9 / 39
■第2章 レイル・フェンダー、世界を釣る(まず近所)
第2-3話 レイルとフィル、初めての戦い(前編)
しおりを挟む「ふむふむ……こちらが臭いますっ!」
「異次元サーチ△」なる、謎のスキルを発動させたフィルがオレの冒険着の袖を引っ張る。
ラクウェルの街を出て数日……オレたちは池や川を見つけるたび、「深淵の接続者」や「アイテムフィッシング○」を試していたのだが、これといった成果を上げられずにいた。
そのたびに釣果は上がるので、晩飯の内容は豪華になっているのだが。
しびれを切らしたフィルが、「おそらく、スキルが効果を上げる場所には……次元のひずみがあるに違いありませんっ!」などど、良く分からないことを言いだし、これまたピンポイントで彼女のスキルリストに存在した謎のスキルを使い、オレのスキルが効きそうな場所を探しているのだ。
これまで大魔導士としての実力は垣間見せてるとはいえ……どうしてもにじみ出る庶民臭さ、もといポンコツ感に、一抹の不安を覚えるのだが……。
そんなオレの葛藤を知らず、フィルはオレの手を引くとずんずんと森の奥へ進んでいく。
先ほどまで歩いていた街道を一歩外れると、うっそうとした森が広がり、モンスターの気配もそこかしこに……オレは生唾を飲み込むと、周囲の警戒を続ける。
「!! これです! レイル、おそらくここに次元のひずみが!」
と、森の中、ふいに木々が途切れ……日の光が差し込んでいる場所がある。
大きな岩が地面から顔をのぞかせており、その岩の周囲10メートルほどが丸く開けている。
そして、その岩のふもとには直径2メートルくらいの竪穴がぽっかりと口を開けており、サファイアのように青く輝く水で満たされている。
薄暗い森の中でそこだけ光輝く水面は、確かに何かあるのではと思わせてくれる。
「これは……火山性の洞穴か?」
「こんな場所があったなんて……」
街道からほど近いとはいえ、危険なので踏み入れる者がほとんどいない森である……不思議な地形があっても、地元の人間が知らないのは仕方ない。
「さあ! ”スキル”を試してみましょうレイル!」
「……万一ハズレでもごはんが豪華になりますし……こんどはぜひ”むにえる”という王宮料理を……ぐぅ」
自信満々に洞穴を指さしつつ、今夜の食事への欲望も隠さないフィルに思わず苦笑いをしつつ、テキパキとミスリルファイバー製の釣り竿を組み立てる。
「よし……「アイテムフィッシング○」!」
オレはグランミスリルの糸に大型のルアーを付けると、スキルを発動させる。
ぽちゃん
水面に落ちたルアーは、僅かな手ごたえと共に洞穴の奥に沈んでいく。
透明度の高いサファイアブルーの水は、10メートルほどの深さまではっきりと見える。
特に何か魚がいるようには見えないが……その時。
パアアアァ
僅かに水面が緑色に光る……これは、エリクサーを釣った時と同じ!
「なるほど……魔力の動きを感じます……これがもしや、ロゥランドに繋がる予兆?」
次の瞬間、ググっと竿先が沈む……なにか、掛かった!
こないだのエリクサー100個ほどの重さはないが、かなりの手ごたえだ……オレはしっかりと腰を入れると、全身のバネを使い、一気に仕掛けを引き上げる!
ザバアッ!
……どんっ
水面から踊り出したのは、一抱えほどの金属製の箱。
宝箱のような装飾はないが、取っ手に猫のようなキャラクターのストラップが付いている。
「……えっ!?」
地面に置かれた箱を見て、なぜか驚愕の表情を浮かべて硬直しているフィル。
なんだろう?
