鏡花水月

彼女

 
 「私の名前は乙桐 浅海。 こことは違う場所で詩を書きながら学問を学んでいた。 大したことはできないが、恩には報いよう 」

 「へぇ、オトキリ アサミさんかぁ……変わった名前だけど、良い名前だね 」

 そう言うと、彼女は満足げに「うんうん」と何度かうなずき、私がいることを思い出したかのように、はっと顔をあげると

 「ごめんごめん、あんまり良い名前だったからついね。 よし！ じゃあ行こうか！ 」

 まるで夜が明けるときの太陽のような眩しい笑顔が頭に焼き付いた。



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 彼女の家を出ると、辺りは深い森におおわれていた。 どこからか水の流れる音が聞こえ、鳥のさえずりが高く高く響いている。 小動物どもの動き回る音もまた、近くから遠くからと聞こえてくる。

 そのなかを彼女はご機嫌そうに手に持ったかごを揺らしながら鼻唄を歌っていた。
 まるで、鳥の歌に合わせているかのような、綺麗な音色と美しい音調は、私が小さい頃に母親に聞かせてもらったオルゴールの音を思い出させた。

 「乙桐ちゃん 」

 突然鼻唄を止めて、彼女は尋ねてきた。

 「乙桐ちゃんは、帰る場所あるの？ 」

 私の名前の後ろにつく『ちゃん』が気になるが、彼女が真剣そうな声色で話しているので、そこには触れず端的に「いいや 」とだけ答えた。

 「もし、よかったらだけど、私と一緒に住んでくれないかな？ 私の話し相手になってくれない？ 」

 「嬉しいお誘いだが、私は知りたがりでな、詳しい心理を聞きたい 」

 「・・・そのうちわかるよ 」