上 下
33 / 46

第33話 迫る陰謀(後編)

しおりを挟む
 ごそごそ

「……んんっ」

 いつの間にか寝入ってしまったようだ。

 むぎゅっ

 お腹の当たりに柔らかな感触。
 同時に香る、花の香り。

 ああ、これは……アルだ。
 マリ姉謹製のヴィ○ル○スーンのようなシャンプーの香り。
 最近、よく彼女はこうしてベッドにもぐりこんでくる。

『今日はじゃんけんに勝ったから……ヒロインポイント3消費』

 何のことかはよく分からないが、髪を解いてふわふわのアルはとても愛らしく、少しだけ人間族より体温の高いアルのぬくもりに、すぐに寝入ってしまうのだ。

 うっすらと目を開けると、夕焼けの残滓が窓の外に漂っている。
 本格的に寝るにはまだ早い。

「おい、アル」

(ん?)

 晩飯を食いに行こう、そう言おうとしてアルの肩を掴んだのだが、どうも様子がおかしい。

「はあっ、はあっ……ジュンヤぁ♡」

 荒い息遣いに、甘い声。

 ぽたっ、ぽたっ

「えっ?」

 右脚の辺りに何やら濡れた感触。
 一気に意識が覚醒する。

 ばさっ

「……っっ!?」

 慌てて布団をめくった俺は、アルの姿に思わず息をのむ。

「やぁ♡」

 アルの格好は……ほぼ全裸だった。
 いつものうさぎさんパジャマは脱ぎ捨てられており、かろうじて肩に掛かったブラが右の乳房を隠しているに過ぎない。

「ちょっ、お前……!」

 何してるんだ。
 そう声を掛けようしたのだけれど、アルコールが残っている頭は上手く回ってくれない。
 なにより汗でてらてらと光る、彼女の蠱惑的な柔肌から目を話すことが出来ない。

(アルは背は低いけど同世代の子より発育がいい)
(溢れる愛らしさの中に感じる色気……どこに出しても恥ずかしくない、世界一愛らしい俺の妹分だ)
(いやいや、どこかに出すつもりなんかないけどな)

 混乱の余り、とりとめのない思考が頭の中をぐるぐると回る。

「えへっ♡」

 俺の心を読んだのか、アルの笑みがより深くなる。

 ぽた、ぽたっ

 右脚の濡れ度合いが増した。
 ちらりと視線を下げると肉付きの良いアルの太ももを、とろりとした粘液が伝うのが見えた。

(!?!?)

「ジュンヤ、アル……もう我慢しないね」

 ぎゅっ

 むちゅっ

 アルの右手が俺の大事なものを掴み、ぷっくりとした桜色の唇が俺の口をふさぐ。

(まずいまずい! このままではっ!?)
(アルのヤツ、酔っているのか!?)

 今のアルの様子はどう見てもおかしい。
 酔っているというか、淫らなサキュバスのような……。

 このまま欲望に身を任せては、なにかとんでもないことになりそうな気がする。
 もういいじゃないか、このまましちゃえよ。
 この子はお前の事を好いてるんだ……分かっていたんだろ?
 そう囁く頭の中の悪魔をグーパンで黙らせると、俺はしっかりとアルの肩を掴み説得を開始する。

「ぷはっ……
 ア、アル!」

「こういうことは、本当に好きな人とするものだぞ!
 獣人族の事はよく知らないが……もしかして発情期のようなものがあって耐えられないなら、ちゃんと相談してくれ。
 出来るだけの事をするから!!」

「……ほえ?」

 その瞬間、僅かに正気の色がアルのエメラルドグリーンの瞳に戻る。

 え、ジュンヤ……なに言ってんの?
 今さらですか?

 心を読めないはずなのに、そう言ってるような気がした。

「えっと……あ~」

 発情期という言葉は、年頃の娘さんに対してデリカシーの無い発言だった。
 ていうか、種族でそう決めつけるなど、失礼極まりない。
 すまない、そう謝ろうとしたのだが。

 ぐるぐる……どさっ

「……アル?」

 突然目を回したアルは、俺の胸の上に倒れ込む。

「……うぐっ、ごはっ」

「なっ!?」

 次の瞬間、アルは胃の中身をベッドの上に吐いてしまった。
 しかも、吐しゃ物には血が混じっている。

「アル!? アルっ!?」

 気絶しているのか、血の気を失ったアルはピクリとも動かない。

「ヒ、ヒール……」

 混乱しているせいで、魔法が上手く発動してくれない。

「フェ、フェリシア!
 助けてくれっ!」

 彼女の部屋は二つとなりだ。俺はありったけの大声で助けを呼ぶ。

「!! どうしました、ジュンヤさん!
 ……って、アルちゃん!?」

 すぐさま駆けつけてくれるフェリシア。
 ベッドの上に倒れているアルを見て顔色が変わる。

「すぐに調べますっ!」

 俺は気絶したアルを隣の部屋に運び、フェリシアに診てもらう事にした。


 ***  ***

「これは……”催淫(さいいん)の実”ですね」

「催淫の実?」

 さすがはフェリシアである。
 大きくレベルアップした彼女は最上位クラスの治癒魔法でアルを癒してくれた。

「エルフ族や獣人族などの亜人種に特に効果が強く、強制的に発情状態にしてしまう麻薬のようなものです。
 大昔、とあるマフィアがこの実の効果に目を付け、娼婦としてエルフと獣人を狩り集める事件があってからは流通が禁止されていたのですが……」