彼女のリアクションを疑問に思うものの、特に鍵も掛かっていないようなので……とりあえず箱のふたを開ける。
がちゃ
中に入っていたのは……。
きれいに畳まれた何着かの服……紫色に朱色……デザインは女性向けで、雰囲気的には冒険者学校の制服に似ている。
だが、それらの服より圧倒的な存在感を示しているのは一抱えほどもあるもふもふのぬいぐるみで……やけにほんわかとした表情をした、2頭身のペンギンだった。
「何かネームタグが付いてるぞ……えーと、”フィルちんの”……」
「のあああああああっ!?」
ばたん!
オレがネームタグに書かれた文字を読み上げようとすると、なぜか顔を真っ赤にしたフィルが、ものすごい勢いで箱のふたを閉める。
「こ、こほん……レイル? これはその、なんというか……」
しどろもどろになる彼女の様子に、ピンと来たオレ。
「……ああ、これってもしかしてフィルの私物?」
「大きなぬいぐるみを大事にしまっているとか、カワイイとこあるじゃん!」
「はうっ!?」
あっさりと真実を言い当てたオレに、顔を覆って大げさに倒れ込むフィル。
「いけません……夜な夜な抱き枕にしていたペンギンのぺんきちが居なくて涙で枕を濡らしていたことなど……」
「大魔導士であるわたくしのクールなイメージがああああっ!?」
……クールなイメージなんか最初からなかった気もするが、宝箱だけじゃなく、フィルの私物が釣れるなんて……このスキル、どうなってるんだ?
「ううっ……おそらくぺんきちを求めるわたくしの邪念が、魔術的に影響してしまったのですわ……」
よよよ、と膝をつきながらも、箱から”ぺんきち”を取り出すと、大事そうに抱きしめるフィル。
ぬいぐるみを抱かないと寝られない16歳大魔導士とか、正直萌える。
「……レイル! これはノーカンです……恐らくわたくしのせいでこの洞穴からロゥランドの正しい場所に繋がらなかったのです……もう一度スキルを使えば、今度こそザクザクです!」
いやまあ、カワイイものを見れたからもういいかな……オレはそう思ったんだけど、顔を真っ赤にして迫るフィルの剣幕に押され、再度「アイテムフィッシング○」を発動させ、仕掛けを洞穴に投げ込む。
ぽちゃん!
「さあ……きますわよ! 今度は大物が…………あら?」
フィルが困惑の声を上げる。
先ほどと違い、水面は光らない……ルアーと仕掛けはどんどん洞穴の奥へと飲み込まれていき……。
ぐいっ!
「うおっ!?」
そろそろ200メートル巻のラインが無くなる……そう思った瞬間、身体ごと持っていかれるような”アタリ”がロッドを襲う。
思わず手を離しそうになってしまうが、このロッドとグランミスリルのラインはフィルを彼女の世界に戻すための大事な道具。
オレはもう一度腰に力を入れなおし、渾身の力で踏ん張るのだが。
(なんだこれっ!? 揚げられる気がしない……こんなに引く魚がこんなとこにいるのか?)
まずい……!
グランミスリルのラインが強靭なせいで、糸が切れることは無く……オレは洞穴に引きずり込まれそうになる。
「レイル! くっ……「巨人王の剛腕」っ!」
カッ……!
だきっ!
オレが抵抗できないことに気づいたのだろう、フィルがとっさに”金スキル”を発動させ、オレの背中に抱きつく。
このスキルは、確か身体能力強化系……背中に当たる二つのふくらみに興奮する間もなく、オレとフィルの筋力が一時的に強化される!
「行ける! フィル、タイミングを合わせろっ!」
「ラジャーですっ!」
「3……2……1……いまだっ!!」
「「どっせ~~~いっ!!」」
掛け声を合わせ、オレとフィルは全身のバネを使い竿を引き上げる。
ミスリルファイバー製のロッドと、グランミスリル製のラインはオレたちの超パワーを余すことなく伝えてくれ……。
ざっぱああああああんんっ!!
全長20メートルはあろうかという、醜悪なワーム型モンスターが、洞穴から躍り出た!
「「って、なんじゃこりゃあああああっ (ですわっ)!?」」
オレとフィルの悲鳴が、森の中にこだました。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる