32 / 39
■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)
第4-12話 悪徳理事長サイド・起死回生の金策を先回りで潰される
しおりを挟む「くそっ! 危ない橋を渡ることになるが、やるしかないのか……」
夕闇迫るラクウェル冒険者学校理事長室。
闇の組織から届いた提案が書かれた羊皮紙を前に、理事長ザイオンは頭を掻きむしりながら葛藤していた。
海都レンディルでのレイル暗殺未遂事件を、領主であるレンディル家に告発されたザイオン。
築いてきた人脈と資産を駆使し、何とか冒険者学校連盟の捜査をかわし続けてきたのだが、ついに限界が訪れようとしていた。
王都への召喚と査問会の開催が決定され、そこではラクウェル冒険者学校の理事長に就任した経緯も
もう一度洗い出されることになっていた。
証拠は極力隠滅したのだが、連盟本部には凄腕の尋問スキル持ちも存在する……そうなったら私は破滅だ。
どうやってこの窮地を乗り切るか、答えの出ない自問をザイオンは繰り返していたのだが。
取引先である闇の組織から届いた"提案"は、彼を戦慄させるのに十分だった。
「Sクラスモンスターである"フロストジャイアント"を人為的に操り、冬季を長引かせることでヒューベル公国に物資を高値で売りつける、だと?」
提案書には物資の仕入先、ヒューベル公国における販売先、妨害工作に対する対策などが事細かに記されている。
Sクラスモンスターを自在に操るスキルなど、ザイオンが知る限り存在しないのだが……利用してやっていると思っていた"闇の組織"が恐るべき力を持っていることに、いまさらながら気づかされたザイオン。
この陰謀に加担したことが露見すれば、死罪は免れない……だがこのままでは私は破滅である。
起死回生の一手……これはむしろチャンスなのではないか?
組織はこの陰謀のコントロール役を欲しており、参加すれば冒険者学校連盟の査問会は裏から手を回して潰すと確約されている。
典型的なギャンブルや株で破滅する人間の思考……普段のザイオンならば絶対に手を出さないであろう
提案だ……しかし不幸なことにそのときの彼に正常な判断力は残っていなかった。
震える手で魔道通信装置を"闇の組織"へとつなぐ……応答したのはいつもの陰気な連絡役ではなく、やけに丁寧な口調で話す紳士だった。
こいつは組織の幹部と言われている男ではないか!?
このクラスの人間に顔を繋ぐことができるとは、むしろ運が向いてきたのか?
破滅につながりかねない選択は、一時の高揚感に上書きされる。
こうしてザイオンは破滅に向かって踏み出してしまったのだ。
*** ***
「すばらしい功績だレイル殿!」
「貴殿は我がヒューベル公国の救世主だ!」
ここはヒューベル公国の宮殿。
別邸に続く山道をふさいでいた雪崩を、異常気象の元凶だったSクラスモンスターのフロストジャイアントごと吹き飛ばしたオレ達は、報告がてらヒューベル公国の宮殿を尋ね……いつのまにか公爵閣下に
謁見することになっていた。
謁見室の窓から見える空は、鉛色の雲に閉ざされた冬空ではなく、抜けるような蒼、初夏の空に変わっている。
「イヴァ殿もご助力感謝する……これほどの使い手がわが国にいたとは……ぜひ宮廷魔法使いの顧問になっていただきたい」
公爵閣下や大臣たち……さまざまな人たちがオレに賞賛の言葉をかけてゆく。
まるで伝説のモンスターを退治した勇者級冒険者のような扱いに、むずむずとどこか恥ずかしくなってくる。
役立たずの釣りスキルしか持たないと冒険者学校を放校されたオレがなぁ……。
思わず感慨にふける。
「ふふ、レイル。 良かったですね」
いつもの制服姿ではなく、謁見用に露出を抑えた清楚な白いドレスを着ているフィルが祝福の言葉をかけてくれる。
「ありがとう……フィルがこちらに来てくれたおかげだよ」
「わたくしもお祖母様に再会できましたし、お互い様ですわ」
自然にもれた感謝の台詞に、フィルは笑顔でウィンクすると、人差し指でオレの頬をぷにりと突く。
その優しい感触をオレは忘れることはないだろう。
「なるほど、4つに分かれた石版には下の世界、"ロゥランド"の魔術と言うものが記されていたのか……」
「別邸への道も開通したし、存分に見聞されるが良い」
改めて公爵閣下の許可をいただいたオレ達は、別邸の宝物庫に保管されている石版のかけらを確認する。
書かれている内容がやはり古代魔術の一部であることを再確認することができたオレ達は、石版の内容を含めヒューベル公国に存在する古代遺跡の研究を進めるというイヴァさんを残し、次の国へと旅立つのだった。
*** ***
「馬鹿な……フロストジャイアントが退治されただとっ!?」
闇の組織の誘いに乗り、ヒューベル公国との違法な物資取引を始めたザイオン。
順調に上がる利益に気をよくしていたのだが、突如入った知らせに驚愕する。
ヒューベル公国に冬をもたらしていたモンスターが退治されては、すべての前提条件が瓦解する。
それどころか、向こうの窓口となっていた大臣が失脚し、芋づる式に捜査の手がこちらに及ぼうとしていた。
「なぜだ! なぜ私だけこんな目に!?」
自分がしてきた数々の悪事を棚に上げ、ザイオンの悲鳴が深夜の理事長室に響き渡るのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~
なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆
「申し訳ないが、ウチに必要な機械を使役できない君はクビだ」
”上の世界”から不思議な”機械”が落ちてくる世界……機械を魔法的に使役するスキル持ちは重宝されているのだが……なぜかフェドのスキルは”電話”など、そのままでは使えないものにばかり反応するのだ。
あえなくギルドをクビになったフェドの前に、上の世界から潜水艦と飛行機が落ちてくる……使役用の魔法を使ったところ、現れたのはふたりの美少女だった!
彼女たちの助力も得て、この世界の技術レベルのはるか先を行く機械を使役できるようになったフェド。
持ち前の魔力と明るさで、潜水艦と飛行機を使った世界最強最速の運び屋……トランスポーターへと上り詰めてゆく。
これは、世界最先端のスキルを持つ主人公が、潜水艦と飛行機を操る美少女達と世界を変えていく物語。
※他サイトでも連載予定です。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる