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141 貸し切り

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翌日、村を出発した。

この国でまだカードやモノを探したい気もあるが、権力の及ばない国に居続けるのは危険。
悪魔の力を借りれば大丈夫だろうけど、勇者の事もあるので使いにくい。
俺はラノベの主人公と違って自重というものを知っているのだ。
過信したり周囲の意見を聞かずに勝手に進んだりはしない。
未知が怖いというのもある。……いや、これが90%かな?



何事も無く、国境まで戻ってこれた。

国境では近衛騎士の一人が常駐していて、俺達を発見するやいなや宿に案内してくれる。
いつ帰るか判らないのに、宿を貸し切って部屋を確保していたらしい。

空き部屋があるのに使えないので宿屋も迷惑かと思ったら、逆に喜んでいた。
まず近衛騎士が泊まる程の宿と認識された事。
次に冒険者や傭兵と違い、行儀が良い事。
次に常に満員分の料金が貰える事。
最後に食堂に近衛騎士が居るので、治安が良い事。

近衛騎士が泊まっている事でイメージアップですか。

行儀が良いってのはどういう事かと聞けば、色々あるらしい。
汚いまま部屋に入って汚すとか、酒を持ち込んで騒ぎ暴れるとか、2人分のお金で3人泊まろうとするとか。
近衛騎士はそのような事はしないそうだ。
宿で待機でも勤務中になっているそうなので、酒も飲まないんだってさ。
ご苦労さまです。

満員分の料金を払ってるのは、安全の為らしい。
他人が泊まると何かする可能性があるからとか。
俺達が泊まる可能性のある部屋に罠を仕込むとか、最悪潜んでいる事も。
その為に他の客を除外して、宿そのものを確保する。

食堂の事もそう。
本来なら食堂も閉鎖するつもりだったらしいけど、ここの食事が人気らしいので許可したんだって。
だけど、そうなると一般市民だけでなく冒険者や傭兵も使う訳で。
でも近衛騎士が交代で食事を取り、終わった者は待機している。
これ、全員フル装備で。それは怖い。
こんな中で酒飲んで暴れるとか無理無理。
日本で言えば、警官が横で食事してる居酒屋みたいなものだ。

って事で、明日出発と聞いた店主は、とても悲しそうだった。


その日の夜。
集合をかけられたので、明日以降の予定の話し合いかと思ったら違った。

「勇者の姿が確認された模様です」
「国境で?」
「いえ、王都です。早馬で連絡が来ました」

王都に勇者出現か。
俺達を待ち構えているんだろうな。

「いかが致しますか?」

近衛騎士の隊長らしい人が王太子に聞いている。

「……まっすぐ戻ろう」
「了解しました。何か手配しますか?」
「いや、何もしない」

“まっすぐ戻る”の意味は判る。
あちこちに寄り道したりゆっくり帰る事で、時間稼ぎをするかどうかという事だろう。
だが、それをせずに戻ると。
つまり“待ち構えているのなら、時間稼ぎをしても無駄”と考えたに違いない。

手配ってのが判らない。
馬車はあるし、馬も居る。
護衛で近衛騎士も居る。

「手配ってのは、勇者に対してだ」
「ん?」
「例えば、国境の話をした時に出たが、指名手配するとかそういう事だ」
「え? でも別に何か犯罪をした訳でも無いんでしょ?」
「犯罪はしていない。だが、我々に危害を加える可能性があるなら犯罪予備軍とも言える。
 監視くらいは付けられる」
「それを断ったと」
「そうだ。
 本当に強いなら監視を付けても発見され排除されるだろう。
 それに待ち構えているとすれば、向こうから接触してくるはずだ」

納得です。
大事な人材を傷つけられたら大変だからね。
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