TSサキュバス

藤塚ソラ

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第2章

第15話:魔術を覚えよう! 無理!

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 こんな時だからこそ心を落ち着かせる。
 背中やお腹、全身に感じる気持ち悪さを意識の外に出す。
 自身のお尻よりもっと先の尻尾へ集中する。
 目を閉じて深呼吸を一つ。

「すーはー」

 背中もお腹も肩も脇も脇腹もぬるぬるだ。
 きっと酷い絵面になっているに違いない。
 変態男のにやけている顔が目に浮かぶ。
 いや駄目だ、余計な事を考えるな。

「……」

 集中集中。
 たしか偶然魔術を発動した時には物凄く集中していた気がする。
 視界にはある一点だけが移り、周りの音が消えて自分と点だけの空間になったのだ。
 恐らく相当な集中力が俺の五感にそういう影響を与えたのだろう。
 それに比べると今は全然だ。
 目を瞑っているのに余計な音が聞こえる。
 ぬちゃだの、ぺちゃだの触手の音が煩い。

「ああ、最高だ! この眺め!」

 あいつが一番煩い。
 いや、俺の集中力が足りないのか。
 しかし集中しようと思えば思うほど意識が別の方へ行ってしまう。

「……」

 身体の力を抜く。
 踏ん張っていた足が足元から崩れていく。
 お腹に絡んでいた触手が胸へと移動していく。

「んっ」

 一瞬だけ胸の敏感な部分・・・・・・・に当たって声が出る。
 いや、関係ない。
 今の俺は尻尾だ。
 それにしか意識がない。

「……」

 ぴょこぴょこと背中に当たっている。

「んぅ……」

 今まで意識して動かしたことが無かった為か言うことを聞かない。
 動かそうとすると全力で動き、止めようとしたら少し揺れて止まる。
 その真ん中くらいの調整は今のところは出来そうになかった。
 だからこうして集中している。
 今の俺のこの集中力、高校入試の時以上だ。

 ぴこぴこ……。

 うーん、難しい。
 ここをこうすると尻尾が動きすぎちゃう、かと言ってほかの場所だと反応がない。

「うー……」

 そして気づいたが、この虫俺を殺すつもりはなさそうだ。
 俺の服だけを溶かし、見た目がどんどんいやらしくなるだけ。
 さすがあの変態男の生み出した生物だ。

 そして尻尾についても分かったことがある。
 動かすときに一番大事なのは集中力ではない、それよりも大切なのは慣れだ。
 赤子が成長し、つかまり立ちをし、やがて自力で歩けるようになる。
 そこに必要なのは毎日何回も繰り返して得る慣れなのだ。
 そして今の俺は慣れてはいない、それだけだ。

「……」

 はぁ、心の中でため息を吐く。
 自分の身体だからと言って自由に動かせるわけではないのだ。
 思えば尻尾だけではない、翼もツノも使い方なんて知らない。
 いや空は飛べたから翼は辛うじて使えると言っていいか?

 まあどっちにしろ今の俺にはここから抜け出すことが出来ないのは事実。
 触手に絡まれ全身がぬるぬるだ。
 かなり気持ち悪い。

「アリアー、だいじょーぶ?」

 すぐ近くで声が聞こえた、リリーだ。

「んあ、リリー、さん……。たすけて」

「……はーい」

 気の無い返事とともにズバズバと触手が切られていく。

「うわっ」

 俺は急に無くなった圧迫感に地面に転がった。

「最後、尻尾でどうにかしようとしてたでしょ?」

 ふりふりとリリーの尻尾が揺れている。
 この尻尾で触手を切ったのか……。

「まあ、アリアはこっちにきて間もないから身体の動きに慣れていなくても仕方ないわ」

 そう言いながらリリーは虫に光の玉を投げつけた。
 そして続けざまに懐に潜り込み尻尾で切り刻む。

「グギャアアアアッ!」

 大きな砂埃を舞い上げ虫が倒れた。
 見ると四肢がバラバラになっている。
 すごい、俺があんなに苦労したのに……。

「まあまあ、少しずつやっていきなよ。私もアイツも協力するからさ」

 アイツ・・・の方へ目をやると難しい顔をしながら何か唸っていた、らしからない。

「ログ! 水借りるわよ!」

「……ああ」

 覇気の無い返事だった。
 っていうかあの人、ログっていうんだ。
 そういえば自己紹介的なのしていなかったな。
 俺はそんな相手におっぱいを揉ませたのか。

「ほらアリア、行くわよ」

「え? あっ」

 手を引かれて俺らはすぐそこの家へ向かう。
 と思いきや家の裏に回る。
 そこには木に隠れて川があった。

「ほらアリア、身体洗っちゃいな。気持ち悪いでしょ」

「あ、ありがとうございます」

 服を脱ごうかと思ったが、今の俺は来てないのと変わらない。
 少し迷ったがそのまま飛び込むことにする。

「リリー、少しいいか」

「はーい。アリア、呼ばれちゃったから終わったら教えてね」

 ログに呼ばれてリリーが家の表側へ消える。
 その背中を確認し俺は力を抜く。
 ふわーと水面に身体が浮く。
 こんなはしたない事、人前では出来ない。

 眼前にか眩しいほどの青い空。
 そしてそれを囲むかのように木の緑が映える。
 そして俺は川の水に浮いていると。
 大自然だ、ため息が出るほどの。

「……」

 疲れた。
 そして何も出来なかった。
 俺は無力だ。

「……ああ」

 魔術無理!
 また明日!
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