 フェリシアはアルの吐しゃ物から、黒いかけらを取り出す。

「しかも一度焙って熟成させ、即効性を高める加工がされています。
 そのせいでアルちゃんの内臓にまでダメージが……治癒魔法で解毒した際に一緒に治しましたが、これだけの量……オーバードーズ寸前でした」

「くっ……!」

 オーバードーズ……一足遅ければ、薬物中毒になっていたという事だ。
 油断した……なにも妨害が無かったから安心してしまっていた。
 俺の油断が、アルを危機にさらしたのだ。

「……ちょっとそれ、貸してくれるか」

「ジュンヤさん?」

 フェリシアから実のかけらを受け取る。

 アルの吐しゃ物は先ほど食べたであろうリンゴパイだけ。
 ほぼ間違いなく黒幕はあの男だが……証拠を集めておく必要があるだろう。

 俺のアルをこんなにしやがって……もう許さない。
 なるべく穏便に済ませよう……そう考えていた自分の甘さのせいでもある。
 俺は夜のとばりが下りた街へ駆け出すのだった。


 ***  ***

 どがっ!!

 土壁に深々と突き刺さるロングソード。

「お前たちの雇い主は誰だ?」

 バザールでアルにリンゴパイを売った店主。
 まずはそいつを問い詰める。
 後ろ暗い思いもあったのだろう。あっさりと元締めの存在を白状した。

 俺はその足で、バザールを支配するマフィアのアジトへと踏み込んでいた。
 用心棒など敵ではない。
 気絶し床に倒れ込む十数人の用心棒たち。

「ひ、ひいっ!?
 お前は何者だ……!
 コイツらは元Bランクの冒険者だぞ、それをこんなにあっさりと……」

「……聞こえなかったのか? お前たちの雇い主は誰だ?」

 バンッ!

 俺の拳で、壁に大穴が開く。

「ひ、ひいいいっ!?
 テ、テンガ王子だ! ”救世主ジュンヤが年端も行かない少女をレイプしていた”、その証拠を掴めば50万センドやるって……。
 そ、そこに契約書がっ……オレは雇われただけなんだ、許してくれっ」

「なるほどな」

 バキッ!

 俺はなおも言い募る元締めを気絶させると、金庫を壊して契約書を取り出す。

「やはりお前か、テンガ!」

 甘かった……卑劣な事をし、部下をいびるがギリギリで法律は守っていた元上司。
 そんな僅かな理性は王子になったことで吹っ飛んでしまったのだろう。

「徹底的にぶちのめす」

 もう許さない。俺の家族に手を出したのだから。
 アルも……フェリシアも村のみんなも。
 全部俺が守る。

 改めて俺はそう誓うのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐
ファンタジー
———力を手にした少年は女性達を救い、最強の組織を作ります! 魔力———それは全ての種族に宿り、魔法という最強の力を手に出来る力 魔力が高ければ高い程、魔法の威力も上がる そして、この世界には強さを示すSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fの9つのランクが存在する 全世界総人口1000万人の中でSSSランクはたったの5人 そんな彼らを世界は”選ばれし者”と名付けた 何故、SSSランクの5人は頂きに上り詰めることが出来たのか? それは、魔力の最高峰クラス ———可視化できる魔力———を唯一持つ者だからである 最強無敗の力を秘め、各国の最終戦力とまで称されている5人の魔法、魔力 SSランクやSランクが束になろうとたった一人のSSSランクに敵わない 絶対的な力と象徴こそがSSSランクの所以。故に選ばれし者と何千年も呼ばれ、代変わりをしてきた ———そんな魔法が存在する世界に生まれた少年———レオン 彼はどこにでもいる普通の少年だった‥‥ しかし、レオンの両親が目の前で亡き者にされ、彼の人生が大きく変わり‥‥ 憎悪と憎しみで彼の中に眠っていた”ある魔力”が現れる 復讐に明け暮れる日々を過ごし、数年経った頃 レオンは再び宿敵と遭遇し、レオンの”最強の魔法”で両親の敵を討つ そこで囚われていた”ある少女”と出会い、レオンは決心する事になる 『もう誰も悲しまない世界を‥‥俺のような者を創らない世界を‥‥』 そしてレオンは少女を最初の仲間に加え、ある組織と対立する為に自らの組織を結成する その組織とは、数年後に世界の大罪人と呼ばれ、世界から軍から追われる最悪の組織へと名を轟かせる 大切な人を守ろうとすればする程に、人々から恨まれ憎まれる負の連鎖 最強の力を手に入れたレオンは正体を隠し、最強の配下達を連れて世界の裏で暗躍する 誰も悲しまない世界を夢見て‥‥‥レオンは世界を相手にその力を奮うのだった。              恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

処理中です...