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第2章 俺だけが知ってしまった魔王の秘密

第2-2話 旅先で可愛い女の子に噛まれる

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「フム……この弾力、歯ごたえ……100点満点ですね」

「…………」

 俺の二の腕を甘噛みしていた少女はチクリと犬歯で軽く歯ごたえを確かめた後、満足そうな表情で口を離す。

 大胆に露出された肩から流れ落ちる美しい銀髪。
 うっとりと細められたややタレ気味の両目からは印象的な黄金の瞳が覗く。
 ピコピコぶんぶんと振られるモフモフのケモミミと尻尾。
 薄緑のワンピースの胸元はそのボリュームを強調している。

「んん……えっと、君は?」

 あまりに属性山盛りな美少女の出現に困惑していると、彼女は”はっ”とした様子でその桜色の唇を開く。

「こほん……失礼しました。
 あまりに魅力的な”二の腕”だったので思わず捕食してしまいました」
「余の名前は……」


 ぐううううううっ!


 礼儀正しく一礼した少女は名乗ろうとしたのだが……。

「くくっ……店員さん、さっきのをもう一つ!」

 盛大に鳴り響いた腹の音に、恥ずかしそうに頬を染める少女があまりに可愛らしかったので、俺はこの腹ペコ甘噛み少女にスイーツをおすそ分けすることにしたのだった。
 ……俺はまだ二十歳だから事案じゃないぞ?


 ***  ***

 はむはむはむ……

 店員さんが運んできてくれたスペシャルアップルパイ (略)を一心不乱に頬張る銀髪ケモミミ少女。
 その様子を微笑ましく眺めながら、芳醇なスイーツマンドレイクの甘味を堪能する俺。

 一口噛みしめるたび、しびれるほどの甘味が全身に広がる……これは素晴らしい!
 ルクアのヤツに自慢してやろう。

 手柄を立てた勇者候補として、王宮でいい飯を食っているであろう幼馴染をからかうネタが出来たとほくそ笑む。

「フムフム……スイートマンドレイクの甘味線を熟成し発酵させることで魔界無双な甘みを生み出していると……ぐっじょぶです」
「余が”認定者”なら、スイーツマスターの称号を下賜する所ですね……はむはむ」

 一口食べては、アップルパイの出来栄えに感激する少女。
 やけに古風な表現をする子だな……良い所の出身なのかもしれない。

「はふぅ……堪能しました」

 少女はあっという間にアップルパイを完食すると、満足げな吐息を漏らす。

「少々とこでしたので、助かりました」
「申し遅れましたが、余の名前はフェルーゼ。
 フェルと呼んでください」

 頬についたクリームをナプキンで拭うと、丁寧にお辞儀をする。

「どういたしまして、フェル」
「俺の名前はラン」
「仕事の休みを利用して一人旅をしているんだが、スイーツはひとりで食べるより一緒に食べた方が美味しいからな。 俺も堪能したよ」

「ふふ……同感ですランさん」

 俺の言葉に柔らかく微笑むフェル。
 礼儀正しいこのケモミミ少女に俺は好印象を抱いていた。

 何を隠そうポチコを溺愛している俺としては、ケモミミっ子というだけで好感度爆上がりである。
 旅先で知り合ったのも何かの縁だし、良かったら明日もスイーツ巡りをしないか?

 俺がそう声を掛けようかと考えていると、フェルは居住まいを正し、真面目な表情で話し始める。

「お世話になりついでで恐縮なのですが……」
「所作から推測するに、冒険者ギルドの方とお見受けします」

 へぇ!
 フェルの観察眼に驚く俺。

 俺はギルドの事務職員であり、冒険者登録はしていないが特殊なレアスキルを持っている。
 やはり”匂い”で分かるものなのだろうか?

 フェルの”お願い”は続く。

「実は余の屋敷で厄介な問題が発生しまして」
「戦闘職ではなく、特殊なスキルをお持ちの方を探していたのです」

「お礼はしますので、屋敷までご足労頂けないでしょうか?」

 なんと!
 俺が戦闘スキル以外を持っていることを見抜いたのか?

 この子、只者じゃない……わずかに警戒心を抱いた俺は、フェルの様子を改めて観察する。

 その立ち振る舞いにも纏う魔力にも特段怪しい所は見られず……これでも人を見る目には自信があるのだ。
 下心が無いと言えばウソになるが、「困っている女の子がいたら助けてあげなさい!」とあの女性《ひと》も言っていた。
 彼女の言いつけを守るべく、俺はこの少女を助けてやることに決めた。


 ***  ***

「ありがとうございます、ランさん!」
「余の屋敷はこちらになります」

 俺が承諾の意を伝えると、ぱっと花の咲くような笑顔を浮かべたフェルは俺の手を取ると通りへ駆け出す。
 彼女の力は意外に強く、足も速い子だ。

 手を引かれるままに俺はレグウェルの街の外に出て……。

 ん?
 手近な大木の木陰に引き込まれたことに疑問を持つヒマもなく……。

「それじゃあこの辺で……”SSゲート”!!」

 ブアッ!

「!?!?」

 フェルと俺を白銀に輝く魔法陣が包む。
 こ、これは人間には習得できないと言われる超長距離転移魔法っ!?

 バシュン!!

 あっという間に転移魔法の術式は完成し、俺の身体は光に飲まれた。


 ***  ***

「ふぅ、おまたせしました」
「ここが余の”屋敷”です」

「…………」

 目の前に広がるのは、幅数百メートル高さ数十メートルはあるだろう巨大な城壁。
 材質不明の壁は漆黒に染められており、何の意味があるかは分からないが巨大な角が城壁の中腹から縦横無尽に生えている。


 びしゃーーーっ!


 空を埋め尽くす真っ黒な密雲からは絶え間なく稲妻が轟き……遥か高みには無数のドラゴンが舞っているのが見える。

「こ……ここはまさか……?」

 文献などで見た事がある……俺がその言葉を口に出す前に。

 こくり、と可愛く首を傾げたフェルの口から撃ち出されたのは。

「ここが余の屋敷……魔王城です」

「や、やっぱりかあああああああっ!?」
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