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第8話 メイド少女と貴族の陰謀編 その1 サナちゃんお買い物

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 オレたちは、たまに飛んだり(サナの奴、意外に重い……やはり胸か?)、歩いたりして、次の街、リーベに到着した。

 ヴァイナー公国辺境部への入り口となるそこそこ大きな街。 人口も10万くらいあるだろうか。
 そこらの村や町と違い、入り口に立派な正門があり、道路も舗装され、大勢の人が行き来している。

 ここなら、アーバンロリ(意味不明)もゲットできるに違いない。 ふひひ、テンション上がってきた!

「ふわわ、こんな大きな街、初めて来ました……それに、歩いている女のひとの身なりがきれいです!」
「わたしの村、ビッチかヤク中かヤンキーしかいなかったので、新鮮です!」

 サナが目を輝かせながら、感激している。
 サナの生まれ故郷って、どんなだ? と一瞬気になったが、いつもの妄想かもしれないので、スルーしておく。

 ……ふと、サナが立ち止まり、なにかを決心したような顔で、足元を見つめている。 

 ? どうした……別れ話か? (付き合ってもいないが……)

「あっ、あの! リリ様……愛人の立場でおこがましいと思うのですが……」

 ……おい、いつお前がオレの愛人になった……



「わっ、わたしに、オーデコロンを買っていただけないでしょうか!!」

「……はい?」

 思いつめた表情から繰り出された、やけに繊細で、かわいい望みに、思わずオレは、ぽかんとするのだった。


 ***  ***

「なんだ、サナは自分の体臭を気にしていたのか? 別にいーじゃん、そんなの。 ケモノはクサいもんだし」

「よくないですっ! 獣人族の村で引きこもりしてるならともかく、世界を旅するんです! リリ様を主人公とすると、わたしはヒロイン! 足クサヒロインとか、許されません!」

「えー、イイじゃん……個性的で。 いまは個性の時代だぞ?」

「そーいう個性は不要です! ルーヴィン村で、ボーイさんが、わたしの臭いを熟しすぎたチーズって……くっ……ヒロインとして屈辱です……」

 どーやら、サナはルーヴィン村での出来事が、よほどショックだったようだ。 オレは特に気にしないけどな……無臭の方が興奮しないし。

「そんなに気になる? うーん、ちょっとブーツ脱いでみてよ」

「……いいんですね? 知りませんよ……」

 ぬぎっ……つーん

「うわ、くっさ!!」
「ひどっ!?」

「うう、そういうリリ様はどうなんです……靴下履くの、嫌いなんですよね……さぞかし」

 オレか? ほれ。
 ぬぎっ……ふわっ

「元気の出る、スイーツオレンジの香りが!?」
「……ううぅ、何という事でしょう……こんな所までチートだなんて……責任者出てきてください」

 オレの足の香り(気持ちを高揚させる、スイーツオレンジの香り)を嗅いで、ショックを受けたのか、地面に倒れ込み、さめざめと泣くサナ。

 さすがにかわいそうになってきたし、なんでも買ってやるか。 金ならたんまりあるしな(ルーヴィン村から貰った)!

 ……ん? まてよ……ここは大きな街の入り口……美少女二人が靴を脱いで、互いの足の臭いを嗅ぐ光景……もしかして、なのでは……?

 ギギギと首を動かして、周りを見ると、「ねー、まま、あのお姉ちゃんたちなにしてるのー」「しっ! 見ちゃいけません! まずは足から始まって、腋、[ピー]になったりするの! マネしちゃだめ!」

 などど、ひそひそと噂されているのが聞こえる。 おいそこの母親、なんでそんなに詳しいんだ?

「……ッッ」

 急に恥ずかしくなったオレは、サナの手を引くと、化粧品などを置いてるであろう、雑貨屋に急いだ。


 ***  ***

「はえー」

 オレは元オスなので、このようなコスメショップというのか? に来るのは初めてだ。1万4千年前の初デートの時も、恥ずかしくてこういう店には入れなかったからな―。

 思わず遠い目をしてしまう……それにしても、こういう店はなんでこんなに、すべてがピンクピンクしてるんだ? 落ち着かないぜ……

「いらっしゃいませ……あら、かわいいお嬢様がたですね。 何をお探しですか?」

 店員のおばちゃん……というか、おばさまがにこやかに話しかけてくる……適当に入ってしまったが、もしかしてここ、高級店なのでは?

 よく見れば、ディスプレイされている化粧瓶には凝った装飾が施されているし、商品には値札が付いていない。 だ、大丈夫だろうか……いくら最強ドラゴンとはいえ、貨幣経済には勝てないのである。

「あの、わたし獣人族なんですが、できればキツイ体臭を消せるものを……」

「なるほど、最近は気にされる方も多いですね……それなら、この”ロイヤル・サント・マリア・ルヴェール”はいかがでしょう? 希少な幻獣の角を原材料に使っており、香りでごまかすのではなく、魔導的に元から臭いを押さえる、大変効果の高い香水でございます」

 ろーやる・さんと・まりあ・るべーる!

 女子向け……というか、セレブ向けな響き!

 あまりに女子力高そうな名前に驚愕していると、サナはこれがとても気に入ったようだ。嬉しそうに香りを嗅いでいる。

「わっ! 凄いです! あの頑固な臭いが一瞬で……! あ、でも……(ちらっ)」

 高そうな瓶に気後れしたのか、申し訳なさそうな表情でこちらを見てくるサナ。
 うんうん、気にすんな。 今日はプレゼントするって決めたんだ。 オレがニヤリとうなずくと、サナはぱっと顔を輝かせる。

「そ、それじゃ、これをもらえますかっ? ああ、これでチーズの香りとはおさらばです」

「ふふ、喜んでいただけたようで、何よりです。 それでは、こちら6,000公国マルクとなります」

 へ? ろ、ろくせん? ちなみに、そこそこいい宿屋が1泊300公国マルクほどである……た、たけえ、高級女子力恐るべし!

「え、えええ? ろ、ろくせんっ!? わたしのバイト代1ねんぶん……り、リリ様さすがにこれは……」

「いや、気にすんな、サナ! ドラゴンに二言はない!」

 ここで、”もう少し安いやつで”なんて、かっこ悪いことを言えるか! だいぶ財布は寂しくなるが、せっかくだ、買ってやろーじゃねーか! 大事な下僕のためだし。

「ああ、リリ様、本当にありがとうございます。 このご恩は、毎夜のご奉仕でお返しを……」
「いや、すんな」

 いつものやり取りだが、サナはとてもうれしそうだ。この笑顔を見れただけでも買ってやった甲斐はあるな!

「よし、買うもん買ったし、飯にしよーぜ! ……チーズフォンデュでいいか?」

「ちょっ……そういう地味な嫌がらせはやめてください!」

 オレ達はじゃれ合いながら、おいしい食堂を求めて街を歩くのだった。
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