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120 お悩み相談、その3

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深々と礼をして帰っていった相談者。
なんか、まだ一人目なのにすげー疲れた。
まだまだ続くのか……。

「二人目はウイン・マシチ、70歳、嫁と息子夫婦と同居、です。
 出身地・所在地共にこの街で、御者業を営んでおります」

御者業とは。
多分だけど、御者を専門とする人の事だろう。
日本だと、バスやタクシーの運転手といったところか?

入ってきたのは白髪のおじいちゃん。
足腰はしっかりしているようで、背筋を伸ばしたまま普通に歩いて入ってきた。
同居という事だから、もしかしたら息子夫婦との仲に問題があるのかな?
もしそうなら、良いアドバイスなんか思いつかないぞ?

「どうもですじゃ」
「はいはい。ではお悩みをどうぞ」
「ワシは御者を始めて50年以上経っとります。
 なのに最近、息子がもう引退しろと言うのですじゃ!」

もう十分働いたから、ゆっくりしてくれって事か。
良い息子さんじゃないか!
息子夫婦と仲が悪いのかも、なんて考えて悪かったなぁ。

「その理由が許しがたくての! 馬車を御する能力の低下、瞬時の判断能力の低下、等、危険だから辞めろと言うのじゃ!!」

そっちか!
日本の免許返納問題みたいな感じか。
ニュースで見る限り、危ない気がするな。

「低下してるのならば、辞めるべきでは?」

そう言うと、態度が急変した!
キレ気味に喋りだしたのだ。

「ワシは大丈夫じゃ! 問題無い! 何十年もやってきたんだ! 若造には負けん!」

典型的な事故る老人の言い分じゃないか。

あ~そう言えば、仕事先の老人の運転に乗せてもらった時の事を思い出すわ。
あれは恐怖だった!!

ドライブに入れずにバックに入れる、サイドブレーキを戻さずに出発する、車線を踏んで走る、交差点を近回りする、等。
しかも前日には、現場に置いていたパイロンをバックで轢くという事をしてた。
あの時は助手席に乗ってて、足に力が入りっぱなしになったわ。

もっと言えば、何ヶ月か前に左折時に橋の欄干のコンクリート部分にボディを擦ったって言ってた。
なのにこの爺さんと同じで、運転には自信満々だったわ。

あの時は慣れない車(普段は軽バンでその時は1BOXカー)だから代わりましょうか?と言ったんだった。
なのに爺さんと同じ様に半ギレで「大丈夫だ! 慣れてる!」って言ってたなぁ……。
だから運転して貰ったけど、案の定恐怖体験。

自覚の無いのが一番問題だよなぁ。

「よし! じゃあこうしましょう。貴方に試練を言い渡します」
「試練じゃと?」
「はい、そうです。
 まず領主様の警備員を3人借り、種類の違う3台の馬車を用意します。
 警備員には試験である事を伝えず乗ってもらい、街中を一周。道中の会話はお互いに禁止とします」
「ほう、それで?」
「会話無しで楽しませてあげてください。出来ますか?」
「それくらい簡単じゃ!」

実際は、楽しいかどうかはどうでもいい。腕前を披露してもらいたいだけだ。
戻ってきたら警備員に御者の腕前を聞くのだ。
全員が問題無いと言うなら継続してもらおう。
一人がダメと言うなら、息子さんの指導の元で練習してもらって、OKなら継続。
二人がダメと言うなら、客を乗せたりする、いわゆる商売としての御者は引退。個人で乗るのは許可しよう。
三人共不合格だと言った場合、即引退だね。プライベートでも乗る事は許さない。

果たして結果はどうなるかな?




1時間後に実践が行われた。

結果?

即引退だよ。警備員の人全員が怯えてたくらいだからね。
ついでに領主さんと王太子には、免許制にしたらどうかと話しておいた。

爺さんは肩を落として帰っていったが、貴方の為だけじゃなく、周囲の安全の為にも諦めて欲しい。
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