39 / 43
第2部 異世界デジタル革命そのに(アルカディアを強化しよう)
第39話 新年とともに訪れる、民主共和国、崩壊の兆し(前編)
しおりを挟む全員で満喫した皇国大収穫祭を終え、師走は足早に過ぎていった。 年末年始休暇もあっという間に過ぎ、サラリーマンらしく新年の得意先回りなどを終えたあと、俺はようやく、ツキア皇国のいつものオフィスで一息ついていた。
今は1月のおわり。昨年末より開始した、ポンダム民主共和国における新型アルカディア展開と、SNSの利用状況について、結果報告が上がってくる日である。
「お、ポーラちゃんと、マルティナちゃん来たっすよ」
ふたりが資料を手に、オフィスに入ってくる。
「おはよー、ナオヤ、ジュン」
「おはようございます。 ジュンさん、ナオヤさん」
「うう、今日も寒い……こたつこたつ」
「マルティナ、お前、出勤するなりコタツか……」
「しょうがないじゃない! こんなに寒いんだもん……はあぁ、幸せ……」
まったく、しかたない奴だ……確かに今日は特別寒いな……皇都もすっかり雪景色だ。
「……あれ? ハルカはどうしたの?」
「ああ、学校に用事があったらしく、遅れて来るそうだ」
「ふーん、ハルカの学校かぁ……いつか遊びに行ってみたいわね!」
「残念だったな……17歳になったお前には、中等部への入学資格はないぞ……」
「うー! そんなの、言われなくてもわかってるわよ!」
……マルティナはいつも通りだ。昨年の皇国収穫祭の夜、もしかして……と思ったが、考え過ぎだったようだ。 まあ、コイツとは一回りトシが違うしな……
「よし、先に始めるか。 ポーラ、まずポンダム民主共和国における展開状況を教えてくれ」
「はい、先月から新型アルカディアの格安配布を始めましたが、現時点で10万台程度配布できています……3年契約縛りで」
「共和国秘密警察も、通信の盗聴は出来ないようで、各地で盛り上がっています。 ふふふ、色々と……3年契約縛りで」
「お、おう、順調そうで、何よりだ」
ポーラの奴、プーラちゃんを使って腐女子聖典なる、危険なものを配布していたが、共和国女子のメンタルは大丈夫だろうか……そして本当に3年契約させてるんだな。
「特に、反共和国の気風が強い、旧周辺国中心に配布しましたので、もうすぐ面白いことが起きるかもしれませんね♪」
面白い事、か。 帝国文春を読んだが、ポンダム民主共和国は急速な膨張と強圧的な統治で、各地で不満が高まっているらしいな……ポーラが、なにかを仕込んだと言っていたが……
ガチャ……
「ん、少し遅れちゃった。 兄さん、みんな、おはよう」
陰謀を巡らすポーラに震えていると、遅れていた遥が到着した。
学校に寄っていたので、冬服セーラーにもこもこコート、パンダ耳のイヤーマフにミトンの手袋、マフラーともっこもっこしており、大変かわいい。きゅいきゅいと駆け寄るブルミ君を抱き上げ、コタツに入ってくる。
「おはよう、ハルカ。 学校で何してたの?」
「きょう? わたしはウサギ係だから、うさぎさんのお世話をしてきたよ」
「くっ……遅れる理由すら、かわいいだと……!?」
遥が醸し出す、かわいいゾーンに、マルティナが驚愕している。まあ、いつものことだな。
「すまんな遥、もう始めていたぞ。 アルカディアSNSの利用状況を纏めてくれたんだったな」
「うん、兄さん。 これだね……今のところ、順調。 アルカディア契約者の90パーセント以上が使ってるね」
「傾向としては、自撮りポイートと、ご飯食べたよポイートが多い感じだね。 あと、ヴァイナー公国では、「○○してみた!」ポイートが流行ってるね……「ドラゴンの巣に素手で突撃してみた!」とか」
「ふむ、大体俺たちの世界と同じ傾向か……って、ヴァイナー公国の連中は命知らずだな……ロシア人か?」
「あと、わたしたちのアバターが載せた、チュートリアルその他に対する、スパチャ成績だけど……なんと、なんとマールちゃんが一位。しかもぶっちぎり」
ガタッ
「!! ほんと!? ついにマールちゃんの時代が来たのね! おおお、感激だわ!」
衝撃の結果に、思わず立ち上がるマルティナ。 なん……だと?
「……まさか、マールちゃんが一位とは……スパチャ履歴は……んっ?」
遥からシェアしてもらった、スパチャ履歴を確認すると、確かにマールちゃんがダントツだが、とびぬけて高額な投げ銭が何回もある。
「おいおい、なんだこりゃ……100万魔法石手形 (1億円以上)の投げ銭が、何回も入ってるじゃないか……」
「しかもそれ、同じアカウントだよ……」
「おお、本当だ……もしかしたら、共和国の支配者階級なのかもしれんな。 まったく、この世界の上級階級は恐ろしいな……」
ヴァイナー公国の貴族連中といい……運営側としては助かっているが。
** **
ポンダム民主共和国首都、エルウィン私邸。エルウィン・ホルネーは、マールの個人アカウント、”マールちゃんねる”に課金し、悦に入っていた。
「ふふふ、やはりマールちゃんは可愛いわい……ほら、また1000万だ……」
エルウィンが投げ銭すると、マールちゃんがかわいく反応する。 もちろん、この金は国家予算である。共和国の金は、ワシの金なのだ。
「このまま、ワシが世界一のカレー屋にしてやるわい……ん?」
現在、エルウィンがみているのは”マールちゃん カレー王を目指す!”という、ドキュメンタリータッチの動画配信コーナーである。 どの辺をターゲットにしているのか、よくわからない。
案の定「カレーって何? よくわかんない」「う〇こ食ってるときにカレーの話すんなよ!」「貧乳はカエレ! プーラちゃん最高」「プーラ厨は陰キャ」などの荒らしコメントが入る。
はあ、ネットマナーがなってないな……エルウィンはため息をついた。
”みなさん、喧嘩はほどほどに。マールちゃんも、プーラちゃんも、彼女たちを愛でる気持ちはみなさん共通のはずです。 スパチャアイテムを皆さんに共有しますから、みんなで楽しみましょう!”
エルウィンの仲裁により、レスバトルは収まったようだ。 共和国を牛耳る恐怖の最高人民評議会終身議長は、ネット上では常識人だった。
その時、貧相な国防相から連絡が入る。陸軍の師団で軽微な反乱があったらしい。
「そんな些末な報告でワシの至福の時間を邪魔したのか? めんどうだ。 反乱分子がどこにいるか分からんのだから、関係者の周囲含め1万人ぐらい粛清しておけ。 師団長は銃殺な」
まったく、ワシに反抗するヤツは駆除すればいいのだ……エルウィンは粛清の指示などすぐ忘れ、”マールちゃんねる”に没頭していった。
** **
ポンダム民主共和国 辺境部
元ルーム王国 王都某所
レジスタンス、「ルーム王国解放戦線」のリーダー、カミラ・ルームは歓喜で踊りだしそうだった。新型アルカディアを手に入れてからというもの、レジスタンス組織間の連絡や、補給の手配が、格段にスムーズになったのだ。
反共和国のコミュニティも盛り上がっており、併合時に無理やり国有化された、旧周辺国の企業を中心に、資金提供の話も絶えない。このままいけば、2月末をめどに大規模な蜂起をすることが可能だろう。 嬉しさのあまり、プーラちゃんのフジョッ・シ聖典新作を購入してしまったほどだ。もちろん、カミラ自身のお小遣いを使ったのだが、今回も大満足だった。
彼女は、慎重に決起計画を練っていく。共和国政府は、極度にエルウィン・ホルネーに権力を集中させている、いびつな体制だ。もちろんトップを討つというのも1つの手だが、カミラが注目したのは、国防軍だ。ここ最近、師団トップの粛清が相次いでおり、指揮系統が動揺している。ここで、軍トップである国防相を何とかすれば、配下の師団の反乱すら誘発できるかもしれない……軍が無くなれば、エルウィンは裸の王様だ……魅力的な案ではあるのだが、実行するには情報が足りない。
エルウィンや国防相の動静は最高の国家機密となっており、容易にはこちらもつかめない。 なんとか、情報を手に入れられないだろうか……カミラは、地下のアジトで思案を巡らせていた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ファーストキスはピリリと魔法の味 ~世界は今、彼女の唇に託された~
月城 友麻
ファンタジー
「ねぇ、キスして」
男子高校生の主人公はある日、疎遠となっていた幼なじみの美少女に迫られ、キスされてしまう。
彼女を大好きだった主人公は歓喜するが、どうも様子がおかしい。彼女はキスをすると超人的な力を発揮できる特殊体質だったのだ。
近年、いきなり現れ始めた魔物たちに翻弄される日本だったが、キスでパワーアップした少女は魔物を撃退していく。
さらにドラゴン化する美少女も乱入。
キスと魔物とドラゴン、この混とんとした状況の中で、主人公は少女を守るため、身を挺してこの世界の真実に迫り、やがて人類を取り巻く恐るべき現実を知る。
果たして恋の行方は? 人類の未来は?
現代日本に隠された真実に迫る青春ストーリー。お楽しみください。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
地縛霊おじさんは今日も安らかに眠れない
naimaze
ファンタジー
廃ビルで命を落として地縛霊になってしまったおじさんが、その死に立ち会ってしまった女子高生や仲間たちと送る、たまに笑えて、ちょっと切ない、奇妙な日常の物語。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる