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第4章 特A科クラス、遠征します
第4-4話 特A科クラスと領主の陰謀(中編)
しおりを挟む「通信波の送信先はこちらの方向だ……地図によると、この先には古代の遺跡……”半月の塔”がある」
「なるほど……悪者が潜んでいそうな、おあつらえ向きの場所ですね、セシル教官!」
僕たち特A科クラスは、湖から露天風呂を覗いていたと思われる盗撮犯……改造魔獣の魔導通信波を追い、温泉街の外まで移動してきていた。
通信波の送信方向は確かに”半月の塔”の方向を向いているが……この塔について情報を集めたところ、半月の塔は古代の超文明時代に作られた物見の塔で、数年前までは観光地として中に入ることが出来たが、近年傷みが激しく現在は立ち入り禁止になっているそうだ。
そんなところに普通の盗撮犯が潜んでいるはずはない……やはり反乱の疑いを掛けられている自治領主の手の者か?
今回のクエストの調査対象がいきなり引っかかったのだろうか……ならば慎重に行かないと……。
「ルイ、キミのスキルで、もう少し魔導通信波の痕跡を追えないか?」
「はい、任せてくださいセシルさん……!」
塔まで数キロの場所まで移動した僕たちは、いったん物陰に姿を隠すと、ルイのスキルを使いさらなる探査を試みる。
僕の中で実はもうバレバレなのだが、特殊部隊出身と思われるルイは、”オプションビット”を飛ばすことにより、より精密な魔導波の探査が出来る。
これは、単独行動が多い特殊部隊ならではのスキルと言えるだろう。
「いくら……いくらわたしがペッタンコだとは言え……乙女の敵、許せません……!」
「オプションビット!」
いくらか私怨の混じっている声をあげながら、彼女用に作られた魔導武器……オプションビットを作動させるルイ。
「そうだそうだ! あたしたちの裸は安くないぞ! やっちゃえ、ルイ!」
クレアがルイを煽る。
ヒュンッ!
彼女がいつも持ち歩いているポシェットから1機の”オプションビット”が飛び出すと、空高く舞い上がり……魔導探査用のフィールドを展開する。
「……魔導通信波の痕跡をキャッチ……サーチを開始します…………」
ルイのツインテールを留めているネコ型の髪止めが赤く光り、ルイが目を閉じる。
しっかりと通信波の跡を追えているようだ……さすがはルイである。
「……はい、わかりました。 やはり”塔”、その地下に大きな反応があります」
「先ほどのクサレのぞき魔獣は、そこから操作されていたとみて間違いなさそうです……抹殺すべきですね」
耳飾りの発光が止まり、目を開けるルイ。
セリフの端々から彼女の怒りを感じる……無表情なのが余計コワイ。
「よ、よし、よくやったぞルイ」
「やはり”半月の塔”か……僕たちの目的は情報収集だ。 くれぐれも慎重にいこう」
「了解っす!」
「わかりました、セシル教官! ……でも、盗撮犯がいたら10発殴っていいですよね?」
「(こくこく)」
……女性陣の怒りはどこかで発散させてやる必要がありそうだ。
*** ***
ここは”半月の塔”の地下の隠し部屋。
豪華な装飾と赤じゅうたんが敷かれた小部屋は、塔の地下に広がる広間に繋がっており、そこでは彼の部下と”切り札”が、”開戦”に向けて最後の準備を行っていた。
部下の報告を受けた湖水地方の自治領主であるレナードは、30年物の高級赤ワインが注がれたグラスを揺らしながら、ここ数か月の”成果”に満足の笑いを漏らしていた。
「ぐふふ……これでワシの目的を達成できるだろう」
でっぷりと太った腹を揺らしながら、邪悪に笑うレナード。
「帝国軍の内偵を警戒して温泉街を監視していたが……先ほどは思いがけずいい映像が取れたわい。 いつもはババアが多いからな……」
偶然取れたお宝映像……これはワシのコレクションにしよう……自治領主レナードはやはり好色な男だった。
それにしても……とある”商社”から手に入れた魔導器具……これがあれば上位魔獣であろうが操り放題とはな。
傲慢な中央政府の奴らに思い知らせてやるわい…………いつからだろうか、無難に隠していた自分の野心がこんなにも疼くようになったのは。
自治領主レナードは高級ワインを一飲みすると、身体の奥から湧きだしてくる狂おしい衝動にその巨体をゆだねていた。
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