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第5章 ダンジョンに行こう

150 愛だけで許される事じゃないだろ

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「じゃあ面倒だけど事情を聞きます。
 1人が喋っている時にもう1人は何も言わないように。言うと減点します。ウソを言ったらそれも減点します。
 減点が10になった時点で、その人を加害者とします。実際は被害者だったとしてもね。
 横暴だとか、無茶苦茶だとか、思ってるでしょう? でも諦めてください。
 俺に見つかったのが運の尽きです。あっ、逃げたらその時点で加害者確定でボコりますんで」

こう言うと、男性の方が嫌な顔をした。逆に女性は嬉しそうだ。
一応伝えておこうか。

「先に言っておきます。俺は双方の言い分を聞いて公平にジャッジします」
「「ジャッジ?」」
「あっ、公平に判断するって事です」

ジャッジって通じないのか。変な世界だ。

「俺は、え~と、遠い国出身なので、この国の価値観では決めませんよ。
 貴族だからとか、王族だからとか、子供だとか、年寄だとか、男性だからとか、女性だからとか、農民だとか、冒険者だとか、怪我してるとか、武器を持ってるとか。
 そういうのは考慮しません。公平に人として判断します」

これを聞いて、今度は男性の方がホッとした表情になった。
逆に女性は困り顔になる。

残念ながら俺はラノベの主人公ではないのだ。
悲鳴を聞いてその場に向かい、襲われている女性を助けて惚れられるというクソテンプレなんか要らん。
“さすごしゅ”と言ってくれる人なんか必要無い。
恋人とか奥さんとか欲しいとは思うが、そういうのは安定した生活になってからで良い。
そもそも、日本に帰るかもしれないし。
連れて帰る? 国籍も無い女性を? 国際結婚よりも大変だぞ? 愛だけで許される事じゃないだろ。
そんなの考えるヤツは能無しか世間知らずの高校生までだわ。

戻れた時の状態だって不明なんだぞ?
俺はそこそこ仕事をしてたからある程度の収入はあったけど、戻った時に仕事があるのか?
死んだ扱いになってたら家も財産も無くなってる可能性がある。

最高なのは、日本に居た時から大金持ちで、飛ばされた時間に戻って来れる事。
これなら戸籍無しの扶養家族が増えても困らないだろう。
医療や社会保険が無くても生活出来る。運転手を雇えば運転免許だって必要無い。

だが俺はそんな立場じゃないし、そんな都合良く戻れるとも思ってない。
だからこっちの世界で結婚とか、そんな不義は出来ないのだ。

一時的に楽しみたいなら娼館にでも行けば済む。
この世界の独自の病気とかあったら怖いから行けないけどさ。

戻る気が無い人や死んで転生した人は好きにすればいい。
戻る事を考えながら行動してるヤツは、恋人や奥さんなんか作るべきじゃない、って思うだけ。

「さて、まずは第一印象で被害者っぽく見えた女性の話から聞きましょうかね」
「は、はい。私はナニナと言います。
 街に向かっていたらその人に襲われました。ここまで必死に逃げたのですが、ここで捕まってしまって……。
 もうダメかと思った時に貴方が現れたんです!」
「ウソだ!」
「はい、男性の方、減点1です。順番に聞くから黙ってて」
「ぐ……」

反論したいのは分かるけど、ちょっと待ちましょうね。
異議あり!って言うなら面白いから聞くけど、この世界の人がそんなネタを知らないだろう。

「では次に男性の人の話を聞きましょう」
「俺は商人のフラッド。…………いや、ここでウソを言っても意味無いな。
 俺は帝国貴族だ。階級は男爵。密命で犯罪者組織を調べている。
 その女が組織のトップに近い存在という事を突き止めた。
 後を付けて一人になった所を見計らって捕縛に動いた所だ」

なるほど。

女性は男性に襲われたと。目的は……物取りかレイプって事かな?
男性は貴族で、犯罪者を捕まえる所だったと。

う~ん。判断がつかないな。

「どちらの主張も本当っぽくもありウソっぽくもあります。
 なのでこのまま街まで行きましょうか。兵士とか領主に渡そうと思いますけどどうです?」

俺がそう言うと、どちらもイヤな顔になった。何故?

「街に連れて行かれたら、きっと娼館に売られてしまいます!
 貴方がグルという可能性もあります!!」

まぁね。初対面なんだから俺も疑われて当然。
自称男爵はどうなんだ?

「領主に引き渡すのは良いが、捕まえた事が公になるのは困る。
 ここで色々と情報を引き出してから突き出したいんだが」

捕まえた事が公になる前に情報を得て、逃げられる前に一網打尽にしたいって事ね。

どちらも正論に聞こえる……。
こういう時は「自分が正義!」と断じて行動する自分中心な、アホな主人公が羨ましい! 理性が邪魔する!
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