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第52話 迫る闇(デルゴサイド)
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――― ダンジョンポータル、12階層。
ウオオオオオオンッ!
巨大な体躯を持つ一つ目の巨人が、駆け出しの探索者たちに迫る。
「う、うわあああああああっ!?」
「な、なんでこんな低階層にサイクロプスが!?」
逃げ惑う探索者たち。
彼ら彼女らのほとんどは、探索者を始めて数か月の初心者だ。
中には若者に人気のダンジョン配信に参入しようとして派遣された、アイドルとテレビ局のクルーの姿も見える。
ブオンッ……がすっ!
「げふっ!?」
ブンッ
「ぐはっ!?」
サイクロプスの棍棒は、哀れな探索者やテレビクルーを次々にとらえ、血の海に沈めていく。
べしゃっ!
「ひいいいっ!?」
返り血を浴び、腰を抜かして座り込むアイドルの少女。
グオオオオオオンッ
ズンッ
彼女に近づいていくサイクロプスは、その醜い陰茎を屹立させている。
この巨人が何をしようとしているかは明らかだった。
ビリイイイイッ
「いっ、いやあああああああああっ!?」
布を裂く音と少女の悲鳴が、動く者のいなくなったダンジョンの中に木霊した。
救援部隊が到着したのは、それから20分後のことだった。
*** ***
「ふむ、悪くないな」
新聞の一面に大々的に取り上げられている事件の記事を見て、満足げな吐息を漏らすデルゴ。
昨日発生した、低層ダンジョンでのSランクモンスター出現事件。
駆け出し探索者が多い日曜午後だったこともあり、20名の死者と15名の重軽傷者が出る大惨事となっていた。
特にアイドルの少女がサイクロプスに犯される様子はテレビ局クルーのハンドカメラに残っており、デルゴの手引きで魔導通信網(ネット)上に動画を流しておいた。
ダンジョンの恐ろしさ、モンスターの醜悪さを改めて目の当たりにし、モンスター撲滅の声が大きくなる一方、少女の動画を面白おかしく楽しむゲス野郎どももいて、ネット上のカオスは留まることを知らない。
「このガキはまだ使いどころがある」
救援部隊として現場に送り込まれたのはデルゴの派遣した悪霊の鷹(エビルズ・イーグル)である。
サイクロプスに犯され瀕死のアイドルを見つけた彼らは、どう処分するかをデルゴに問い合わせてきたのだが、デルゴは回復アイテム使い彼女を治療するように指示した。
モンスターの恐怖を体の芯まで刻み込まれた少女は、モンスター抹殺世論の象徴となるだろう。
「人々の憎悪の念がダンジョンポータルに向けば向くほど、バランスは”闇”に倒れる」
やり過ぎとの批判も多かった、苛烈なダンジョン配信を行う悪霊の鷹の人気はうなぎのぼりで、モンスターを殺し尽くす彼らのスタイルはこの事件を経て更なる支持を集めていた。
それがより深い闇(カオス)を魔窟に与えるのだ。
タクミとYuyuを一定期間ヴァナランドに隔離するというデルゴの策は、十分な効果を上げていた。浄化役である彼らがいないダンジョンポータルは、闇に染まっていくしかない。
ヴィンッ
その時、デルゴのスマートフォンが赤紫の光を放つ。
「奴か」
高位魔族のみが使える特殊な通信魔法を応用したもので、発信元は彼の手駒であり皇国の高官としてヴァナランド政府内に潜り込ませている魔族からだ。
「私だ。
なにがあった?」
『はっ、実は……』
スマートフォンから聞こえる苦々し気な声。
何があったかはだいたい予想がつく。
類まれな”聖”の力を持つタクミとYuyuが向こうに行っているのだ。
”魔族”にとって不都合な事態が発生したのだろう。
「ふん、その程度想定の範囲内だ。
それより、予定通り3日後に魔窟に対する実験を行う。
そのタイミングで【特異点】とリアンを魔窟に近づけろ……分かったな?」
ドスの効いた声で指示を与えるデルゴなのだった。
*** ***
「はううぅぅ」
「…………(赤面)」
模擬戦を兼ねた演武を終え、リアン様主催のお茶会に招かれた俺たち。
先ほどの公開キスを思い出して俺とユウナはいまだ顔が赤い。
いくら儀式だったとはいえ、公衆の面前である。
ユウナは恥ずかしそうに顔を背けているが、俺の服のすそを握っているのがいじらしい。
なでなで
いつまでも恥ずかしがっているわけにはいかないので、ユウナの頭を優しく撫でてやる。
「ふへへ~♡」
とたんにふにゃりとした笑みを浮かべるユウナ。
「なるほど、これが”ちょろかわ!”というヤツね! 勉強になるわ!」
何故か手帳にメモを取っているアリス。
俺は右手でユウナを撫でながら、左手でスマホを開く。
先ほどアップした模擬戦の動画に対する反応コメントをマサトさんが送ってくれたのだ。
”ゆゆアリとだんきちの模擬戦!!”
