その罪の、名前 Ⅲ

KISS/優しき歌

６

「……こっち来る前に、おまえの家に寄ったらさ。おまえの姉ちゃんに、お土産いっぱい持たされたよ。……このスーツケースの中身、言っとくけどオレの荷物より、おまえ用の土産が多いんだからな」

　オレはスポーツバッグひとつで来るつもりだったのにと言って、翔太は小ぶりのスーツケースを足でつついた。クスクスと笑いながら、遼はゴメンと詫びる。

「土産って、なに？　……梅干しとか？」

「さあ、知らないけど……」

　オレは宅急便屋じゃないぞと冗談半分にぼやきつつ、翔太は遼の隣を歩きだした。

　ロビーの外に出ると、遼は道路脇に停まっていた一台の車に近づいた。
　その途端、ちょうど良いタイミングで運転席側のドアが開き、中から出て来た背の高い男が、片言の日本語で翔太にコンニチハと笑いかる。

　翔太が何か言葉を返すより早く、彼は翔太が引いていたスーツケースを受け取って、車のトランクに積んでくれた。

「……誰？」

　きょとんとして翔太がそう尋ねると、遼は微笑んだ。

「ロランだよ。……俺が、居候してる家の人」

　そう説明すると、今度は逆に、ロランに翔太のことを紹介する。

　流暢に英語をしゃべる遼の姿を目の当たりにして、正直、翔太は面食らった。高校時代、遼の語学の成績が良かったことは知っているのだが……。

「Ｎｉｃｅ　ｔｏ　ｍｅｅｔ　ｙｏｕ」

　ふいに英語でロランに握手を求められ、翔太はうろたえた。それでも何とかマニュアル通り、Ｎｉｃｅ　ｔｏ　ｍｅｅｔ　ｙｏｕ，ｔｏｏ、と答えることに成功する。

　……英語は、苦手だ。それを再確認して硬直している翔太を見て微笑みながら、遼は後部座席のドアを開けた。