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第16話 戦い終わって

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「うぇ~い☆
 タクミっち、アシストありがと~♪」

 ご機嫌のゆゆと、パチンとハイタッチする。

「ていうか、あのスキルなに?
 あのレベルの魔法をぶち消しちゃうとか、ヤバくね?」

「ふぅ……。
 何とかなったらかよかったけど」

 ウキウキのゆゆだが、俺は素直に喜ぶことが出来ない。

「一歩間違えばヤバかったぞ俺たち。
 相手は悪い噂ばかり聞く高レベル密猟者だ」

 すべすべなゆゆの頬に優しく触れる。

 彼女がケガしなくて、本当に良かった。
 それどころか、最悪の事態になっていた可能性すらあったのだ。

「あぅ。
 タクミっち……ううん、タクミおにいちゃん。
 ゴメン、そしてありがとう」

「ホント、気を付けてくれよ?」

 なでなで

 ゆゆの頭を優しく撫でる。

「へへ~♡」

 この笑顔を見ていると、全てを許したくなってしまう。

「ゆゆ!」

 どーん!

 だが、兄であるマサトさんはそうはいかないようで。

 ささっ

 この後の展開を予想し、ゆゆのそばを離れる俺。

「あ、兄貴もゴメンね?」

「いや、

「ふへ?」

 がしっ!

「無茶するなっていつも言ってるだろうがあああああっ!!
 嫁入り前の身体がキズモノにされたらどうするんだ!!」

 ゆゆをヘッドロックし、ギリギリと締め上げるマサトさん。

「兄貴! ギブ、ギブ!! 折れるって!
 兄貴にキズモノにされちゃう!!」

「ケガは回復魔法で治る!!」

「ひでぇ!? 助てタクミおにいちゃん!!」

 ただでさえ調子に乗りやすいゆゆである。
 家族にしっかり叱られることも必要だろう。

 断腸の思いでゆゆを見つめる俺。

「……ふむ」

 丈の短いシャツから覗くお腹があまりに柔らかそうだったので、思わずくすぐりたくなる。
 ていうか、くすぐった。

「うひゃあ!?
 こ、この人ら、実はドS!?」

 泣き笑いの表情を浮かべるゆゆ。
 だが、救いの手は意外なところからやって来た。

 きゅうん?

 俺たちが助けたホワイトカーバンクルが、もう許してあげてよ?
 とでも言いたげにもふもふの身体を擦り付けてくる。

「くうっ……なんと!」

 いくら屈強なマサトさんとはいえ、モフモフには勝てない。

 つぶらな瞳のホワイトカーバンクルのお陰で、ゆゆは俺たちの責めから解放されたのだった。


 ***  ***

「ふひゃ~、ありがと、ありがとね~。
 よし、君の名前はホワくんだ!」

 きゅうん!

 ゆゆコスから普段着に着替えたユウナが、ホワイトカーバンクル改めホワくんと戯れている。
 ゆるふわ美少女ともふもふ神獣の絡みはとても尊い。

「とりあえず、タクミ君の”クリーナー・フィーア”は、LV4までの魔法なら、問題なく”消去”できるようだね」

 俺の新スキルを調査していたタクミさんが、タブレットに解析結果を表示しながら頷いている。

「いやそれ、マジでチートでしょ……」

「ただ、MPをけっこう消費しますからね。連発出来ませんよ」

 MPの使い過ぎでいまだに頭がくらくらする。

 ======
 ■基本情報
 紀嶺 巧(きれい たくみ)
 種族:人間 25歳
 LV:10
 HP:211/236
 MP:0/30
 EX:3,173
 ……

 ■スキルツリー
 ☆クリーナー・アインス 倒したモンスターを魔石に変換する。
 ↓
 ☆クリーナー・ツヴァイ 一定の確率で活動中のモンスターを魔石に変換する。
 ↓
 ☆クリーナー・ドライ 支援対象の”無駄”を消去し、行動を最適化する。
 ↓
 ☆クリーナー・フィーア 発動した魔法を消去(イレイズ)する。消費MP10
 ……
 ======

 実は黒髪男の回復魔法を消去した時点で、俺のMPは尽きていた。
 いくら1対2だったとはいえ、最後に残った青髪男を真っ向勝負で倒せていたかどうかは分からない。
 人間ハッタリも大事である。

「その悪霊の鷹(エビルズ・イーグル)の連中だがな。
 という事で釈放されたそうだ」

「……は?」

 神獣モンスターの虐待と、中層への無許可侵入だけで結構な違反になるはずである。

「それどころか、こちらも過剰防衛ではないかと注意されてね」

「そんな!」

「一応、彼らの言動に関して厳重注意と僕たちへの接近禁止命令は下されたそうだけどね」

「え~! なにそれ納得いかないよぉ!!
 ホワくんにあんなひどい事をしたのに!」

 ユウナも憤慨してるが、俺も全く同感である。
 あれだけの罪状を、しかも証拠動画まで残っているのに不問に出来るなんて。
 トウジの親が某大臣というのは、やはり本当なのだろうか?

「ダンジョン庁とダンジョン警察はこの決定に抗議、警察本部とのもめごとに発展したそうだ」

「やれやれ、ですね」

 最近増える迷惑配信に密猟者。
 その根っこは中々に深そうだ。

「事後処理は僕がやっておくから、タクミ君はユウナを家まで送ってやってくれないか?」

「了解です」

「ねえ兄貴、ホワくんは?」

「……家で飼えるよう、申請しておいてやるか」

「!! やたっ! ありがとう兄貴!!
 それじゃ、ホワくんまたね」

「タクミおにいちゃん、いこっ」

 ぎゅっ

 ユウナが俺の右腕に抱きついてくる。

 きゅんっ

「気を付けて帰るんだぞ」

 もふもふの手を振るホワくんとマサトさんに見送られ、俺とユウナは家路につくのだった。

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