【最強異世界釣り師】に転身した追放冒険者の釣って釣られる幸せ冒険譚

なっくる

文字の大きさ
上 下
26 / 39
■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)

第4-6話 辺境のエルフ(後編)

しおりを挟む
 
 ビュオオオオオオオッ!!

 凍り付いた湖の上を歩くうち、吹雪はより激しさを増す。
 いよいよ雪雲は低く垂れこめ、視界のすべてを無彩色にする。

「のおおおおっ!? 寒い、寒いです!」

 ワカサギ釣りギルドの建物でマフラーまで購入したフィルは、もこもこ魔人のような姿になっている。
 オレとフィルの間には、魔術の炎がめらめらと燃え……コイツが無いと凍えてしまっていただろう。

 いくらなんでも天候が悪すぎる……一度出直すか?

 フィルの魔術があるといっても、このままでは遭難の危険もある。
 オレは引き返すことを決断し、フィルに声を掛けようとするのだが。

「レイル! あそこに明かりが見えます!」
「この反応は……魔術!?」

 フィルが大きな叫び声をあげ、吹雪が渦巻く湖面の一点を指さす。

 ここから100メートルほど向こうだろうか?
 無彩色の視界の中でやけに目立つオレンジ色の光。

 おぼろげながら、光の脇にちいさな”かまくら”と人影のようなものが見える。

 まさか、こんな所でワカサギ釣りをしている人間がいるのか?
 ここは先ほどのワカサギ釣りギルドから10キロほど離れた湖面……周囲に人家は存在せず、モンスターが出現することを考えると危険が大きいのだが……。

 あの人影が、おばちゃんの言っていた”エルフ”なのだろうか?

「レイル! 行ってみましょう!」

「まだ何者か分からない……慎重に近づくぞ、フィル!」

 思わず駆けだしたフィルの後を追い、オレたちは光のもとへ急ぐのだった。


 ***  ***

「ふむ……どうやら相手は一人のようだな」

 一直線に目的地に向かいかけたフィルの手を引き、オレたちは”かまくら”から10メートルほど離れた雪だまりに身をひそめ、慎重に様子をうかがう。

「むむむ……まさかあれは?」

「フィル、姿勢を低く、気付かれるぞ」

「むぎゅっ!?」

 先ほどからよほど気になるのか、くぼみから頭を出しかけるフィルを抑え込む。

 身長は130から140センチくらいだろうか……頭にはすっぽりとフードをかぶり、毛皮で出来たもこもこの外套を着込んでいるため、姿かたちや性別は不明だ。

 人影は、氷に開けた穴に釣り糸を垂らすと、”スキル”を発動させる。

(ん……これは、釣りスキルか?)

 この感じ、オレの釣りスキルである「静水の太公望」に似ている……ただ釣りをしているだけなのか?

 息をひそめ、しばらく観察していると、魚がヒットしたのか、人影の持つ竿が大きくしなる。

「くくくくっ……爆釣だな」

 その瞬間、人影がくぐもった声を漏らす。
 その声は吹雪の中でもはっきりと聞こえるほど澄んでおり……女の……しかも少女と思わしき若々しい声だ。

 ザバアッ!

 もこもこ外套を着た少女?が竿を振り上げると、丸々と太ったトラウトサーモンが水面から躍り出る。

「ふむ……今日はシンプルに行かせてもらおうか」

「「溢れ出るうま味」! 「フレア・バースト(ミニ)」!」

 さあああっ
 ズドンッ!

「んなっ!?」
「……やはり」

 思わず驚きの声が漏れる。

 二つのスキルが立て続けに発動し、こんがりとウェルダンに焼かれたトラウトサーモンが皿の上に落ちる。

 爆炎魔術の余波で風が巻き起こり、少女のフードがはだける。

 さらり……
 あらわになったのは艶やかな桃色の髪。

 料理の出来栄えに満足しているのか、長く伸びた耳がピコピコと動いている。
 何よりその肌はフィルと同じ褐色で。

「……まったく、こんな所で隠居生活キメていらっしゃったとは……どれほど心配したと思ってるんですか」

 相手の正体が分かったのだろう。
 ため息と共に立ち上がるフィル。

「……おや、久しぶりだね我が孫よ……相変わらず隠れるのヘタだね、魔力がダダ洩れだよ」

 とっくにこちらに気づいていたのだろう。
 少女はこちらに振り向くと、僅かに口角を上げる。

 ……って、我が孫ッ!?

 驚くオレを尻目に、フィルはゆっくりと少女のもとに歩み寄ると、ポンとその頭に手を置きながら口を開く。

「こちらはイヴァンジェリン……わたくしのお祖母様で、数年前に行方不明になった魔術の師匠ですわ」
「お祖母様、こちらがレイルです」

「えええええええええっ!?」

 オレの驚きの叫びが、寒風吹きすさぶ湖面に響き渡った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。 最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。 千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた! そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……! 7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕! コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,) カクヨムにて先行連載中!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...