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プロローグ

第1話 元社畜、異世界で懸命に仕事しようとするも、乱入者に阻まれる

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 くそ、こんなんじゃクソ弊社は見返せない。何としても思い知らせてやる……

「くっ、有線でも速度は出ないか……」

 白を基調とした壁紙に紺のカーペット。静かにエアコンの作動音がするオフィスで俺、赤城 直也(あかぎ なおや)は非常に困っていた。

 少しラフにセットした前髪を、指先に巻き付けながら、ぐぬぬと唸る。
 会社支給のノートPC上では、光回線の速度計測アプリが無慈悲な数値を示している。

「128Kbpsだと……大昔のADSLか?」
「淳、ネットワーク機器は問題ないよな?」
「先輩、もちろんですよ。ルーターも回線の中継器も正常です。ただ……光回線の減衰がやはり……」

 部下である戸根 淳(とね じゅん)がPCを操作しながら答えてくる。何度回線のチェックをしても同じようだ。

「光回線の減衰か…やはり「」だとそうなるか……」
「N電工の担当者もお手上げだそうですからね」
 淳がやれやれと肩を竦める。

 サラサラのショートボブが印象的な優男で、お前本当に24歳かと思うが、こいつは優秀なインフラエンジニアだ。俺か?アラサーとなり、大人の渋みというのが出てくるころであろう。断じておっさんではない。

 話を戻すが、一般的に光回線…光ファイバーは距離による減衰がほとんど無いと言われている。中継器からわずか500メートル。通常なら、この距離で通信速度は落ちることは無いのだが…。

の技術者の話だと、「エーテル粒子」が影響しているという事だったか?」
「特定の周波数の電磁波を阻害するという話でしたが、なんか信じられないっすね」

 突然出てきたSFかファンタジー小説に出てきそうな用語に思わず淳が眉をひそめる。
「とにかく、何か成果を出さないと。国からの補助金の額も減ってきてるんだ。偉そうなことを言ってこの案件に志願した俺の立場が危うい! またデスマーチに放り込まれてしまう」

「先輩、いつもそればかりっすね」
「そりゃそうだろ、もうあんな地獄はごめんだね」

 まったく、昨年参加していた案件はろくでもないモノだった。24時間戦えますか? まったく、昭和の遺物は滅びるがいい。 訴えるぞ、おおん?とクソ部長と法務部に紳士的な交渉をした結果、され、飛びついたというわけだ。

 現地の学院?との産学共同プロジェクトであり、ちょこちょこと結果も出しているのだが……何か決定的な成果が欲しい。その為の今日のテストだ。しかし……

「上ばかり気にしてると禿げますよ……どう思われてもいいじゃないですか」
 淳が慰めの視線を送ってくるが(なんやかんやと良い奴だ)、俺の憤りは収まらない。大体……

 ズ…ズン……

 俺が弊社への文句を垂れ流していると突然、下腹部に響くような爆発音が建物を揺らした。窓の外では炎が吹き上がっているのが見える。

「……」
「……」
「「はあ…」」

 どちらともなくため息をつく。
「またアイツか…」

*** ***

「できたわ! これが新しい魔導素材よ!」
「最高級ミカゲストーンに光と炎の魔法力を込めて鍛え上げることで、ルーとライスを適度な温度に保ち、それでいて金属のえぐみもなく、口当たりまろやか。七色に光る、究極の!」

 ばん!と、入口の扉をぶち破らんばかりの勢いで入室、何やら七色に輝くスプ―ンらしきもの(正直まぶしい。ゲーミングPCか?)を高く掲げてアホなポーズをとる女、残念ながら「コイツ」が、「こちら側」の学院所属の技術者であり、認めたくはないがビジネスパートナーという事になる。



 肩にかかるくらいのボリュームのある桃色の髪に、少し生意気そうな大きな紫の瞳。目の高さの横髪ひと房がピンと斜め上を向いている。少しとがった耳に柔らかそうな頬。一応標準的と思われるスタイルの体を蒼を基調としたブレザーのような制服が包む。

 紺のラインの入った短めの白いプリーツスカートからすらりと伸びた足先には金属のようなソールをつけたローファーを履いている。
 文句なしの美少女……ではあるのだが、全体的な雰囲気が量産型学園ものJRPGのB級ヒロインのようだ。ぶっちゃけ、ポンコツ臭が漂っている。
 
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