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10 : DAY10 ブラックギルドマネージャー、勇者の旅立ちを見送る

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「クレイさん! 本当に……本当にお世話になりました!」

 見違えるほど逞しくなったステファンが、旅立ちの挨拶に来てくれた。
 律儀な子だ……ギルドでの在籍期間は短かったが、自分のことのように嬉しい。

 私たちは連れだって、王都郊外の街道入り口まで来ていた。

「ああ! ”羽ばたく者たち”でもがんばれよ!」

「そういえば、ギルドマスターがいきなり追放をやらかしてしまい、済まなかったな」
「これは、ギルドからのせめてもの餞別だ……受け取ってくれ」

 ウチのギルドマスターが迷惑をかけたことは紛れもない事実である。

 私は、餞別代りのマジックアイテム”力の腕輪”をステファンに手渡す。
 装備者の腕力を強化するアイテムで、魔法使い重視の方針を取るパトリックさんのおかげで余剰になっているのだ。

「こ、こんな高価なアイテムを!?
 なにからなにまで、本当にありがとうございます!」

「にはっ、おにーさん……アルの”マジックアイテム”が枷を吹っ飛ばしたから、世界最強になれるかもねっ!」

「アルフェンニララさんも……はいっ、僕頑張ります!」

 自分が作ったマジックアイテムが予想以上の効果を示したことが嬉しかったのだろう。
 アルも一緒に見送りに来ていた。

「えっと、皆さん……名残惜しいですが、お元気で!」
「何かあった時は遠慮なくおっしゃってください! 地の果てからでも駆け付けますんで!」

「ははは! ”羽ばたく者たち”所属の戦士の助力が得られるなど、最高だな!」
「ああ、その時が来たら遠慮なく頼らせてもらうよ」

「はいっ!」

 ステファンは大きく手を振ると、”羽ばたく者たち”が本拠地を置く西部地方へ旅立っていった。

「ふふっ……結果的に”追放”されてよかったのかもしれませんね」

 同じく見送りに来ていたセレナさんが嬉しそうに笑う。

 私も同感だ……世界最強パーティの一員となったステファンは、これから多くの人を救うだろう。
 ほんの少し世界に貢献できた……そんな満足感が胸に満ちる。

「せっかく街に出たし……祝勝会と行くか!」

「やた~っ!」

「今日は寒いから……焼きたてのステーキだ!」

「すてーきっ!? テールスープも付く?」

「もちろん! 飲み放題だぞ!」

「うお~っ! クレイ、愛してるっ!」

 先にギルドに戻りますというセレナさんと別れ、上機嫌の私とアルは、予約しておいたステーキハウスに向かう。

 最高級ステーキに興奮するアルの瞳はキラキラと輝き、とてもかわいらしい。
 ……上機嫌なアルとの夜に備えて、精を付けようとしているのは秘密だ。


 そう言えば、セレナさんにあとから聞いたのだが、Aランク魔法使いのノノイは協会の仕事が長引き、合流が遅れるらしい。

 ハチに刺されてからツイてないぞ、毒が抜けてないのか! などどパトリックさんは叫んでいたそうだが、何のことだろうか?

 定期的にざまぁを食らい、発狂しているギルドマスターを除けば、そこそこやりがいがあって刺激的な毎日が送れるのが私の所属するギルドなのだ。
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