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第5章 特A科クラスの期末試験
第5-4話 実技試験と貴族クラス(後編)
しおりを挟む翌日……昨日の予選を勝ち抜いた8クラスによるトーナメント戦である。
配布された組み合わせ表を見ると、特A科クラスとHクラスは、決勝で当たるように組み分けされている。
多分、イレーネ教官のしわざだろうな……ヘタしたらどっちが勝つかで掛けているかも……。
思わずそんなことを考える僕なのだった。
決勝トーナメントはクラス対抗戦となるので、教官も参加して4対4のバトル形式で行われる。
実際に打撃や魔法を当ててしまうとヘタしなくても大ケガなので、会場を学院のグラウンドに移し、全員”演習装備”と呼ばれるボディスーツのようなものを着て戦う。
グラウンドには対魔法コーティングが施されているため、魔法の威力は大幅に減殺される。
また、相手に与えたダメージはボディスーツの耐久力に転化され、ダメージとして記録される。
全員のボディスーツの耐久力をゼロにしたクラスが勝ち抜けとなる。
「ということで、基本的には安全だけど、打撃の衝撃を完全に吸収は出来ないから気をつける事」
「あと、意外にボディスーツは破れやすいから、気を付けてね」
「これ、イレーネ教官から支給された、透けない素材のアンダーアーマー」
魔法学院らしく、対魔法、対魔導防御に特化しているボディスーツは意外に打撃に脆い所があり、当たりどころが悪いと破れてしまう。
「軍人たるもの、羞恥心を覚えているようだと極限状態では戦えない! 恥は捨てよ!」
という事らしいが、絶対ウソだと思う。
「うう、身体のラインがくっきりと……恥ずかしいですよセシル教官!」
「ハレンチです……作った人は地獄に落ちるべきかと」
「……あと、クレアさんとの格差社会で心が折れそうです」
「…………(精神滅却中)」
ぐぬぬ……この装備、参加者のメンタルをかく乱し、平常心で戦えない場合の訓練も兼ねているんだろうか……それより僕もこのボディスーツ着るんだけど……。
男のコレが破れてもだれも得しなくね……いや、もしかしてイレーネ教官あたりが喜ぶんだろうか?
思わず失礼な事を考える僕。
「と、とりあえず羞恥心と怒りは相手にぶつけよう……特A科クラス、出撃!」
「「「お、お~っ!」」」
いまだ顔の赤い生徒たちを連れ、僕たちはトーナメント戦に挑む!
*** ***
「ふぅ、いよいよ決勝か……」
あの後、僕たちは危なげなく勝ち上がり……決勝の相手は予想通りHクラスとなった。
Hクラスはクラス主席のジョンスともう一人の男子生徒が前衛、女子生徒の魔法使いと、オズワルド教官が後衛という構成のようだ。
戦い方を見るに、後衛のふたりがマジックアイテムや補助魔法で前衛を強化して突撃するといった、オーソドックスな戦い方をしている。
ただ、前衛のふたりが使う攻撃魔法がやけに強力だ……おそらく、魔力強化系のマジックアイテムを複数装備しているんじゃないだろうか?
今回のルールではアクセサリ装備に制限が無いとはいえ、強力なマジックアイテムは数百万センド以上するモノも多いはず……さすがに大貴族は違うなぁ。
「くくく……やはり上がってきましたね、特A科……平民をこれ以上調子に乗らせるわけにはいかないのでね!」
「おいお前達! ここで負けたら承知しないからな! しくじれば裏からお前たちの家に制裁があると思え」
「は、はいっ! 必ず勝ちます、オズワルド教官!!」
対峙するHクラスが気合を入れている……というより、オズワルド教官が生徒を脅しているように見えるな……全員が直立不動だ。
ん……いま一瞬おかしな魔導の流れが?
気のせいだろうか、オズワルド教官にもいつもの余裕がない……。
「みんな、気をつけろ……何か仕掛けてくるかもしれないぞ」
念のため、生徒たちに警告しておく。
「ふ、ふふふ……今日こそ特A科クラスに勝ち、平民に囲まれているかわいそうなバンフィールド家の令嬢、クレアさんにはHクラスに移籍してもらう……覚悟しろ!」
オズワルド教官に気合を入れられ、血走った眼をしたクラス主席……ジョンスがクレアを指さし変なことを言っている。
「ええ、まだそれ言いますか……いい加減ウザいんですけど……」
案の定、クレアが嫌そうな顔をしている。
なんだ? 全体的に向こうの雰囲気がおかしい……何か熱に浮かされたような、妙なテンションだ。
相手の出方に注意しないと……僕が気合を入れなおした瞬間、試合開始の笛が吹かれ、実技試験の最後を飾る決勝戦が始まった。
「いけ、お前達! ”フル・ブースト”!」
パアアアアアッ……!
試合開始と同時にオズワルド教官がSランクの補助魔法を使う。
全能力強化系の極大魔法!
それに呼応し、生徒たちが身に着けた腕輪が輝く……!
恐らく能力強化系のマジックアイテム……緒戦や準決勝では、ここまでの強化はしていなかったはず……能力強化を2重掛けし、出し惜しみなしで一気に決めるつもりか!
