し始めるフェル。

「それでは改めまして……余が当代、始祖から数えまして157代目の魔王フェルーゼです」

 はい知ってました。

「先ほどの愚痴を聞かれてお分かりになったと思います……余は魔王などになりたくなかったのですが、幼馴染の悪戯によって魔王にされてしまいました」
「余の家柄的に断ることが出来なくて……」

 可愛らしい顔に憂慮の表情が浮かぶ。

 勇者になりたいのに耐性に阻まれて”偽装”勇者をしているルクアと、魔王になりたくないのにその地位に就かされたフェル。
 当代の魔王と勇者はお互い悩みを抱えているようだ。

「実家の目もありますので余としては世界征服の準備を進めねばなりませんが……正直これっぽっちも興味ないですし、世界征服などしたら美味しいスイーツ屋さんも滅されてしまうじゃないですか!」

「それは魔界含めた全世界の損失!! 許されるはずありません」
「そこで余は一計を案じ……魔王城を含めた各地ダンジョンの一斉補修を当代で行うという事にして時間を稼いでいます」

 なるほど……ギルドの記録で見たことがある。
 魔王が降臨して半年……過去の記録に比べて魔王軍の活動は低調で、そのかわりダンジョンの封印は厳重だと。

 そんな事情があったとは……ん? それでは”空詠の塔”ではなぜ?
 魔王がそういう方針を取っているのなら、なぜあんな序盤の塔に最上位の中ボスが配置されていたのか。
 俺の疑問は、続けて放たれたフェルの言葉で氷解する。

「ですが……先代から仕えている四天王の一部が余を侮っておりまして、魔王軍を勝手に動かしたのです」
「幸い、”空詠の塔”のレッドドラゴンは勇者候補により退治されたのですが」

 それやったの、幼馴染の偽装勇者。
 事実を言うと色々とややこしくなりそうなので黙っておく。

「余としては、真の魔王候補である兄者が戻ってくるまで世界征服を遅らせ、時間稼ぎしたいのです」
「ですが余自慢のこの可愛らしい容姿……どうしても上位連中には舐められてしまいますので、なんとか恐怖政治を敷いて従わせたい」

「恥ずかしながら余は妙案を持っておらず……興味深いスキルをお持ちのランさんに相談したいのです」

「兄者は快楽主義者で相対的にレベルの低いこの世界には興味ありませんから、兄者を魔王にねじ込めば数百年単位で平和な時代が訪れるでしょう」

 一息に説明を終えたフェルは、紅茶をひとくち味わう。

 なるほど……。
 俺は彼女の言葉を脳内で反芻する。

 世界征服などしたくない現魔王。
 時間稼ぎをし、彼女の兄が戻ってくれば……魔王軍は世界征服を目的としなくなる。
 人類との間に講和を結ぶことも可能だろう。

 これはもしかして、大チャンスなのでは?

 愛らしく世界征服をしたくない魔王様に、民衆の支持とやる気はあっても魔王を倒せない勇者様……。
 俺が上手く立ち回ることで、時間稼ぎをすることは十分に出来そうだった。

「そういうことなら……ぜひ俺に手伝わせてくれ」

「!! やった! ありがとうございますっ!」
「不肖第157代魔王フェル、お友達として……ランさんに絶対の信頼を捧げますっ!」

 ぱあああっ

 彼女の笑顔と共に、俺の左腕に不思議な紋様が浮かび上がる。

「これでランさんはいつでも余のプライベートルームに転移できますので……他にもいろいろと相談させていただきます!」

 なでなで

「ふわわっ!?」

 そのあまりに可愛らしい笑顔に、思わず俺は魔王様の頭を撫でてしまったのだった。
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