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KISS/優しき歌
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しおりを挟む好きだと、言わずにいた。
自分の気持ちなんかで、汚したくない。きっとそんなふうに、思っていた。あの頃の遼が、今でも忘れられず苦しむほどの恋をしていたなんて、考えもせずに。
少しずつ綺麗になっていく遼から、目を背けていた。自分の気持ちを、見ないようにしていた。遼も、いつまでも無垢な少年のままではないと、本当はわかっていたはずなのに。
「遼。……オレ、おまえのこと好きだよ。こんなこと言ったって、また悩ませるだけなのかもしれないけど。でもオレは、おまえが苦しんでるの、……我慢できないんだ」
遼が苦しい恋にやつれていく姿を、何かを堪えるように歯を食いしばっている姿を、そばで見ているのは辛かった。
こんなに苦しませるくらいなら、他の誰かに傷つけられるくらいなら、どうして、自分が守ってやらなかったのだろう。
あの日、空港で遼と別れてから、翔太が考えていたのはそんなことばかりだ。
「なあ……オレと、一緒にいないか。オレは……東條さんと、姉さんと、おじさんとおばさんの……その次でも、いいんだ。おまえが、あの人たちをすごく大事にしてるの、知ってるから。別に、一番じゃなくたっていいから……でも、オレと、一緒にいないか」
五番目でも、六番目でもいい。無理に愛してくれなくてもいい。誰かを忘れる必要はない。……苦しみと、寂しさだけを忘れて、笑っていてくれればいいのだ。
「おまえが、日本にいられないって言ったとき、オレ、どうしたらいいかわからなかった。あの時は、ただ混乱して……すぐに言ってやれなかったけど。
……おまえは、一人じゃないから。おまえの居場所、ちゃんとあるから。戻って来るの、不安がることなんてないから。オレが、待ってるから」
ひとつひとつの言葉を確かめるように告げると、翔太はちょっと照れ臭そうに、遼から目をそらした。
「それだけ……言いたかったんだ。だから来たんだ。メールで言ったって、冗談だろって笑うだろうから。ちゃんと会って、言いたかったんだ」
「…………」
翔太の瞳を見つめたまま、遼は座り込んでいた。返す言葉が、すぐには見つからなかった。
こんなにやさしい言葉を……受け取る資格が、今の自分にあるのだろうか。
翔太はどんんどん、大人になっていく。いつまでも立ち止まっている自分を、振り返って待っていてくれる。
「……ありがとう」
胸に溢れて来たものが今にもこぼれ出しそうで、遼は慌てて顔を伏せた。
翔太の指先が、気遣うような仕草でそっと遼の髪に触れる。泣くなよと囁くように、その髪の一筋だけに口づけて、離れていく。
……変わらない、優しさ。そしていつの間にか、自分よりも大きくなった掌。
幸せのために泣くなんて、きっと本当に幸せなことだ。
守られるばかりの自分ではなく。逃げているだけの自分ではなく……早く、追いつきたいと思った。
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