上 下
38 / 53

第38話 3度目の配信対決

しおりを挟む
「さて……今日こそ徹底的にやっつけてあげる。
 若手No1ダンジョン配信者の座はアリスのものよ」

「くっ、今日は絶対負けないし!!」

 向かい合って拳を突きつけ合うふたり。

「ふふ、あなたとアリスの使徒数の差はもうわずか……今日で逆転するから、覚悟する事ね」

「うぐぐ……あんなの変なゴシップ記事のせいじゃん!」

「実は心当たりがあるんじゃない?」

「は? ねえっての!」

 アリスが言っているのは週刊誌に掲載された
『アリスの人気に嫉妬したゆゆ、楽屋でのいじめ現場を激写!』
『ゆゆに新恋人発覚!? 既に同棲しているとの情報も!』
 という悪意マシマシの記事のことだ。

 配信の切り抜きやフェイク写真で構成された低俗な記事で、信じているフォロワーは殆どいないがアンチたちが面白がって取り上げるせいでポイッターなどSNSはカオス状態だ。

 ……二つ目の記事はまぁ、一部分だけは合っているかもしれないが。

 ”はあ、今日のアリスは一段と感じ悪いな……”
 ”あんな記事を書かれる方が悪いっしょ!”
 ”実はほんとだったりして!”
 ”ロリコンアリス厨うぜぇ”
 ”いまどきギャルwwwww”
 ”ああもう、荒れてんな! ていうかこの配信の目的って何だよ?”

 コメント欄もギスギスしている。
 野次馬含め80万人ほどの入室者はいるが、盛り上がりはいまいちだ。

「もふっ!(こくり)」

 カメラに映らない角度で二人に合図を送る俺。
 ゆゆもアリスも小さく頷いてくれた。

「も~ふ(よ~い)」
「もふっ!(ドンッ!)」

 いつも通り赤い旗を持った俺は、対決の開始を宣言した。


 ***  ***

「うしっ! 先手必勝☆」

 今日の対決ではモンスターを倒した数を競う。
 先手必勝とばかりに前に出るゆゆ。

 コボコボ
 スラスラ

 レベルの低いコボルドとスライムであるが、ダンジョンの床を埋め尽くさんばかりの群れが眼前に出現する。

「よし、これで行くし!
 ファイアLV2!」

 ズドオオンッ!

 爆炎魔法が群れのど真ん中で炸裂し、10体ほどのコボルドとスライムを吹き飛ばす。

「ここでぇ~っ!」

 しゅたっ

 ジャンプ一番、爆炎魔法が作り出したスペースに降り立つゆゆ。

「ゆゆ、スペシャルコンビネーション!!」

 両手に高分子ガラスブレードを持ち、パルクールの要領でその場で回転するゆゆ。

 バシュ、バシュッ!

 襲い来るコボルドとスライムを次々に切り捨てる。

「くっ、むおっ!?」

 だが、モンスターの数は数百体以上。
 手数が足りず、群れに飲み込まれそうになる。

「バーストレーザー」

 ヴィイイイイインッ

「!!」

 アリスの閃光魔法がゆゆの近くをかすめ、数十体のスライムを消滅させる。

 ズッドオオオオオン!!
 ガラガラガラ……

 それだけではなく、閃光魔法の直撃で崩れたダンジョンの壁がコボルドを押しつぶす。

「おっけ!」

 お陰でゆゆが脱出する隙が出来た。
 大きくジャンプすると崩れた瓦礫の上に着地する。

「ういっ(にこっ)!」

「ふふ(にこにこっ)」

 ぱちん、とウィンクを飛ばすゆゆと、にっこり笑ってそれを受けるアリス。

 ”ああ、またあぶねぇなアリスは!”
 ”ゆゆに当たってたらどうするんだよ”
 ”ゆゆの魔法ショボすぎwwwwwこりゃまたアリスの勝ちだね”

 荒れかけるコメント欄だが、今日のゆゆとアリスの間には2回目の配信対決の時のようなぎこちなさはない。
 それに気づいたフォロワーもいるようで。

 ”おい、待てよみんな。よく見たら……”
 ”え?”

「ゆゆ、遅いですわ!
 ヘルバースト!」

 ズドンオンッ!

