上 下
16 / 39
■第3章 レイル・フェンダー、世界を釣る(海に来ました)

第3-5話 海底洞窟とドキドキ探索(後編)

しおりを挟む
 
「ふふ……心配することはありません、レイル!」
「さあ、「深淵の接続者」「アイテムフィッシング○」を使うのですっ!」

 いつの間にかオレたちについて来てしまったエレン。
 スキルの使い過ぎなのか、病に倒れてしまった。

 そんな状況で、フィルには策があるという。

 オレは半信半疑でスキルを使い、ルアーのついた仕掛けを祭壇の後ろにある淵へとキャストする。


 ぽちゃん
 ぱああああっ!

「くっ……なんだっ……紫の、光?」

 ルアーが水中に潜った瞬間、明らかに今までとは違う反応が現れる。

 フィルを釣り上げたときのように水面は怪しく輝き、ゆっくりと渦を巻き始める。
 それと同時に、身体の奥からなにか温かいものが湧き上がってこようとする。

「スキルが、発現する……? フィル!?」

 これは、「深淵の接続者」と対になるスキルである可能性が?
 ……オレは思わずフィルの方へ振り返るのだが。

「……いいえ、今回は別の物を取りましょう」

 フィルはそういうと、口の端に笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉ざす。

「エレンが罹患している”魔力異常症”……ロゥランドではありふれた病気で、治療薬も市販されております……ならば、スキルをわたくしの部屋に繋げば……」

 エレンを助けることができるというわけか。

「でも、いいのか……?」

 ここでエレンを優先すれば、フィルは自分の世界に戻るためのヒントを失うことになる。

「ふふ、レイル……あなたの気持ちも同じなのでしょう?」
「ここで、わたくしのためになどと言い出したら、はっ倒しますわよ?」

「正直、わたくしはまだこちらの世界を見て回りたいですし……すぐに戻るつもりはありません♪」

 そう言うとフィルはいたずらっぽくウィンクする。

 まったく……彼女に先に言われてしまった。
 目の前で苦しむ女の子を放っておけるわけないじゃないか……オレはスキルを発動させ、フィルの魔力を感じられるように集中する。

 おぼろげながら、やけにピンク色でファンシーな、フィルの私室の光景が見えた気がする。


 ぐんっ!


 次の瞬間、竿先が大きくしなる。

 掛かった!
 オレは全身の力を使い、”獲物”を釣り上げる。

 今までより、少しだけ軽い手ごたえ。

 ざばあっ
 とんっ!

 緑の光と共に、水面から踊り出したのは、一抱えほどの小さな戸棚。
 全体的にピンク色の装飾が施されており、とても子供っぽいデザインだ。

「うっ……”魔力異常症”の薬はこの棚に入れてましたっけ……」
「いやその、違いますわよレイル、この棚はわたくしが小さいころ、かわいいもの好きの友達に押し付けられたもので……」

 スマートな自分のイメージと違うと思ったのか、へたっぴな言い訳を繰り返すフィル。

 オレはフィルのイメージにぴったりだと思うけどな……オレは微笑を浮かべつつ、棚に付いた小さな引き出しを開ける。
 中には、小さな瓶に入った薬と思わしき錠剤が沢山詰め込まれていた。

「こほん……レイル、そのピンク色の錠剤が入った瓶を取っていただけますか?」

 フィルの指示に従い、桃色の光を放つ不思議な錠剤の入った瓶を彼女に手渡す。

「これは、体内の魔力のよどみを正常化し、あるべき流れに戻す魔術薬……これを飲ませればすぐに……」

 フィルは、錠剤を何錠か取り出すと、膝枕で寝かせているエレンの口に入れる。

 こくん……わずかにエレンの喉が動き、薬を正しく飲み込んだことを確認する。

 と、乱れていたエレンの呼吸がたちまち静かになり、真っ青だった顔にも朱が差してくる。
 薬を飲ませてから数分後、すっかり血色が良くなったエレンがゆっくりと目を開ける。

「お姉さま……お兄さま? 私……倒れて?」

「ふふ、もう大丈夫ですわエレン」

「アナタの”魔力異常症”は、わたくしの”お嬢様ヤク”でポンと治りました」

 目を開けたエレンに優しく語り掛けるフィル。

「え……あ……私……身体が!」

 彼女の身体を襲っていた慢性的な虚脱感、魔力が流れ出るような感覚……それがすっかり消え去っていることに気づいたエレンは、驚きのあまりぴょんっ!と飛び上がる。

「わ……身体が、軽いっ? お姉さま、まさかその薬はお姉さまの世界の?」

「ええ、私の世界ではアナタを冒していた病気は不治の病などではありません……もう病に悩む必要はありませんわ、エレン」

 フィルの言葉に、目を大きく見開くエレン……その言葉の裏に隠された意味も、すべてを察したのだろう……彼女の大きな青い目に見る見るうちに涙が溜まっていく。

「わ、私……お姉さまが元の世界に戻れるように、私の「千里眼◎」が役に立つと思って……何とか協力したくて……でもその可能性を私が……!」

「ふふ……気にしないでください、エレン……あなたがこれからも笑って過ごせることが一番ですわ!」

「ふえっ……お姉さまああああっ!」

 感極まったエレンは、フィルにしがみついて泣きじゃくる。

「ふふっ、よかったですわね」

 優しくエレンを抱きしめるフィル……溢れ出る彼女の優しさに、オレの心もぽかぽかとあったかくなるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 「申し訳ないが、ウチに必要な機械を使役できない君はクビだ」 ”上の世界”から不思議な”機械”が落ちてくる世界……機械を魔法的に使役するスキル持ちは重宝されているのだが……なぜかフェドのスキルは”電話”など、そのままでは使えないものにばかり反応するのだ。 あえなくギルドをクビになったフェドの前に、上の世界から潜水艦と飛行機が落ちてくる……使役用の魔法を使ったところ、現れたのはふたりの美少女だった! 彼女たちの助力も得て、この世界の技術レベルのはるか先を行く機械を使役できるようになったフェド。 持ち前の魔力と明るさで、潜水艦と飛行機を使った世界最強最速の運び屋……トランスポーターへと上り詰めてゆく。 これは、世界最先端のスキルを持つ主人公が、潜水艦と飛行機を操る美少女達と世界を変えていく物語。 ※他サイトでも連載予定です。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...