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■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)

第4-11話 サラマンダーと蠢く陰謀(後編)

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 ウオオオオオンンッ!!

 あらたに発現した金スキル、”サーバントフィッシング”。
 オレンジ色の光を伴いながら釣り上げられたのは、驚くべきモンスターだった。

 真っ赤な鱗を持つドラゴンのような姿、僅かに開かれた口の端からは炎が漏れている。
 爛々と光る黄金の瞳に燃え盛るしっぽ。

 炎をつかさどる伝説のモンスター、サラマンダー。

「…………」
「…………」

 しゃ~っ!

 体長50センチくらい。
 ちんまりと空中でとぐろを巻いたサラマンダーが、かわいい鳴き声を上げる。

「ちっこい……」

「あっ……か、かわいい」

 姿かたちは書物で見た伝説のモンスターだが、あまりの迫力の無さに思わず呆れたような声が漏れてしまう。

 フィルは口に手を当て、頬を染めている。
 コイツの可愛さがツボに入ったらしい。

 当然と言えば当然なオレたちのリアクションに、イヴァさんは余裕の笑みを崩さず。
 あくまで優雅な仕草で”彼”?の事を紹介する。

「くくっ……姿かたちは小さいがな、こ奴はまごう事なきサラマンダーだぞ?」

「ロゥランドに生息する成獣は体長30メートル以上……それがそのまま出て来てみろ、ダンジョン内では使えないし、場所によっては大騒ぎだ」

「そこで! 私の魔術テクの粋を集め、魔獣の力をギュっ!と凝縮して世界を渡らせる事が出来るようにしたのだ……まさにレイルくんのスキルを元にした、究極進化系の魔術だ」

「先ほどのブルーサーモンは触媒というか……コイツへの報酬だな」

 そういうとイヴァさんはサラマンダー?を指先でつつく。

「くうっ……さすがお祖母様です」
「そこまでの応用魔術をわずか1日で完成させるとは……不肖フィル、感服いたしました」

 とりあえず凄いことは分かったけど、しぼりたて100%グレープフルーツジュースじゃないんだから……。

 オレがサラマンダーに向けて手を伸ばすと、サラマンダーはオレの手のひらの上にちょんっと乗り、がううと小さな鳴き声を上げる。
 オレのいう事を聞いてくれるらしい。

「さて、召喚魔術も成功したことだし……その雪崩とやらの現場に行こうか!」

 満足げに頷いたイヴァさんはオレたちを先導して歩き出す。
 コイツを使って何をするんだろう?

「レイル、ぼ~っとしてないで早く行きますわよ!」

 色々聞きたいことはあったが、オレは頭の上に小さなサラマンダーを乗せながら彼女たちの後を追った。

 ***  ***


「なるほどな、ここが雪崩の現場か……確かに魔術でどかすのは骨が折れそうだ」

 数時間後、オレたちは公爵の別邸に続く山道の途中、雪崩によって通行不能になっている場所まで来ていた。

 山道の両側には岩山が切り立っており、頂から流れて来たであろう膨大な雪の固まりが道をふさいでいる。

 幅50メートル、奥行きは良く見えないが数百メートルはあるだろうか?
 とても人の力で何とかできる量ではない。

「そこで、だ……知っての通りサラマンダーは炎をつかさどる魔獣」
「こ奴の力でこの雪崩を溶かすというわけだな」

「さあ命じるのだ、レイルよ!」

 しゃ~っ!

 ずびしっと高さ10メートルはある雪の壁を指さすイヴァさん。
 そのしぐさに合わせてオレの頭の上に乗ったサラマンダーがかわいく鳴く。

「…………」

 いくら伝説のモンスターとはいえ、コイツをどうにかできるとは思えないけど……。
 半信半疑のまま、オレはサラマンダーに命じる。
 炎が舞い踊る魔法をイメージして……。

「えっと、放て?」


 カッ!


 サラマンダーの黄金の瞳が赤い光を放つ。
 次の瞬間、信じられない効果が表れる。


 キイイイイイイインンッ!!


「んなっ!?」

 炎というには生易しい……直径1メートルほどのマグマのような固まりが空中に現れる。

 ソイツは甲高い音を立てるとオレンジ……黄色へと色を変えていく。

 チリチリと莫大な熱量がオレの肌を焼く。

 ウオオオオオンンッ!

 サラマンダーが吠えた瞬間、光の玉はいくつにも分裂し、雪の壁に突き刺さる。


 ドウッ!
 バシュウウウウウウウウッ!!


「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 爆発的な熱気と水蒸気の嵐が目の前に生じる。
 オレンジと黄色に輝く光の玉は山道にうずたかく積もった雪をどんどん削り取っていき……。

 ウガッ?

 何事かと山麓の洞穴から顔を出した伝説の氷雪モンスター、”フロストジャイアント”ごとすべてを吹き飛ばす。


 カッ!!!


 視界を埋め尽くす真っ白な光……それが収まったとき、目の間に合ったはずの雪壁はきれいさっぱりなくなっていた。

「はああああああっ!?」

 あまりに激的なビフォア・アフターに、思わず声を上げるオレ。

 と、厚く空を閉ざしていた雪雲の隙間から夏の日差しが差し……わずか数分後には初夏の青が空一杯に広がるのだった。

「はっはっは! どうやらこの気候はついでに吹き飛ばしたフロストジャイアントの影響だったようだな!」
「これで一件落着だ、レイルくん!」

「……ウソだろ?」

 あまりに力技な結末に、ぽつりと漏れたオレの言葉は初夏の風に流れて消えた。
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