鏡花水月

テンセイ

 体がふわふわと浮かんで、自分の存在が上書きされていくような感覚が全身に伝わる。
 しかし、いつもだったらグッと勢いよく書き換えられていたのだが、今回はなにやら違った感覚だった。
 そこに流れ込んでくるいくつもの生の記憶。 どういうわけかそれらは全て誕生から自殺で締めくくられており、またこれらが全て自分の記憶だという事がわかった。

 奇妙な感覚だ。
 自分の頭の中に沢山の人間が住んでいるような、ごちゃごちゃとした感じがする。
 時間が経つに連れてそれらは一つにまとまっていき、全てが線として繋がったとき━━━

 「落ち着きましたね。 人間の魂よ 」

 どこからともなく女性の声がした。
 はて、誰の声だろうか。 頭の中に沢山の人生の記憶が入っているが、この声に聞き覚えは無いな。

 「私は女神。 あなたは今、新たなる世界へ転生しようとしています 」

 転生……
 ということは、この頭の中にある記憶は全部今まで転生してきた分のものだということだろうか？

 「そうです。 あなたは何度も転生を繰り返し、そして人生を終わらせてきた。 自殺という必ず決まった終わり方で。 なので、私は命を粗末に扱うあなたに罰を与えに来たのです。 あなたには次の世界で〈不老不死〉になってもらいます！ 拒否権はございません 」

 は、はあ。
 不老不死……本当に良いんですかね？だって……

 「それだけではありません！ あなたには可愛らしい少女になってもらいます。 年齢は……そうですね、十六歳程の女です。 あなたは男にも女にも転生した事があるから勝手はわかるでしょう？ しかし、その容姿からあなたは誰からも目に置かれ、自殺なんてできなくなります！ 」

 随分と自信満々なことで。
 それより、自殺できないのは困る。

 「さて、そろそろお時間が近づいて参りました。 最後にあなたに聞いておきます。 なぜ自殺を繰り返すのです？ 」

 なぜって……楽しいからに決まっています。

 女神からの返答はなく、まばゆい光が辺りを包み込んで、目の前が真っ白に染まった。