だんきちフルクロスwwwww
”だんきちつえ~!”
”ヴァナランドの魔法使いつよつよ!”
”リアン様美人だな~”
”え? リアン様ってこないだのぶらありすに出てた人に似てね?”
”ああ、ゆゆアリちゃんねるだけが心の癒しだよ~”
”早くダンジョン配信に戻って来て! もう限界!”
(……ん?)
いつものコメントの中に混じる内容に少しだけ違和感を感じる。
ヴァナランドにいる間は休止中のダンジョン配信を切望されるのは嬉しいのだが……。
「タクミ殿、ユウナ殿、アリス殿」
コメントを更に読み進めようとした時、グレーのスーツを着込んだミーニャさんが話しかけてくる。
少し困ったような表情を浮かべている。
「明日からの予定に少し変更が入ってしまって……先に”魔窟”方面に行くことになった。念のためではあるが、冒険のご用意を」
当初の予定では、聖地であるヴェーナー神殿へ行く予定だった。
魔窟とダンジョンポータルの紹介は、その後の予定だったが入れ替わったのだろうか?
「申し訳ありません、タクミさん。
日本の紹介をして頂いたのだから、次は我が国と日本の絆を紹介すべきだろう、と産業振興を担当している大臣からねじ込まれまして……」
両手にお菓子を持ってやってきたリアン様も少々困り顔だ。
「彼がどうしてもと言いますので……」
リアン様の視線の先には漆黒の羽根を持ったエビル族の高官の姿が。
「…………」
ちらとリアン様に一礼すると、部屋を出て行ってしまった。
「ふぅ」
小さくため息をつくリアン様。
政治的にも色々あるのだろう。
「問題ないですよ、俺もダンジョンポータルの成り立ちは気になっていましたので」
「ダンジョンポータルに出るモンスターは、その魔窟で発生するんですよね?」
「とっても興味深いわ!」
「……ふふっ」
興味津々の俺たちに笑みを浮かべるリアン様。
こうして俺たちは、予定を変更して魔窟があるエリアに向かう事になったのだった。
ウオオオオオオンッ!
巨大な体躯を持つ一つ目の巨人が、駆け出しの探索者たちに迫る。
「う、うわあああああああっ!?」
「な、なんでこんな低階層にサイクロプスが!?」
逃げ惑う探索者たち。
彼ら彼女らのほとんどは、探索者を始めて数か月の初心者だ。
中には若者に人気のダンジョン配信に参入しようとして派遣された、アイドルとテレビ局のクルーの姿も見える。
ブオンッ……がすっ!
「げふっ!?」
ブンッ
「ぐはっ!?」
サイクロプスの棍棒は、哀れな探索者やテレビクルーを次々にとらえ、血の海に沈めていく。
べしゃっ!
「ひいいいっ!?」
返り血を浴び、腰を抜かして座り込むアイドルの少女。
グオオオオオオンッ
ズンッ
彼女に近づいていくサイクロプスは、その醜い陰茎を屹立させている。
この巨人が何をしようとしているかは明らかだった。
ビリイイイイッ
「いっ、いやあああああああああっ!?」
布を裂く音と少女の悲鳴が、動く者のいなくなったダンジョンの中に木霊した。
救援部隊が到着したのは、それから20分後のことだった。
*** ***
「ふむ、悪くないな」
新聞の一面に大々的に取り上げられている事件の記事を見て、満足げな吐息を漏らすデルゴ。
昨日発生した、低層ダンジョンでのSランクモンスター出現事件。
駆け出し探索者が多い日曜午後だったこともあり、20名の死者と15名の重軽傷者が出る大惨事となっていた。
特にアイドルの少女がサイクロプスに犯される様子はテレビ局クルーのハンドカメラに残っており、デルゴの手引きで魔導通信網(ネット)上に動画を流しておいた。
ダンジョンの恐ろしさ、モンスターの醜悪さを改めて目の当たりにし、モンスター撲滅の声が大きくなる一方、少女の動画を面白おかしく楽しむゲス野郎どももいて、ネット上のカオスは留まることを知らない。
「このガキはまだ使いどころがある」
救援部隊として現場に送り込まれたのはデルゴの派遣した悪霊の鷹(エビルズ・イーグル)である。
サイクロプスに犯され瀕死のアイドルを見つけた彼らは、どう処分するかをデルゴに問い合わせてきたのだが、デルゴは回復アイテム使い彼女を治療するように指示した。
モンスターの恐怖を体の芯まで刻み込まれた少女は、モンスター抹殺世論の象徴となるだろう。
