その罪の、名前 Ⅲ

萩香

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KISS/優しき歌

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 7月の下旬に、大学の夏休みを利用して、翔太がたずねて来た。

 ドルヴァル空港の到着ゲートから出て来た翔太は、出迎えの人垣の中に遼の姿を見つけ、以前と少しも変わらない、屈託のない笑顔を見せた。

「……久しぶり」

 本当に、久しぶりだ。遼は翔太の言葉に頷きながら、十カ月ほど前、成田で別れたときのことを思い出した。

『姉さんが、東條さんと結婚するんだ』

 こらえきれず遼がこぼしたあの一言で、翔太は遼の置かれている状況を、すべて理解したはずだ。だが、そのあと翔太とやりとりしたメールの中で、恭臣の名が出て来たことは一度もなかった。

 翔太は遼に対して、何も聞かなかった。ただいつものように、日常の何でもない出来事を書いて送り続けてくれただけだ。

 それはきっと、翔太なりの気遣いだったのだろう。相変わらずの短いメールは、見知らぬ土地で暮らし始めた遼の不安や孤独を、確かに和らげてくれた。

 四月の初めに、就職が決まったというメールをもらった時は、遼も自分のことのように嬉しくなった。時差があることもすっかり忘れて日本に電話をかけ、すぐに翔太におめでとうと言ったほどだ。

「そんなに、大きな会社じゃないんだけど」

 翔太は謙遜したが、会社の雰囲気が気に入っているらしく、やはり嬉しそうだった。

 翔太は、遼が帰ってくる前に、一度カナダに遊びに行きたいと言い出した。……翔太はそうして、モントリオールを訪れることになったのだ。

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