1 / 25
KISS/優しき歌
1
しおりを挟む
※この物語は、『その罪の、名前』の第3部です。第1部、第2部を読んでからお楽しみください。
捨て切れなかったものは、……ひとつだけじゃなかった。
◆ ◆
モントリオールの春先の旧港で、港沿いに置かれたベンチの一つに腰掛けていた青年が、その時、どうしてか目についた。
東洋人だろう。多民族が混在するこの街では、そう珍しくもない。
彼は読んでいた本を閉じ、ふと足もとに擦り寄って来た猫を、膝に拾い上げる。まだ冷たい風の中で、その光景はなぜか、暖かく映った。
「Pardon,Monsieur.Puis-je prendre votre photo?」
近づいてそう声をかけると、彼はちょっと困ったように眉をひそめ、どこかぎこちないフランス語で、もう少しゆっくり話してもらえますか、と答えた。
「写真を撮ってもいいかい」
今度は英語でそう言い直すと、彼は少し驚いたように目を見開いた。
「俺の、ですか?」
にっこりと頷き、カメラを構えながら、ロランはようやく、この青年が目にとまった理由に気づいた。
綺麗な目だ。引き込まれそうに、優しい色をしている。
「名前は?」
ひとつめのシャッターを切りながら、ロランはそう尋ねた。ファインダー越しに、彼は答えた。
「リョウ。……リョウ、ミサキ」
それが遼との、出会いだった。
捨て切れなかったものは、……ひとつだけじゃなかった。
◆ ◆
モントリオールの春先の旧港で、港沿いに置かれたベンチの一つに腰掛けていた青年が、その時、どうしてか目についた。
東洋人だろう。多民族が混在するこの街では、そう珍しくもない。
彼は読んでいた本を閉じ、ふと足もとに擦り寄って来た猫を、膝に拾い上げる。まだ冷たい風の中で、その光景はなぜか、暖かく映った。
「Pardon,Monsieur.Puis-je prendre votre photo?」
近づいてそう声をかけると、彼はちょっと困ったように眉をひそめ、どこかぎこちないフランス語で、もう少しゆっくり話してもらえますか、と答えた。
「写真を撮ってもいいかい」
今度は英語でそう言い直すと、彼は少し驚いたように目を見開いた。
「俺の、ですか?」
にっこりと頷き、カメラを構えながら、ロランはようやく、この青年が目にとまった理由に気づいた。
綺麗な目だ。引き込まれそうに、優しい色をしている。
「名前は?」
ひとつめのシャッターを切りながら、ロランはそう尋ねた。ファインダー越しに、彼は答えた。
「リョウ。……リョウ、ミサキ」
それが遼との、出会いだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる