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■第2章 レイル・フェンダー、世界を釣る(まず近所)

第2-3話 レイルとフィル、初めての戦い(前編)

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「ふむふむ……こちらが臭いますっ!」

「異次元サーチ△」なる、謎のスキルを発動させたフィルがオレの冒険着の袖を引っ張る。

 ラクウェルの街を出て数日……オレたちは池や川を見つけるたび、「深淵の接続者」や「アイテムフィッシング○」を試していたのだが、これといった成果を上げられずにいた。

 そのたびに釣果は上がるので、晩飯の内容は豪華になっているのだが。

 しびれを切らしたフィルが、「おそらく、スキルが効果を上げる場所には……次元のひずみがあるに違いありませんっ!」などど、良く分からないことを言いだし、これまたピンポイントで彼女のスキルリストに存在した謎のスキルを使い、オレのスキルが効きそうな場所を探しているのだ。

 これまで大魔導士としての実力は垣間見せてるとはいえ……どうしてもにじみ出る庶民臭さ、もといポンコツ感に、一抹の不安を覚えるのだが……。

 そんなオレの葛藤を知らず、フィルはオレの手を引くとずんずんと森の奥へ進んでいく。

 先ほどまで歩いていた街道を一歩外れると、うっそうとした森が広がり、モンスターの気配もそこかしこに……オレは生唾を飲み込むと、周囲の警戒を続ける。

「!! これです! レイル、おそらくここに次元のひずみが!」

 と、森の中、ふいに木々が途切れ……日の光が差し込んでいる場所がある。

 大きな岩が地面から顔をのぞかせており、その岩の周囲10メートルほどが丸く開けている。
 そして、その岩のふもとには直径2メートルくらいの竪穴がぽっかりと口を開けており、サファイアのように青く輝く水で満たされている。

 薄暗い森の中でそこだけ光輝く水面は、確かに何かあるのではと思わせてくれる。

「これは……火山性の洞穴か?」
「こんな場所があったなんて……」

 街道からほど近いとはいえ、危険なので踏み入れる者がほとんどいない森である……不思議な地形があっても、地元の人間が知らないのは仕方ない。

「さあ! ”スキル”を試してみましょうレイル!」
「……万一ハズレでもごはんが豪華になりますし……こんどはぜひ”むにえる”という王宮料理を……ぐぅ」

 自信満々に洞穴を指さしつつ、今夜の食事への欲望も隠さないフィルに思わず苦笑いをしつつ、テキパキとミスリルファイバー製の釣り竿を組み立てる。

「よし……「アイテムフィッシング○」!」

 オレはグランミスリルの糸に大型のルアーを付けると、スキルを発動させる。

 ぽちゃん

 水面に落ちたルアーは、僅かな手ごたえと共に洞穴の奥に沈んでいく。

 透明度の高いサファイアブルーの水は、10メートルほどの深さまではっきりと見える。
 特に何か魚がいるようには見えないが……その時。


 パアアアァ


 僅かに水面が緑色に光る……これは、エリクサーを釣った時と同じ!

「なるほど……魔力の動きを感じます……これがもしや、ロゥランドに繋がる予兆?」

 次の瞬間、ググっと竿先が沈む……なにか、掛かった!

 こないだのエリクサー100個ほどの重さはないが、かなりの手ごたえだ……オレはしっかりと腰を入れると、全身のバネを使い、一気に仕掛けを引き上げる!


 ザバアッ!
 ……どんっ


 水面から踊り出したのは、一抱えほどの金属製の箱。
 宝箱のような装飾はないが、取っ手に猫のようなキャラクターのストラップが付いている。

「……えっ!?」

 地面に置かれた箱を見て、なぜか驚愕の表情を浮かべて硬直しているフィル。

 なんだろう?

