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17 : DAY17 ブラックギルドマネージャー、孤児院の様子を見に行く
しおりを挟む「なんという事だ! これでは大赤字ではないか!」
早朝のギルドマスター室に怨嗟の声が響く。
溜まっていた依頼をモニカに押し付けることで消化し、上機嫌だったパトリック。
たまにはクレイのヤツが提出した収支計画書でも読むか。
気まぐれを起こしたパトリック。
書類の一点に視線が釘付けになる……丁寧に下線が引かれ、目立つように赤字でとんでもないことが書かれていた。
パトリックが自信満々で受注した”闇ダンジョンの攻略”。
過去の事例から想定される出現モンスターと攻略難易度。
必要な冒険者ランクと消耗品から計算される必要経費……結果として、大幅な赤字となることが記されている。
「クレイのヤツ……これほどの事を、なんですぐに報告せん!」
収支計画書の日付が、闇ダンジョンの攻略を受注した次の日になっていることに気づきもせず、怒声を上げるパトリック。
これでは、モニカに依頼を押し付けて得た利益など簡単に吹き飛んでしまう。
くそっ……最終的に上位冒険者に頼むとしても、モニカが依頼を完了する可能性に掛けるべきだ。
便利だったので少々惜しいが、所詮下請け……連中が潰れたとしても俺は困らん!
アレをダシにしてやらせるか……。
パトリックの視線の先、机の上に置かれた書類には”孤児院の修繕見積書”と書かれていた。
*** ***
「むぅ~、おなかすいたよぉ」
「まったく、ほら……私の分のサンドイッチだ」
「やたっ! ありがとうクレイっ!」
笑顔満面でサンドイッチにかぶりつくアルに苦笑する。
昨日夜、帝国から戻ってきた私たちはモニカの様子を見るために早朝から出かけたのだが、既にモンスター退治に出発してしまったとセレナさんから聞いたため、急遽モニカの後を追っていた。
私が彼女をスカウトしてからわずか数日で6件目の依頼……勤勉なのは結構だが、ペースが速すぎである。
なにかあっては心配だし、いくら高ランクの才能持ちとはいえ、彼女の才能は回復よりであり単純な戦闘力は高くない。
このペースで依頼をこなせるのは少しおかしいのだ。
「じゃあそろそろ……遮蔽魔法を使うね」
ぱしゅん!
モニカたちに追いついたので、アルが遮蔽魔法を使ってくれる。
これで、向こうから気付かれることは無いだろう。
下請け冒険者さんが無茶な仕事をしていないか確認するのも私の仕事である。
「そろそろモンスターの出没地点ですね。 みんな、準備を」
「「「はいっ! 先生!」」」
剣や弓を持った少年少女たちが武器を構える。
あの子たちは孤児院でも年長組……将来のためにモニカが鍛えているらしい。
「行きます……”フルエンチャント”!」
「な!」
「わお♪」
思わず驚きの声が漏れる。
彼女が使ったのは、最上位の能力強化魔法。
攻撃力と防御力、身体能力を大幅強化してくれるが、めったに使い手のいない大魔法である。
アレが使えるのならば、無才能者でも十分にモンスターと戦えるだろう。
「くっ……はあっ……はあっ」
「みんな、苦労を掛けるけど……これが終わったら大きな依頼を頂けるから」
「”孤児院”を守るためにも、頑張って!」
「「「任せてください!」」」
あれだけの大魔法を使ったせいなのか、荒い息をつき座り込んでしまうモニカ。
パトリックさんの不当依頼の件は協会に報告したし、モニカへの待遇も改善されるはずだ。
なぜ、彼女はあんなに焦っているのだろうか?
もう少し調べる必要がありそうだ。
危なげなくガーゴイルを退治するモニカたちの様子を見ながら、私はいつもの興信所に連絡を取るのだった。
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