上 下
28 / 39
■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)

第4-8話 釣りスキル、超進化(後編)

しおりを挟む
 
「なるほど、フィルは私の異世界リンク魔術の研究を引き継いでくれたのか……できる孫をもって幸せだね」

 じゅうっ……。

 素焼きのトラウトサーモンの切り身が、からりとバターで揚げられる音がする。
 隣のフライパンでは、ソイソース、トマト、レモンをベースとしたソースを作るイヴァさん。

 芳醇なバターの香りが部屋いっぱいに広がる。
 オレたちはイヴァさんが住んでいる家に招待されると、晩ご飯が出来上がるのを待っていた。

 赤い絨毯がひかれたリビング。
 イヴァさんが立っているキッチンと連続しており、傍らの暖炉では暖かそうな魔術の炎が燃えている。

 右の方に視線をやると、沢山の蔵書に何に使うのか見当もつかない様々な器具に、色とりどりの薬。
 一階はリビング兼イヴァさんの研究室になっているようだ。

「二階には使っていない部屋があるから、今日はそこで寝るといい……ああ、防音はしっかりしているから、頑張りたまえよ?」

「?? なんのことですか?」

 バチン、とウィンクをしながら孫弄りも忘れないイヴァさんに苦笑する。
 コレって祖母であるイヴァさん公認なのかな……いやいや、もしフィルとそういう関係になるときはもっとロマンチックなシチュエーションがいいし……。

 レイル・フェンダー18歳、脚フェチだけど心は意外に乙女なのである。

「お祖母様……この香りは、”むにえる”っ! レイルのそれも美味しかったですが、久しぶりのお祖母様の手料理、期待していますっ!」

 どう見ても恋より飯なフィルの様子を見て頬がゆるんでくる。

「全くこの子は……少しは我慢を覚えなさい。 料理の腕は少しくらい上達したのか? そのままだとクソ豚お嬢様になるよ」

「うぐっ……!?」

 切れ味抜群の毒舌でフィルをからかうイヴァさんだが、その表情はとても嬉しそうで。
 祖母と孫のじゃれ合いに、心が温かくなる。

「さて、出来上がったな……レイルくんが作ってくれたパスタと合わせ、堪能するとしようか」
「全く、レイルくんの方が圧倒的に女子力が高いな」

「うぐぐぐっ……!?」

 トラウトサーモンのムニエルを作り終えたイヴァさんは料理をテーブルに広げ、楽しくも暖かい夕食をオレたちは堪能したのだった。


 ***  ***

「”世界を分けた超魔術”か……確かにフィルの言う通り、古代レティシア王国の特殊な魔導術式の一部だね……レイルくんの言うように、4枚の石板のかけらに書かれた術式をつなぎ合わせれば、再現することも可能だろう」
「なるほど、これらの情報はこの国の王家が管理していたのか……世を忍んで隠居していた私では届かなかったわけだ」
「いやまったく面白いではないか我が孫よ! 久々にあれをやるかフィル!」

「はいっ、もちろんですお祖母様!」

 食事を終えた後、情報交換を兼ねてオレたちが集めた情報を説明する。
 流石はフィルの師匠と言うべきか……フィルの説明が続くにつれてイヴァさんのテンションはどんどん上がっていき……。

 愛弟子であるフィルを連れて研究室ラボの方に走っていってしまった。

「良い、良いなっ! この世界のスキルカード術式、魔導形態……大変に興味深い」
「ああ、インスピレーションが湧いてきたよ!」

「お祖母様! わたくし向こうでコツコツとレア素材を集めておりました……ほら、マンドレイクの熟成種子がここに」

 イヴァさんとフィルの会話はどんどん熱を帯びていき……イヴァさんの手には紫色に光る謎の液体の入ったグラスが握られている。

 ボコボコとヤバい音を響かせるそれは、どう見てもまともな薬品には見えない。

「おお! 素晴らしいな我が孫よ! わざわざこちらの世界に持ってきたのか?」

「いえお祖母様、そちらのレイルが「アイテムフィッシング○」とか言うイカレスキルでわたくしの部屋から釣り上げてくれましたわ!」

「なるほど、先ほどフィルが言っていた異世界リンクスキルの一種だねそれは……よい、実に興味深い」

 ぱしゅうう……

 イヴァさんの手が、おぞましい黄土色をしたマンドレイクの熟成種子をグラスに放り込む。
 とたんに吹きあがる妖しすぎる青白い煙。

 気のせいか、イヴァさんとフィルの瞳のハイライトが消えた気がする。

「先ほどから気になっていたんだ……レイルくんのスキル……それに、いい魔力臭がするではないか」

「お分かりになりますかお祖母様!! そうなのです、あの臭いを嗅ぐとわたくしの身体が熱く、魔力も活性化して……」

「ふふふ、まさに私の孫娘にふさわしいモルモットだ……いやなに、痛いのは最初だけだよ……」

 イヴァさんとフィルは、いよいよ悪魔でも召喚されそうな色になったグラスを手ににじり寄ってくる。

 ヤバイ、フィルにふさわしいと言われるのは光栄だけど……って今この人モルモットって言ったよね!?
 本能的な恐怖を感じたオレは後ずさるが、外は猛吹雪、ここは敵のホームグラウンド……抗う術をオレは持っていなかった。

「くふ、どこに行くのかな、レイルくん」

 ばさっ!

 突然壁から生えてきたツタがオレの手足を拘束する。

「ふふ、いい格好ですねレイル……ああ、ゾクゾクしてしまいます」

 フィルの瞳が怪しく光り、ぺろりと出された舌に、唾液が蠱惑的に光る。

 ぴょん!
 ぎゅっ……

 ジャンプ一番、すらりとしたフィルの脚がオレの腰に巻き付き、身動きの取れなくなったオレの口めがけて、緑色に変色した液体が注ぎ込まれる。

「あっ……アーーーーーッ!!」

 ゾクゾクとした快感が背中を走り抜ける……性癖が更にぶっ飛んでしまいそうな一瞬の時を経て、オレの身体は光になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 「申し訳ないが、ウチに必要な機械を使役できない君はクビだ」 ”上の世界”から不思議な”機械”が落ちてくる世界……機械を魔法的に使役するスキル持ちは重宝されているのだが……なぜかフェドのスキルは”電話”など、そのままでは使えないものにばかり反応するのだ。 あえなくギルドをクビになったフェドの前に、上の世界から潜水艦と飛行機が落ちてくる……使役用の魔法を使ったところ、現れたのはふたりの美少女だった! 彼女たちの助力も得て、この世界の技術レベルのはるか先を行く機械を使役できるようになったフェド。 持ち前の魔力と明るさで、潜水艦と飛行機を使った世界最強最速の運び屋……トランスポーターへと上り詰めてゆく。 これは、世界最先端のスキルを持つ主人公が、潜水艦と飛行機を操る美少女達と世界を変えていく物語。 ※他サイトでも連載予定です。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...