「人々の憎悪の念がダンジョンポータルに向けば向くほど、バランスは”闇”に倒れる」
やり過ぎとの批判も多かった、苛烈なダンジョン配信を行う悪霊の鷹の人気はうなぎのぼりで、モンスターを殺し尽くす彼らのスタイルはこの事件を経て更なる支持を集めていた。
それがより深い闇(カオス)を魔窟に与えるのだ。
タクミとYuyuを一定期間ヴァナランドに隔離するというデルゴの策は、十分な効果を上げていた。浄化役である彼らがいないダンジョンポータルは、闇に染まっていくしかない。
ヴィンッ
その時、デルゴのスマートフォンが赤紫の光を放つ。
「奴か」
高位魔族のみが使える特殊な通信魔法を応用したもので、発信元は彼の手駒であり皇国の高官としてヴァナランド政府内に潜り込ませている魔族からだ。
「私だ。
なにがあった?」
『はっ、実は……』
スマートフォンから聞こえる苦々し気な声。
何があったかはだいたい予想がつく。
類まれな”聖”の力を持つタクミとYuyuが向こうに行っているのだ。
”魔族”にとって不都合な事態が発生したのだろう。
「ふん、その程度想定の範囲内だ。
それより、予定通り3日後に魔窟に対する実験を行う。
そのタイミングで【特異点】とリアンを魔窟に近づけろ……分かったな?」
ドスの効いた声で指示を与えるデルゴなのだった。
*** ***
「はううぅぅ」
「…………(赤面)」
模擬戦を兼ねた演武を終え、リアン様主催のお茶会に招かれた俺たち。
先ほどの公開キスを思い出して俺とユウナはいまだ顔が赤い。
いくら儀式だったとはいえ、公衆の面前である。
ユウナは恥ずかしそうに顔を背けているが、俺の服のすそを握っているのがいじらしい。
なでなで
いつまでも恥ずかしがっているわけにはいかないので、ユウナの頭を優しく撫でてやる。
「ふへへ~♡」
とたんにふにゃりとした笑みを浮かべるユウナ。
「なるほど、これが”ちょろかわ!”というヤツね! 勉強になるわ!」
何故か手帳にメモを取っているアリス。
俺は右手でユウナを撫でながら、左手でスマホを開く。
先ほどアップした模擬戦の動画に対する反応コメントをマサトさんが送ってくれたのだ。
”ゆゆアリとだんきちの模擬戦!!”
だんきちフルクロスwwwww
”だんきちつえ~!”
”ヴァナランドの魔法使いつよつよ!”
”リアン様美人だな~”
”え? リアン様ってこないだのぶらありすに出てた人に似てね?”
”ああ、ゆゆアリちゃんねるだけが心の癒しだよ~”
”早くダンジョン配信に戻って来て! もう限界!”
(……ん?)
いつものコメントの中に混じる内容に少しだけ違和感を感じる。
ヴァナランドにいる間は休止中のダンジョン配信を切望されるのは嬉しいのだが……。
「タクミ殿、ユウナ殿、アリス殿」
コメントを更に読み進めようとした時、グレーのスーツを着込んだミーニャさんが話しかけてくる。
少し困ったような表情を浮かべている。
「明日からの予定に少し変更が入ってしまって……先に”魔窟”方面に行くことになった。念のためではあるが、冒険のご用意を」
当初の予定では、聖地であるヴェーナー神殿へ行く予定だった。
魔窟とダンジョンポータルの紹介は、その後の予定だったが入れ替わったのだろうか?
「申し訳ありません、タクミさん。
日本の紹介をして頂いたのだから、次は我が国と日本の絆を紹介すべきだろう、と産業振興を担当している大臣からねじ込まれまして……」
両手にお菓子を持ってやってきたリアン様も少々困り顔だ。
「彼がどうしてもと言いますので……」
リアン様の視線の先には漆黒の羽根を持ったエビル族の高官の姿が。
「…………」
ちらとリアン様に一礼すると、部屋を出て行ってしまった。
「ふぅ」
小さくため息をつくリアン様。
政治的にも色々あるのだろう。
「問題ないですよ、俺もダンジョンポータルの成り立ちは気になっていましたので」
「ダンジョンポータルに出るモンスターは、その魔窟で発生するんですよね?」
「とっても興味深いわ!」
「……ふふっ」
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