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第5章 特A科クラスの期末試験

第5-5話 エージェント少女と魔導研究所(前編)

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 色々あった実技試験も終わり、特A科クラス全員にS評価と勲章を頂き、僕には特別ボーナスが入った。

 頑張った生徒たちに豪華な焼肉をごちそうした後(財布が大破しました)、僕たちはのんびりした時間を過ごしていた。

 夏季休暇が目前に迫るこの時期、実家に帰省する者、旅行を計画する者など、どこか浮ついた空気が学院内に流れている。


 僕も仕事は午前で終わり、午後はどこかへ釣りにでも出かけようと思っていたのだが……。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら廊下を歩いていたところを、イレーネ教官に空き教室に引っ張り込まれて今に至る。
 ちなみに、色っぽい話ではないです。


「くくっ、オズワルド元教官は、最終的には依願退職という事になった」

「奴は本家から、「学生を手に掛けようとした外道」、「担任の学生に対するパワハラ」を行ったという事で勘当され傷心の旅に出たらしい」

「奴の暴走気味のふるまいには以前から少々困っていたところだ……助かったよセシル教官」

「い、いえ……クラスの生徒たちが頑張ってくれただけなんで」

 くふふ、という感じで意地の悪い笑みを浮かべるイレーネ教官。

 もしかして、”大貴族のオズワルドに直接指導することは難しいから”こうなるように誘導されたのかも……僕は空恐ろしい予感に身体を震わせた。

「……まあ、彼の事はどうでもいいんだが……彼が着けていたこの”腕輪”だ」

 イレーネ教官の視線の先には、砕けた腕輪と、破壊された筒状の魔導器具が置かれている。

 前者はオズワルド元教官が実技試験の決勝戦で使ったマジックアイテム、後者は先日の自治領主反乱未遂事件で、犯人のレナードが上位魔獣を操るときに使っていた道具だ。

「解析したところ、両者から同じ魔導パターンが検出されてね」
「キミが聞いた”商社”と言う言葉……最近帝国や周辺国で暗躍している謎の犯罪組織……そいつのフロント企業じゃないのかという推測がされているんだ」

「そちらは軍や保安局に任せるとして……魔法士官学院ウチとしては、魔導サイドからの調査と対策を立てるべきだろう……」

「と、いうことで……国から予算を分捕ってきたので、ついに私の悲願! ”特殊魔導研究所”を立ち上げる事になったのだよ!」

 最初は淡々と話していたイレーネ教官だが、だんだんとその言葉に熱が入ってきて……最後にはダンッ! と椅子に足を乗せて高らかに宣言するまでになった。

 あぅ……そんなに足を上げるからタイトミニスカートから教官の下着が見え……ちょう子供パンツ(くまさん)だったのは、見なかったことにしてあげるのが優しさだろう。

「という事でセシル君、わたしの研究所の主研究員として頑張ってくれたまえ! 心配するな、超過勤務手当はちゃんと出るぞ!」

「ええええええええっ!?」

 なにが「というわけで」なのかはよく分からないが、強引なイレーネ教官により、僕は彼女の”特殊魔導研究所”の研究員としても働くことになった。


 ***  ***

「ううっ……イレーネ教官はちっちゃくてかわいいのに、あの迫力には勝てないんだよな……まあ、すぐ夏季休暇に入るから研究に割く時間は大丈夫だけど……」

 きっちりきっかり契約書まで書かされた僕は、ため息をつきながら学院の廊下を歩く。

「どうしたんですか、セシルさん。 ため息をつきながら歩くなんて幸せが逃げますよ……なるほど、いつもそうしているから”おひとり様”なんですね」

 流れるような毒舌とともに現れたのは、僕のクラスの教え子、ルイことルイースティア・セブンスだった。


「なるほど、イレーネ教官に傍若無人に超過勤務を申し付けられたと……」

 廊下で鉢合わせした彼女に軽く事情を話すと、やけに興味を持って食いついてきたルイに詳細を説明するべく、僕たちは学生食堂に移動してきていた。

 夏季休暇前の昼下がり……食堂にいる生徒の姿はまばらである。

「ふむ……セシルさんは実はドMの素養があると推測します……むしろご自分で引き寄せたのでは……?」

 紅茶とティラミスを楽しみながら、ナチュラルに当たらずとも遠からずなことを言うルイ。

 さすがに最近は暑いのか、長袖タイツ派のルイも半そで制服を着ており、タイツではなく白いクルーソックスを履いている。
 彼女の生足は珍しいので新鮮だ。

「ドMって……確かに踏まれるのは嫌いじゃないけど」

「…………ハレンチです」

「はっ、い、いまのは無しでっ!」

 思わず自分の性癖を披露しそうになり、慌てて否定する僕。


「ティラミス追加で手を打ちましょう……」
「えっと、セシルさん。 その研究、わたしも手伝って良いですか?」

 賄賂を要求するルイに苦笑してケーキを追加注文していると、思わぬことを提案してくれるルイ。

「え? そりゃあ魔導に関して天才的なルイが手伝ってくれると助かるけど……授業もあるし、いいのかい?」

「今年度のカリキュラムはほぼ理解しているので、問題ありません」
「一介の魔導士としても、大変面白そうです」

「……夏季休暇中は、一部”原隊”での仕事もあるので、不在になる時期もありますが」

 なるほど……魔導増幅が得意な彼女に手伝ってもらえれば、解析も捗るかもしれない。

「それじゃあ、頼めるかな? くれぐれも学業に無理のない範囲でね」

「はいっ……♪」

 そういって、年相応に微笑むルイの笑顔に、僕は思わず見とれてしまったのだった。
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