「うおっと♪」

 爆炎魔法の爆風を利用し、コボルドの群れを飛び越えるゆゆ。

 コ、コボッ!?

 一瞬で背後を取られ、混乱するコボルドたちの只中に二振りの高分子ガラスブレードを構えたゆゆが突っ込む。

「双剣乱舞!!」

 ザザザンッ!!

 魅せ技ではないゆゆの大技だ。
 たちまち斬り伏せられ、床に倒れるコボルドたち。

「……おっと、背中ががら空きだぜ☆ アリスっぴ!」

 ドガッ

 何かに気付いたのか、コボルドの一体を大きく蹴り飛ばすゆゆ。

 ひゅ~~~
 ガスッ!

「!!」

 放物線を描いて飛んだコボルドは、今まさにアリスに襲い掛からんとしていたコブリンをなぎ倒す。

「ファイアLV3!」

 ゴオオッ

 すかさず止めを刺すアリス。

「ふん、ありがとう!」

「へへ、どういたしまして♪」

 ぱちんとハイタッチをかわすゆゆとアリス。

 ”……あれ、仲良しゆゆアリが戻って来てる?”
 ”やっぱこれだよな~”
 ”ドヤ顔アリスかわよ”
 ”これがゆゆの実力なわけよ!”

 にわかに盛り上がるコメント欄。
 その後も卓越したコンビネーションを発揮するゆゆとアリス。
 ふたりはものすごい勢いでモンスターを退治していくのだった。


 ***  ***

(さて、そろそろか……)

 俺はだんきち内部に表示されているタイマーを確認する。
 配信が始まって15分。

 レイニさんの目的が、アリスを操ってゆゆの妨害をする事ならば、そろそろ仕掛けてくるはずだ。

「もふっ」

 俺はこっそりアリスに合図を送る。

(こくり)

 小さく頷くアリス。

 かちり

 俺はひそかに、アリスの制服に埋め込んだ防御機構を解除した。


 --- 同時刻
 レイニプロモーション執務室

「アリスが何を考えているかよく分かりませんが、そろそろいいでしょう」

 前回と異なり、抜群のコンビネーションを発揮するアリスとゆゆ。
 警戒していたゆゆを油断させるための演技であるとレイニは判断していた。

「演技はいいですが、長すぎですよ」

 しょせん子供である。
 クニオに用意させストックしたモンスター共にも限りがある。
 次で終わらせようと、レイニはマジェに取り付けたティムの宝玉を起動する。


 ***  ***

「あっ……うわあああああああああっ!?」

 ヴンッ

 何かの魔法が発動したと感じた。
 マジェが彼女の足元に駆け寄った瞬間、頭を抱えて座り込んでしまうアリス。

 ボワアアアアアアアアッ!!

 どす黒い漆黒の魔力が、アリスを包み込む。

 この光景は、はっきりと
 それこそが、俺たちの狙いだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

第十六王子の建国記

克全
ファンタジー
題名を「異世界王子様世直し旅日記」から「第十六王子の建国記」に変更しました。  アリステラ王国の16番目の王子として誕生したアーサーは、性欲以外は賢王の父が、子供たちの生末に悩んでいることを知り、独自で生活基盤を作ろうと幼い頃から努力を重ねてきた。  王子と言う立場を利用し、王家に仕える優秀な魔導師・司教・騎士・忍者から文武両道を学び、遂に元服を迎えて、王国最大最難関のドラゴンダンジョンに挑むことにした。  だがすべての子供を愛する父王は、アーサーに1人でドラゴンダンジョンに挑みたいという願いを決して認めず、アーサーの傅役・近習等を供にすることを条件に、ようやくダンジョン挑戦を認めることになった。  しかも旅先でもアーサーが困らないように、王族や貴族にさえ検察権を行使できる、巡検使と言う役目を与えることにした。  更に王家に仕える手練れの忍者や騎士団の精鋭を、アーサーを護る影供として付けるにまで及んだ。  アーサー自身はそのことに忸怩たる思いはあったものの、先ずは王城から出してもらあうことが先決と考え、仕方なくその条件を受け入れ、ドラゴンダンジョンに挑むことにした。 そして旅の途中で隙を見つけたアーサーは、爺をはじめとする供の者達を巻いて、1人街道を旅するのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

処理中です...