その罪の、名前 Ⅲ

萩香

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KISS/優しき歌

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※この物語は、『その罪の、名前』の第3部です。第1部、第2部を読んでからお楽しみください。

 


 捨て切れなかったものは、……ひとつだけじゃなかった。

   ◆  ◆    

 モントリオールの春先の旧港で、港沿いに置かれたベンチの一つに腰掛けていた青年が、その時、どうしてか目についた。

 東洋人だろう。多民族が混在するこの街では、そう珍しくもない。
 彼は読んでいた本を閉じ、ふと足もとに擦り寄って来た猫を、膝に拾い上げる。まだ冷たい風の中で、その光景はなぜか、暖かく映った。

「Pardon,Monsieur.Puis-je prendre votre photo?」

 近づいてそう声をかけると、彼はちょっと困ったように眉をひそめ、どこかぎこちないフランス語で、もう少しゆっくり話してもらえますか、と答えた。

「写真を撮ってもいいかい」

 今度は英語でそう言い直すと、彼は少し驚いたように目を見開いた。

「俺の、ですか?」

 にっこりと頷き、カメラを構えながら、ロランはようやく、この青年が目にとまった理由に気づいた。

 綺麗な目だ。引き込まれそうに、優しい色をしている。

「名前は?」

 ひとつめのシャッターを切りながら、ロランはそう尋ねた。ファインダー越しに、彼は答えた。

「リョウ。……リョウ、ミサキ」

 それが遼との、出会いだった。
 
 


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