「ルイ! まずは能力強化系の解除だ!」
「了解です……”デバフ・ブレス”」
この状態で速攻されると押し切られる危険がある……まずは定石通り、能力強化魔法を解除して……僕はそう考え、ルイに指示したのだが。
「させぬわ! ”魔の腕輪”よ!」
その瞬間、オズワルド教官の右目が金色に輝き、右腕に装備した腕輪の宝玉が呼応する。
ブワアアアッッ!
パキインッ!
「な……わたしの”魔導フィールド”が!?」
オズワルド教官の腕輪から吹き出したオーラが、ルイの魔導フィールドを破壊する。
この魔導パターン……先日の反乱未遂事件で湖水地方の自治領主レナードが、魔獣を操るのに使っていた術式に似ているような……。
一体何が起きているんだ?
一瞬考えこんでしまった僕と、ルイの魔導フィールドが破られた衝撃で生じたスキを見逃してくれるほど、相手も甘くなかった。
「……相手のガードを叩き潰せ」
「おおおおおおおっ!」
「なっ!? 捨て身攻撃っすか!?」
ドガアアアアアアアッッ!
相手の前衛の一人が突撃し、カイに体当たりを行う。
一瞬で耐久力を削られたカイは、後ろ向きに吹っ飛ぶ……突撃してきた前衛と共に、気を失っているようだ。
「カイ君っ!?」
クレアの悲鳴がグラウンドに響く。
「くくっ、これで邪魔なガードは片づけた……後は若造、お前とひ弱な女子生徒が二人だ……もらったな」
「まあ、平民風情として、土下座して私の靴を舐めるのなら許してやらん事もないが」
加虐心たっぷりのオズワルド教官の言い草に、さすがに僕もむっとする。
というか、どう見ても正気を失っているように見えるんですが……。
「なっ! さっきから平民平民とうるさいですよっ!」
「貴族の誇りはみんなを見下すためにあるわけじゃない! 貴族の風上にも置けませんねっ!」
同じ貴族であるクレアには、オズワルド教官の言い草は許せないようだ。
怒りをあらわにするクレア。
「ふん、バンフィールド家の娘ごときが生意気な……すぐに片づけてやるから安心しろ」
「はあああああっっ!」
オズワルド教官はそういうと、複雑な術式を組み始める……。
な、アレは”ブラスト・フレア”!?
爆炎系の最上級魔法で、広域破壊用の極大魔法……とても対人で使うものではない……オズワルド教官は何を考えているんだ!
他の教官たちが詰めている審判席からも動揺の気配がするが、彼らが止めようにも間に合わないだろう。
ここは、とっておきを使うしかないか。
先日の反乱未遂事件で”魔導改変”(クラッキング)を使ったときから考えていた……魔力の流れが魔導術式で表せるなら、それを打ち消すこともできるはず。僕の魔導絶対感覚と組み合わせれば……!
僕はすべての魔導を反転させるように調整した術式を組んでいき……!
「発動! ”ゼロ・マテリアル”!」
「消えろっ! ”ブラスト・フレア”!」
オズワルド教官が極大魔法を発動させる瞬間、僕のとっておきがカウンターとなり発動する!
その瞬間、すべての魔法現象が停止した。
「へっ?」
「えっ、オプションビットのコントロールが!?」
かつんっ!
ルイのオプションビットがすべて地面に落下し、乾いた金属音を立てる。
コイツの弱点は、発動範囲を絞れないところだけど……。
当然のごとく、オズワルド教官の魔法も発動しない。
全ての魔導術式が霧のように消え去っていた。
「馬鹿な、馬鹿なああああっっ!?」
信じられないモノを見た表情で絶叫するオズワルド教官。
さて、こうなれば後は肉体勝負だ。
「よし、クレア……後は君の拳でトドメだ!」
「あっ、はい」
ドカバキッ!
魔法が使えない状態で、この中で一番の身体能力を持つクレアの拳により、異例づくめの決勝戦の幕は下りたのだった。
*** ***
学生相手に極大魔法を使ったオズワルド教官は他の教官陣に拘束され、連れて行かれた。
この暴走には彼の本家も怒っており、教官職を解任される可能性があるとのことだ。
「とりあえず、みんな優勝おめでとう。 カイも大きな怪我が無くて良かったよ」
「うっす! オレは頑丈さが取り柄っすから!」
「そ、それよりセシル教官が最後に使ったあれ、一体何なんですか!?」
「そうです、チートすぎます……詳細な説明を要求します」
さすがにこのまま終わらせてくれないか……僕はずずいっと迫るクレアとルイを引き連れ、ひとまず詳細を説明するため教室へ向かうのだった。
*** ***
「やれやれ……とんでもないことになったな」
「セシルが使った”魔法停止現象”も気になるが……」
イレーネの手元には破壊された腕輪……オズワルドが装備していたものだ……がある。
先日の反乱未遂事件の時もそうだったが……なにか得体の知れない勢力が暗躍しているのかもしれない。
早急に対策を立てる必要がありそうだ……イレーネは以前からの構想を実現させるべく、急ピッチで動き出すのだった。
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