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115 戦略的撤退

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ヒジリは報告だけ済ますと、ギルドを去っていった。
まだこの街には逗留するらしいけど。

俺達はどうするべきか。
ヒジリが居る以上は留まらない方が良いんだが。

でも逆に言えば、ヒジリが居る事でこの街には何らかのヒント、もしくはモノそのものがある可能性がある。
そうなると探した方が良い。
難しい問題だ。皆に相談しよう。

「う~ん、そうだな。
 先んじられる恐れはあるが、ここはやはり離れる方が良いだろうな」
「私もそう思う。
 もし何か発見してるなら、もう探してるでしょ。
 でもウロウロしたりギルドに顔出したりしてる。って事はまだヒントも見つけられてないんじゃないかな?
 ここで私達も探し始めると、後を付けてきたり、偶然を装って近寄ってきたりするかも?」
「その意見に賛成です。ここは一旦距離を置きましょう」

全員が離れるって意見か。
戦略とかを習っている人達の意見だ。尊重しよう。
ラノベの主人公のように、人の話を聞かないのは良くない。
都合の良い事が起きるなんてのは物語の中だけなんだ。

「じゃあ、皆の意見通りにしようか」
「それが良いだろう。安全策だ」
「それで、後日戻ってくるとして、どこに行く?」
「カードを探すのが一番じゃないか?
 強力なカードを見つけられれば、対抗策になるかもしれない」

建設的な意見だ。
逃げるのではなく、目的を変更してそれに向かうと。
いいねいいね。やはり賢い人は大事だね!

「周辺にカード関連の事案があります」
「俺もそれを聞いた。ここから5日ほど南下した所にある、国境の街『サラミ』だ」

サラミ! 美味しそうな街だ!

「そうと決まれば準備だな。明日には出発しよう」
「判りました」
「俺と姫様は何したら?」
「お前は外出禁止だ。ファーはお前の見張りというか、誰も近づかせないようにするのが仕事だ」

そうなんですか。
お手数をおかけします。
ま、俺も一人で待機してるよりも、話し相手が居た方が良い。
悪魔も召喚出来ないしな。

ラノベだと、何かあって主人公が外出するのが定番だけど。
俺はそんな事はしないぞ。モンスターが街に攻めてきても出ないからな!
出るとすれば、自然災害や火事の時だけだな。
あっ、いかん。こんな事を考えるとフラグが立つ!
アホな事を考えずに大人しくしてよう……。


気がつくと夕方だった。
寝てたわ。
何も無かったようで、皆もくつろいでいる。

「起きたか。じゃあ晩飯にするか」
「食べに出るの?」
「いや、買ってくる。食べに出れば出会いそうだ」

なるほど。ありえそうだ。
日本のように外食産業が発達していない世界。
食べられる場所と言えば限られてしまう。宿か酒屋くらい。
宿の食堂も、宿泊客だけじゃなく誰でも利用が出来るらしいし。
ルームサービスも無いし、誰か(と言ってもアイザックさんだろうけど)が買ってくるのが無難か。



翌日。
昨日は結局ニアミスする事も無かった。
まぁ、外出しなかったからな。
アイザックさん達も会わなかったらしいね。

外門の所に用意された馬車に乗り込み、出発する。
窓からチラリと街を見ると、物陰にヒジリらしき人物が見えた。
やはり監視されてるのだろうか?
この街で何もせず出発した事で、悩んでいるのだろうか?
そのまま悩んで、俺は関係無いって結論に達して欲しい。

さ、気分を変えよう!
これから5日間は旅なんだ。
ヒジリの事を考えてたら疲れるだけ。
前向きに考えようじゃないか。
どんなカードが発見出来るかな?
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