上 下
41 / 43
最終部 異世界デジタル化チーム、新たなフェーズへ

第41話 天使の母親、襲来

しおりを挟む
 
 3月……徐々に暖かくなり、梅のつぼみもほころぶ季節。 社会人的には、年度末である。

 弊社への年度報告書やら、個人の成果報告書やらを記入する為に、俺は珍しく、日本側のオフィスに出社していた。オフィスの窓からは、美しい瀬戸内海と、行きかう船が見える……3月と言えば……卒業の季節……ではなく、遥の誕生日だな!

 これは、これは重要なイベントである。12歳であった遥が、13歳になるのである。もちろん今は12歳、中学1年生でかわいい盛りであるが、そこに、少しずつ女性の成熟という、エッセンスが加わるのだ。

 あんなに小さかった遥が……こんなに大きくなって……成長を喜ぶとともに、一抹の寂しさという複雑な感情が…………遥は飛び級して、春から高校生となるが、高等部の制服は……ブレザーなんだ……セーラー服姿が、もう見納めとは……俺は、言いようのない淋しさに心を震わせていた。

 その時、スマホが僅かに振動した……ん? 珍しいな、メールか。

 ”へーイ! ナオ君! セリーヌさんデース! 研究がひと段落したから、日本に戻るね~、今日の16時に空港に着くから、お迎えよろしく~”

「って! セリーヌ伯母さん!? 日本に戻ってくるのか? 今日? いきなり?」

 セリーヌ伯母さんとは、遥の母親だ。現在はイギリスの大学で研究者をしている。 遥に負けず劣らず天才なのだが、とても、とてもフリーダムな人である。俺的には、幼少時代から大変お世話になっており、今でも仲良くしてもらっている。

 今は……13時か……いまからウチに戻って車だせば、到着に間に合うな……俺はフレックス申請を部長にたたきつけ、急ぎ会社を出るのだった。

 **  **

「えへへ、おかあさん、研究でおっきな成果が出たから、まとまってお休みが取れたんだって~。 わたしの誕生日まで日本にいれるみたい。楽しみ!」

 帰宅する途中で遥と合流し、俺の車で関空に向かっているところだ。阪神高速5号線から見える大阪湾は、春の日差しでキラキラ輝いている。

「夏休み以来の帰国か……今回は長かったな?」
「うん! 人類の歴史を変える、常温超電導素材を開発したんだって! ほら、学会誌で特集されてたよ!」
「すごいな……セリーヌさんの専門は、材料工学だったか……マルティナと話が合いそうだな」

「ふふっ、マルティナおねえちゃんのことを話したら、すごく食いついてたよ。”素材位相マテリアと、素材変換魔法!? よし、そのマルティナちゃん、ウチでもらった”って」
「くくっ……セリーヌさんらしいな」
「ねー」

 車は、快調に関空へ向かっていた。

 **  **

 関空第1ターミナル、国際線到着フロア

「ヘ~~~イ!! 遥、ナオ君、ひっさしぶりだネー!」

 フロア中に響き渡りそうな声、ハイテンションで現れたのが、俺の伯母さん、遥の母親のセリーヌさんだ。成人女性にしては少し小柄な身長に、ひんそ……スレンダーな身体。目の覚めるような金髪に、張りのある肌……もう30代後半だというのに、若々しい。

「お、ナオ君。ひそかに失礼なこと考えたネ、でも、最後フォローしたのはオッケーよ?」
「あの、心を読まないでください……」

「えへへ~~、おかあさん、おかえり!」
 だきっ!

 着いてそうそう、俺の心を鋭く読んでくるセリーヌさんに、遥が抱きつく。半年ぶりの親子の再会だ。

「オ~ゥ! さすがワタシのマイエンジェルは今日も最強のエンジェルねー! ん~、少し背が伸びたカナ? でも胸は変わんないねー」
「むーっ、それは、おかあさんの遺伝!」

 ちなみに、この胡散臭いガイジン口調は、キャラづくりである。俺としては恥ずかしいので自重してほしい所だが……セリーヌさんは、一通り遥をもふもふした後、あそうだという感じで、俺に耳打ちしてきた。

(そんで、ナオ君……もう遥とは……一線超えたの? ヒカルゲンジ計画は順調~?)
(な!! 俺は保護者ですよ! そんな事するわけないでしょう……というか犯罪です……)
(ふふ~ん、ナオ君は変なところで真面目なんだから~。これから遥もどんどん女っぽくなっていくのよ? どこまで我慢できるのかしら~?)
(セリーヌさん、それ、母親が言うセリフじゃないです……)

「ふふふ、遥は、ナオ君との共同生活はどう? ドキドキイベントはあった?」
「? 兄さんはいつでも優しいよ。ご飯もおいしいし……あ、でもこないだ、あまりに布団から出てこないから、少しイラッとして、むにむにと踏んづけたら、すごく幸せそうだったな……おかあさん、これって何?」

「!! いや~、ヘンタイさんな甥っ子を持ってワタシ、幸せネ~」

 むむむ……遥だけでも勝てないのに、セリーヌさんまで揃っていては、俺に勝ち目はないのであった……

 **  **

 セリーヌさんは俺の家に滞在している。たまに研究関係のメールを書いたり、Web会議をしているほかは、アニメを見るか、ゲームをするか、ポテチ食って酒飲んでごろごろしている。

 本人は”たまの、命の洗濯よ~”と言っていたが、こんな食生活で太らない30代後半とか、オーパーツだろうか。俺でさえ、三十路が近づいてきて食生活には気を使ってるというのに……

 ちなみに、壊滅的に生活力のない人なので、イギリスではどんな生活を送っているか不安になるが、天才研究者なので、色々と便宜があるのだろう。うん。

「あー! またおかあさん服脱ぎっぱなし! ぽてちもお酒もとりすぎはダメ! せーじんびょうになるよ!」

「うう、遥が怖い……いつの間にこんな鬼嫁に……」
「おかあさんが、だらしなさすぎるの!」

「お、おお……そういえばこのアルカディアって、遥たちが作ったんでしょ? すごいじゃない!」
「ごまかさない!」
「……ハイ」

 やれやれ……母親の威厳、まったくないな……遥の誕生日は、今月30日、あと1週間である。


 **  **


 遥の終業式&卒業式も終わり、誕生日プレゼントも用意した。せっかくなのでマルティナ達もこちらに呼ぶ予定だ。

 あとは当日の料理の食材の買い出しと、ケータリングの予約だな……俺が色々と遥の誕生日会の準備に頭を巡らせながら帰宅すると……珍しいな、セリーヌさんがリビングでゴロゴロしてないぞ……どうやら、ベランダで電話中のようだ。

「遥、セリーヌさんはどうしたんだ?」

 遥は洗濯をしていたのか、長い髪をポニーテールにまとめている。きょうもかわいい。

「ん……なにか、大学からの電話らしくて……もう30分くらい話してる……なんかあったのかな……」
 遥は、少し不安そうだ。

 遥が洗濯物を乾燥機に入れ、乾燥が終わるころ、ようやくセリーヌさんの電話も終わったようだ。

 はぁ、とため息をつきながら、深刻そうな顔でリビングに入ってくる。

「おかあさん?」
「……遥、ナオ君、ごめんっ! 大学に戻らなくちゃいけない緊急事態が起きちゃった! この埋め合わせは何とか考えるから、遥、本当にごめんね……」

 どうやら、セリーヌさんの研究チームで、のっぴきならない事態が発生したようだ。

「……っっ……おかあさん、おっきな研究をしてるんだもんね……特に実用化の初期フェーズは、いろんな問題が起きるから、しかたないよね」

 遥は、洗濯カゴをぎゅっと強く握っている。遥もセリーヌさんの仕事のことはよくわかっている。ちゃんと理解しているようだが……

「ごめんね……日本での誕生日会には出れなくなったけど、すぐ終わらせて、遥の入学式には絶対戻ってくるから……」
「……うん。 いってらっしゃい、おかあさん」
 ぎゆっ……

 抱き合うふたり。分かっているといっても、遥はまだ12歳の女の子だ。寂しくないはずはない。

 なんとかしてやらないとな……俺はリカバリープランを考えようと、アルカディアを使い、マルティナに連絡するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

処理中です...