 彼女のリアクションを疑問に思うものの、特に鍵も掛かっていないようなので……とりあえず箱のふたを開ける。

 がちゃ

 中に入っていたのは……。

 きれいに畳まれた何着かの服……紫色に朱色……デザインは女性向けで、雰囲気的には冒険者学校の制服に似ている。
 だが、それらの服より圧倒的な存在感を示しているのは一抱えほどもあるもふもふのぬいぐるみで……やけにほんわかとした表情をした、2頭身のペンギンだった。

「何かネームタグが付いてるぞ……えーと、”フィルちんの”……」

「のあああああああっ!?」

 ばたん!

 オレがネームタグに書かれた文字を読み上げようとすると、なぜか顔を真っ赤にしたフィルが、ものすごい勢いで箱のふたを閉める。

「こ、こほん……レイル? これはその、なんというか……」

 しどろもどろになる彼女の様子に、ピンと来たオレ。

「……ああ、これってもしかしてフィルの私物?」
「大きなぬいぐるみを大事にしまっているとか、カワイイとこあるじゃん!」

「はうっ!?」

 あっさりと真実を言い当てたオレに、顔を覆って大げさに倒れ込むフィル。

「いけません……夜な夜な抱き枕にしていたペンギンのぺんきちが居なくて涙で枕を濡らしていたことなど……」
「大魔導士であるわたくしのクールなイメージがああああっ!?」

 ……クールなイメージなんか最初からなかった気もするが、宝箱だけじゃなく、フィルの私物が釣れるなんて……このスキル、どうなってるんだ?

「ううっ……おそらくぺんきちを求めるわたくしの邪念が、魔術的に影響してしまったのですわ……」

 よよよ、と膝をつきながらも、箱から”ぺんきち”を取り出すと、大事そうに抱きしめるフィル。

 ぬいぐるみを抱かないと寝られない16歳大魔導士とか、正直萌える。

「……レイル! これはノーカンです……恐らくわたくしのせいでこの洞穴からロゥランドの正しい場所に繋がらなかったのです……もう一度スキルを使えば、今度こそザクザクです!」

 いやまあ、カワイイものを見れたからもういいかな……オレはそう思ったんだけど、顔を真っ赤にして迫るフィルの剣幕に押され、再度「アイテムフィッシング○」を発動させ、仕掛けを洞穴に投げ込む。


 ぽちゃん!


「さあ……きますわよ! 今度は大物が…………あら?」

 フィルが困惑の声を上げる。
 先ほどと違い、水面は光らない……ルアーと仕掛けはどんどん洞穴の奥へと飲み込まれていき……。


 ぐいっ!


「うおっ!?」

 そろそろ200メートル巻のラインが無くなる……そう思った瞬間、身体ごと持っていかれるような”アタリ”がロッドを襲う。

 思わず手を離しそうになってしまうが、このロッドとグランミスリルのラインはフィルを彼女の世界に戻すための大事な道具。

 オレはもう一度腰に力を入れなおし、渾身の力で踏ん張るのだが。

(なんだこれっ!? 揚げられる気がしない……こんなに引く魚がこんなとこにいるのか?)

 まずい……!

 グランミスリルのラインが強靭なせいで、糸が切れることは無く……オレは洞穴に引きずり込まれそうになる。

「レイル! くっ……「巨人王の剛腕」っ!」

 カッ……!
 だきっ!

 オレが抵抗できないことに気づいたのだろう、フィルがとっさに”金スキル”を発動させ、オレの背中に抱きつく。

 このスキルは、確か身体能力強化系……背中に当たる二つのふくらみに興奮する間もなく、オレとフィルの筋力が一時的に強化される!

「行ける! フィル、タイミングを合わせろっ!」

「ラジャーですっ!」

「3……2……1……いまだっ!!」

「「どっせ~~~いっ!!」」

 掛け声を合わせ、オレとフィルは全身のバネを使い竿を引き上げる。

 ミスリルファイバー製のロッドと、グランミスリル製のラインはオレたちの超パワーを余すことなく伝えてくれ……。


 ざっぱああああああんんっ!!


 全長20メートルはあろうかという、醜悪なワーム型モンスターが、洞穴から躍り出た!

「「って、なんじゃこりゃあああああっ (ですわっ)!?」」

 オレとフィルの悲鳴が、森の中にこだました。
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