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第6章 魔王様、世界征服へ

第55話 ザンガの陰謀

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「長老連第弐位、ヴェルノール殿。
 貴方には魔王ガルドと組んで謀反を企てたという猜疑が掛かっております」

「ザ、ザンガ様!?
 何をおっしゃるのですか!?」

 エルダードラゴンの背に乗り、黒水晶で出来た豪奢な門をなぎ倒しながら屋敷に侵入してきたザンガを止めようとする老魔族。

 バギンッ!

「がふっ!?」

 大魔王ヴェルノールの執事は、エルダードラゴンの尻尾の一撃でぼろ雑巾のように吹き飛ばされる。

「何事だ、騒々しい!」

 騒ぎを聞きつけたのか、屋敷の窓から小柄な老人が顔を出す。
 とても巨大な力を持つ大魔王には見えないが、魔界トップクラスの実力者であるヴェルノールだ。

「……オルカディアの小僧か。
 何の用だ、無礼な奴め!」

 ヴンッ!

 ヴェルノールが右手を一振りすると、極限まで収束された魔力の光がザンガの乗るエルダードラゴンを直撃する。

 キュボッ!

 一瞬でチリと化したエルダードラゴンの背中から飛び降り、芝居がかった仕草で着地するザンガ。

「……失礼」

「繰り返しになりますが、魔王改め反逆者ガルドと組んで”枢密院”に対し謀反を企てた疑いが掛かっております」

「枢密院だと?
 何のことだ!」

 聞きなれない言葉に苛立つヴェルノール。
 もともと、魔界でも最大規模の企業グループの長でもあるヴェルノールは、豊富な資金を元に長老連を影から操ってきたのだ。
 そんな自分が知らない組織などあるはずがない。

 それに、大魔王の癖に清貧を是とし、魔界の改革を訴えていたガルド。
 元老院連中からは煙たがられていたものの、一般魔族からは人気があったため、次期長老連入りが噂されていた。

 この動きを疎ましく思ったヴェルノールは隠居していた旧友オルカディアをそそのかし、その息子であるザンガを使ってガルドの力を削ぐことにしたのだ。
 息子であるガイの異例ともいえる低ランク世界への派遣、魔王ガルドの辺境への幽閉……その目論見は成功しつつあった。

(この小僧……どこで気付いた?)

 当初はザンガの働きぶりに満足していたヴェルノールだが、魔王候補生の身分のまま、急速に権力基盤を整えていくザンガに危機感を覚え、”保険”を準備していたのだ。

 単純な魔力では魔界最強であるガルドとその力を色濃く受け継ぐ息子ガイ。
 いざという時の手駒にするため、ひそかに軟禁状態のガルドに接触していた。
 自分で追い詰めておいて何様のつもりだという所だが、そんなことを気にするヴェルノールではない。

「枢密院では全会一致で貴方の拘禁をご裁可いただきました。お覚悟を」

「……なに!?」

 ヴンッ!

 大業な仕草で両手を天にかざすザンガ。
 浮かび上がった魔法陣には、確かにヴェルノールを除いた長老たちの魔術署名が刻印されている。

「馬鹿なっ!?」

 暗躍していたつもりが、追い詰められていたのは自分だった。
 驚愕に細い目を見開くヴェルノール。

 だが、腐っていても魔界第3位の実力者である。
 一瞬で動揺を治めると、ザンガの様子を観察する。

 ヤツが乗ってきたエルダードラゴンは始末したし、部下が隠れている気配もない。
 それにここはワシの屋敷内……侵入者を始末する魔術罠が無数に設置されている。
 老いたとはいえ、若造一人に後れを取るワシではないわ!!

「ふん……このヴェルノールが貴様などに大人しく従うと思うのか?」

 ドンッ!

 ヴェルノールの言葉と共に、ザンガの周りの地面が爆発的に盛り上がる。

 ズアッ!!

 その中から生えてきたのは13本の手。
 若かりし頃、征服した異世界で捕獲した魔獣共を改造して作り上げた”番犬”だ。

 デバフ系魔術が得意なヴェルノールに掛かれば、ザンガの力を抑えることなど造作もない。
 コイツが倒されれば他の長老連中も手の平を返すだろう。

 ヴェルノールは勝利を確信していた。

「……ええ、おとなしく従って頂けるとは思っていません」

 ア、アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 俯いていたザンガが顔を上げた瞬間、やけに耳障りな声が響く。
 胸の奥をかきむしられるような旋律。

「な……これは、聖歌か!?」

 バシュウッ!

 ザンガを囲んでいた魔獣の手が、聖なる力に耐え切れず消滅していく。
 魔族の天敵とも言える忌まわしき女神の歌。
 何度となく魔王の覇業を阻んできた天敵だ。

「だ、だがっ!」

 魔の聖域である魔界では、女神の力は及ばない。
 魔界で聖歌を聞く事などありえないはずなのだ。

「少々、面白いモノを手に入れましてね」

 キイイイイイイイイインッ

 ザンガの目前に現れたまばゆいばかりの白光は、徐々に人間の女の形をとり……。

 ドンッ!

 光の剣がヴェルノールを両断した。

「長老連第弐位、ヴェルノール殿……我に討たれることを良しとせず、自害せり」

 ぱしゅん!

 満足げに頷いたザンガはその場から転移する。

 ズッ……ズガアアアアアアアアンッ!

 次の瞬間、ヴェルノールの残骸は彼の屋敷ごと砕け散るのだった。


 ***  ***

「なんと!! ボク、魔王を退治する夢を見たんです!!
 デニスさん! コレって吉兆ですよね!?」

 寝袋から飛び起きるなり顔を輝かせたフェリシアが、不寝番をしていたデニスの手を興奮気味に取る。

「いや、知らねえけどよ……それより姐さん、そろそろ契約終了じゃダメか?」

「駄目ですっ♪」

「だよなぁ……」

 謎の力で命を救われたとはいえ、日に日に人間離れしていくフェリシアの元から逃げだしたいデニスだったが、化け物じみた実力を手に入れた彼女が逃してくれるはずもなく

「次はグラノール帝国に協力してもらいましょう!! 徹底的に!!」

「「ひ、ひいいいいいいいいっ!?」」

 なすすべもなくフェリシアに引き摺られるゲウスら下っ端たち。
 勇者フェリシアの地固めは着々と進んでいくのだった。
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