【最強異世界釣り師】に転身した追放冒険者の釣って釣られる幸せ冒険譚

なっくる

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■第3章 レイル・フェンダー、世界を釣る(海に来ました)

第3-5話 海底洞窟とドキドキ探索(後編)

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「ふふ……心配することはありません、レイル!」
「さあ、「深淵の接続者」「アイテムフィッシング○」を使うのですっ!」

 いつの間にかオレたちについて来てしまったエレン。
 スキルの使い過ぎなのか、病に倒れてしまった。

 そんな状況で、フィルには策があるという。

 オレは半信半疑でスキルを使い、ルアーのついた仕掛けを祭壇の後ろにある淵へとキャストする。


 ぽちゃん
 ぱああああっ!

「くっ……なんだっ……紫の、光?」

 ルアーが水中に潜った瞬間、明らかに今までとは違う反応が現れる。

 フィルを釣り上げたときのように水面は怪しく輝き、ゆっくりと渦を巻き始める。
 それと同時に、身体の奥からなにか温かいものが湧き上がってこようとする。

「スキルが、発現する……? フィル!?」

 これは、「深淵の接続者」と対になるスキルである可能性が?
 ……オレは思わずフィルの方へ振り返るのだが。

「……いいえ、今回は別の物を取りましょう」

 フィルはそういうと、口の端に笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉ざす。

「エレンが罹患している”魔力異常症”……ロゥランドではありふれた病気で、治療薬も市販されております……ならば、スキルをわたくしの部屋に繋げば……」

 エレンを助けることができるというわけか。

「でも、いいのか……?」

 ここでエレンを優先すれば、フィルは自分の世界に戻るためのヒントを失うことになる。

「ふふ、レイル……あなたの気持ちも同じなのでしょう?」
「ここで、わたくしのためになどと言い出したら、はっ倒しますわよ?」

「正直、わたくしはまだこちらの世界を見て回りたいですし……すぐに戻るつもりはありません♪」

 そう言うとフィルはいたずらっぽくウィンクする。

 まったく……彼女に先に言われてしまった。
 目の前で苦しむ女の子を放っておけるわけないじゃないか……オレはスキルを発動させ、フィルの魔力を感じられるように集中する。

 おぼろげながら、やけにピンク色でファンシーな、フィルの私室の光景が見えた気がする。


 ぐんっ!


 次の瞬間、竿先が大きくしなる。

 掛かった!
 オレは全身の力を使い、”獲物”を釣り上げる。

 今までより、少しだけ軽い手ごたえ。

 ざばあっ
 とんっ!

 緑の光と共に、水面から踊り出したのは、一抱えほどの小さな戸棚。
 全体的にピンク色の装飾が施されており、とても子供っぽいデザインだ。

「うっ……”魔力異常症”の薬はこの棚に入れてましたっけ……」
「いやその、違いますわよレイル、この棚はわたくしが小さいころ、かわいいもの好きの友達に押し付けられたもので……」

 スマートな自分のイメージと違うと思ったのか、へたっぴな言い訳を繰り返すフィル。

 オレはフィルのイメージにぴったりだと思うけどな……オレは微笑を浮かべつつ、棚に付いた小さな引き出しを開ける。
 中には、小さな瓶に入った薬と思わしき錠剤が沢山詰め込まれていた。

「こほん……レイル、そのピンク色の錠剤が入った瓶を取っていただけますか?」

 フィルの指示に従い、桃色の光を放つ不思議な錠剤の入った瓶を彼女に手渡す。

「これは、体内の魔力のよどみを正常化し、あるべき流れに戻す魔術薬……これを飲ませればすぐに……」

 フィルは、錠剤を何錠か取り出すと、膝枕で寝かせているエレンの口に入れる。

 こくん……わずかにエレンの喉が動き、薬を正しく飲み込んだことを確認する。

 と、乱れていたエレンの呼吸がたちまち静かになり、真っ青だった顔にも朱が差してくる。
 薬を飲ませてから数分後、すっかり血色が良くなったエレンがゆっくりと目を開ける。

「お姉さま……お兄さま? 私……倒れて?」

「ふふ、もう大丈夫ですわエレン」

「アナタの”魔力異常症”は、わたくしの”お嬢様ヤク”でポンと治りました」

 目を開けたエレンに優しく語り掛けるフィル。

「え……あ……私……身体が!」

 彼女の身体を襲っていた慢性的な虚脱感、魔力が流れ出るような感覚……それがすっかり消え去っていることに気づいたエレンは、驚きのあまりぴょんっ!と飛び上がる。

「わ……身体が、軽いっ? お姉さま、まさかその薬はお姉さまの世界の?」

「ええ、私の世界ではアナタを冒していた病気は不治の病などではありません……もう病に悩む必要はありませんわ、エレン」

 フィルの言葉に、目を大きく見開くエレン……その言葉の裏に隠された意味も、すべてを察したのだろう……彼女の大きな青い目に見る見るうちに涙が溜まっていく。

「わ、私……お姉さまが元の世界に戻れるように、私の「千里眼◎」が役に立つと思って……何とか協力したくて……でもその可能性を私が……!」

「ふふ……気にしないでください、エレン……あなたがこれからも笑って過ごせることが一番ですわ!」

「ふえっ……お姉さまああああっ!」

 感極まったエレンは、フィルにしがみついて泣きじゃくる。

「ふふっ、よかったですわね」

 優しくエレンを抱きしめるフィル……溢れ出る彼女の優しさに、オレの心もぽかぽかとあったかくなるのだった。
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