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第1部 異世界デジタル革命そのいち(資金を集めよう)
第24話 大帝国、崩壊の兆し(ゲームで) 後編
しおりを挟む帝都郊外 帝国陸軍司令部宿舎
クラン名:第14装甲師団師団長レフシキとその部下 現在ランキング1位
薄暗い指令室に、師団長であるレフシキと部下たちが集まっていた。「おかすと!」のクラン・ランキングで現在1位の連中だ。とりあえず男臭い。暑苦しい。
「ぐふふ、海兵師団の奴らめ。 思い知ったか!」
「師団長、流石であります! これで我らの0号帳簿も分厚くなりますな」
師団長、と呼ばれたひげ面男の、アルカディアの画面には「おかすと!」のオンライン対戦結果が表示されている。
”クラン:「第2海兵師団・サーペント 有志連合:代表エメロー」相手に大勝利し、800魔法石手形 (25万帝国マルク)を入手しました!”
「そういう事だ。 戦争準備のために外出も制限されておるし、兵たちにも負担を強いておる。 せめて嗜好品だけでも充実させねばな」
暑苦しい師団長ではあるが、意外に部下思いのようだ。
「これで、魔法石手形にも余裕ができましたし、師団長同志! ここは”アイテムガチャ”を回すべきと意見具申いたします!」
「うむ、そうであるな! 物事には流れというものがある。 ちょうど、”プーラ”ちゃんのスペシャル水着が配信された、と運営から通知が来たことだしな」
レフシキは上機嫌で頷くと、ガチャメニューより、「スペシャルSSSプレミアムガチャ!」をタップする。1回10魔法石手形でSSRアイテム確定ガチャ、と書いてあるがよくわからない。SSSとは、スーパー・サンダー・ソードの略であろう。伝説の武器の名称を冠しているのだから、最上位クラスに違いない。サンダーのスペルは「T」から始まるが、陸軍は脳筋バカなので気付かない。しかたないね。
☆キラキラ☆、とスペシャルガチャエフェクトが表示される。宝箱のシルエットが、ひときわ輝きを放つ。どうやら、レアアイテムを引けたようだ! やはり流れが来ているな、とレフシキは満足げに頷いた。
「うおおおお! やりましたぞ師団長同志! SSSSRスペシャルアイテムです!」
画面には、”GET!! プーラ、超スペシャルレア水着! タップするとピング色のアレがポロリするよ?”と表示されている。
「こ、これはまさか、伝説の隠しアイテム!? 師団長同志! ぜひ我々にもシェアを!」
「プーラちゃんの肌色が、胸部装甲が!」
「うむ、待っておれ!」
うおおおお、と盛り上がるむさい男達。抑圧生活が続くと、羊にすら欲情すると言われているが、戦争準備で半軟禁生活をしているのだから、しかたないね。
ちなみに、シェア機能の利用も有料である。(えぐい)
「さて、さっそく水着を着用……ん?」
そのとき、 ”スリの金治カードが使用されました” とのメッセージが、画面に表示される。 はて? 見たことのない表示だが。
次の瞬間、”プーラ、超スペシャルレア水着”と、2,000魔法石手形が、レフシキのアルカディアより消え失せていた。
「な、なんだ!? 何が起こったというのだ!?」
思わず椅子から立ち上がるレフシキ。何が起こったか理解していないようだ。
その時、アルカディアがわずかに振動し、メッセージアプリに通知があったことを知らせてくる。
(やあ! 親愛なる陸軍の諸君、君たち脳筋単細胞には、SSSSRスペシャルアイテムはもったいない。 これは、我が魔法軍が有効に使わせてもらうから、安心したまえ。いや、怒るなよ。物事は等価交換だよね。コモンアイテムの”マールちゃんスクール水着”を置いていくから、楽しんでくれたまえ。 はっはっはっ! 魔法師団長ドナート)
「なっ、ななな、あの青二才があああああ!!」
魔法師団長ドナートから送られた、人を舐め腐ったメッセージを読んだレフシキは、文字通り怒髪天、持っていたアルカディアを叩きつけ、激怒した。 (アルカディアは超硬化魔導硝子製のため、傷一つついていない)
「全般的に平坦なマールちゃんでナニを楽しめというのか!!」
怒りが収まらないレフシキ。なお、ちっぱい好きの部下数人が、こっそりと”マールちゃんスクール水着”をシェアしていた。
「どちらの軍が立場が上か、あのボンクラに思い知らせてやらねばなるまい、行くぞ、お前たち!」
暑苦しい男たちは、手に武器、鈍器を持つと、司令部宿舎を飛び出していった。
次の日、帝国時報の一面に、陸軍と魔法軍同士の大乱闘事件が載ったことは、言うまでもない。
** **
「……フム、盛り上がっているようで、結構だ」
「いやいや、傷害事件が起きているじゃないっすか」
遥に出力してもらった対戦・会話ログを見て、俺は満足した。
苦労して実装した、スペシャルアイテム、”スリの金治カード”は好評のようだ。売り上げも多く上がっている。
「なんかゲームが違くないすか?」
