その罪の、名前 Ⅱ

萩香

文字の大きさ
上 下
11 / 25
PAST/いくつかの嘘

11

しおりを挟む

 家で手料理を作って待っていたらしい知香は、遼と恭臣が一緒に現れたことに驚いたようだった。

「駅前の道で、偶然見かけて」

 恭臣は、淀みのない口調でそう説明した。

「バイト帰りで疲れてたから、助かりました。……ごゆっくり」

 遼はそう言って、二階にある自室へ上がった。「コーヒー、入れるわよ?」と知香が背後から声を投げてきたが、聞こえないふりをして階段を上った。

 できることなら、一緒にいたくない。うまく笑える自信がない。
 だがこの分だと、今日の夕食は、恭臣と同じテーブルを囲むことになりそうだ。そんなことを思って、遼は吐き気を覚えた。

 ぐったりと遼がベッドに沈み込んだちょうどその時、携帯のメール通知音が鳴った。寝転んだまま、ポケットに入れていた携帯を取り出し、メールを開く。

『須賀線で寝過ごして気づいたら大船だった』

 名前も書いてない、短い一文。こんなしょうもない内容をわざわざ送信してくるのは、一人だけだ。高校時代のクラスメイトの明るい笑顔を思い浮かべて、遼は思わず笑みをこぼした。

 村岡翔太。卒業してから、彼と実際に会ったのは数える程度だ。だが、メールだけはマメにやり取りしているせいか、疎遠になっている気がしない。

 パソコンを買ったとか、単位を二つ落としたとか、彼女ができたとか。そんな日常の出来事を、翔太は思い出したようにメールで打ってくる。

『ゴハン食べた?』

 遼がそう返信すると、すぐに向こうから『まだ』と返ってきた。
 遼はベッドから起き上がって、すぐに電話をかける。2コール目で、相手が出た。

「……久しぶり。元気?」

 そう言うと、電話の向こうからケラケラと笑う声が返ってくる。

『まあな。寝過ごしたけどな。……おまえは、元気ないじゃん』

 相変わらずの明るい声に、遼は思わずホッとした。救われた思いで、電話の向こうに問いかける。

「翔太。……今日、夕飯食べない?」

『いいけど。どこ?』

 遼は以前にも待ち合わせたことのある、高校の近くの店の名を言った。


 

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

共に行く者【BL風・ホラー/オカルト】

hosimure
BL
オレ、南條(なんじょう)和城(かずしろ)は仲の良い同級生たちと、グループとして一緒にいた。 特に仲が良かったのは、幼馴染の角汰(かくた)孝一(こういち)。 温厚で控え目だが、本当は頑固で真っ直ぐなヤツだ。 しかし最近、1人の女の子がグループに入ってきたことにより、グループ内の雰囲気がおかしくなった。 これはどうするべきか…。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

処理中です...