淳がツッコんでくるが、失礼な。 インスパイアと言ってもらおう。
「……はっ!? ちょっとナオヤ! なによ、このスペシャルアイテムってのは? わたし知らないんだけど! ていうかポロリって何!?」
我に返ったマルティナが抗議してくる。さっきまでボケっとしていたのに、いそがしい奴だ。
「何を言うんだマルティナ、以前ポーラが言っていただろう。こいつが準備した、男性向けという奴だ」
「そうですよ、マルティナさん。 平等に男性向けコンテンツも用意するのが、正しい姿です。 心配しないで、マールちゃんには、ポロリするほどのモノがありませんからww」
「失礼すぎる!?」
言うまでもないが、プーラちゃんのモデルがポーラ、マールちゃんのモデルがマルティナだ。
「マルティナおねえちゃん、落ち込まないで……」
アバターの3Dモデルを作成するときに、ほんのり胸部装甲を増量してあげた、やさしい遥がマルティナを慰めている。ただ、1を1.5倍にしても1.5。もともと10の人間にはかなわない。冷徹な事実である。
「気にするな、マルティナ。お前の水着がよいとシェアしていた奴らもいたぞ。喜べ、これでお前も淫ピから、マニアック・ズリネタ女にクラスチェンジだ」
「1ミリもうれしくない!?」
思わずのけぞるマルティナ。いやあ、相変わらず最高のリアクションをしてくれる奴だ。ポーラなど、涙を浮かべて爆笑している。
「はあ、おなか痛いです……そんなことより、私が仕込んだアレを見てみませんか?」
「さらっと流された!?」
ポーラが仕込んだだと? 非常に嫌な予感がするが……
「いえいえ、大したことはしていませんよ。アルカディアの感応水晶の光学位相変換を応用した、変装ツールと、ふたりの熱い情事をこっそり保存できる録画機能がセットになった、不倫応援キットを一部奥様方にお渡ししただけです」
「「「「……」」」」
あまりにあんまりな追加機能に、唖然とする俺達。
「……それはまた、お前、最低なものを作ったな」
「そんなことないですよ、ナオヤさん。退屈な人生にこそ、適度なスパイスが必要なのです。かの英雄、ストーンデンがおっしゃいました。「不倫は文化だ!」と」
……そんな某ジュンイチのような英雄、ごみ箱に捨ててしまえ。
「ということで、宰相府で不倫のログが見つかりました。さっそく見てみましょう♪」
……見るのかよ。
止まる間もなく、ポーラはそのログとやらを再生してしまった。
** **
帝都中央宰相府 宰相私室
豪勢なベットの中央で、一組の男女が絡み合っている。
帝国宰相、イヴァン・イワノフと、貴族連合盟主の妻イライザである。
この2人は数年前から不倫関係にあるようだ。
「ふふ、お前、あの件は用意してくれたか?」
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「ははは、流石イライザだ。 あくどいことをしている貴族どもだ。このような証拠があれば、差し押さえるのはたやすい。ふん、これでツキア皇国を征服した証には、俺の立場は比類なきものになる」
「善人だが凡庸なあの国王を廃絶して、俺が皇帝だ。イライザ、お前は初代皇女になるのだ」
「ああ、流石イヴァン、もっと気持ちよくしてあげるわ……」
「ふっ、よさんかイライザ、まだ夜は長いぞ……」
ふたりの影が重なって……
** **
ぷちっ
中年デブ同士の絡みに興味はないので、再生を停止したが、これは……えらいことなのでは?
「醜聞ここにきわまれり、ね。 しかもあいつ、ツキア皇国を征服するですって!? 大変、早く対策しないと……!」
「とはいっても、ツキア皇国の軍事力では、帝国にはかなうまい。 こういう場合は、剣よりもペンだ」
俺はアルカディアを操作すると、先程の録画データを、先日知り合った帝国文春の記者にシェアした。
「……へっ? ペンって何?」
マルティナが、ぽかんとする。
「ふん、帝国文春の記者に、この醜聞を教えてやったのだ」
帝国文春。帝国発祥のゴシップ紙だが、現在はシルヴェスターランド中に販路を広げ、公称発行部数は1,200万。この世界最大のマスメディアだ。
普段は”ツキア皇国辺境に魔導UFOが!?”のようなアホ記事を載せていることも多いが、政治問題に鋭く切り込むこともあり、文春ブレスとして恐れられているらしい。先日ここの記者に、アルカディアについて取材を受ける機会があり、意気投合した俺から、取材活動に役立てばとアルカディアのデモ機をプレゼントしていたのだ。
「……こんなんで効くんですかね?」
「まあ、こちらのマスコミは、気概のある奴らが多い。しばらくは様子見と行こう。」
「どちらにしろ、皇国側には情報を共有しておくべきだろう。マルティナ、頼めるか?」
「分かったわ。任せて」
マルティナが真剣な表情で頷く。できれば、穏便に済めばいいが。
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