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カルトカルトカルト

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我ら魔王軍はダンジョン第2層の攻略に成功した。


一兵たりとも生かさずに殲滅した。魔物が発生するスポーンポイントも完全破壊、第2層各地で孤軍奮闘する残党も駆除に成功。第2層は現在大量の死体が積み重なっており、現在死体の撤去中。


……そう、生き残りは存在しない。第2層の敵軍は皆殺しにした。にも関わらず、第2層司令官撃破のアナウンスは流れない。これが何を意味するのか。





第二層司令官、逃げやがった!


いやまぁ、普通はそうなんだよな。勝ち目のない戦いなら逃走するのは普通のこと。第1層の司令官のように勝ち目もないのに徹底抗戦なんてしない。

敵が全エリアの兵士を最後の大部屋に結集させたのは最後の抵抗などでは無く、第2層司令官とその側近、そして貴重な物資を安全なエリアに待避させるための時間稼ぎだったというわけだ。

俺はまたゲーム的に考えていた。ゲームではボスは基本的に逃げたりしないからだ。だがここはゲームのような空間だがゲームでは無いのだ。




この俺から逃げられると思うなよ。いつかその首を刈り取ってガチャコインを手に入れてやる。



そうして始まった第3層攻略戦。第3層はこれまでとは違ってひたすら長い道が続く一本道。

この道には、隙間のないくらい大量の敵兵がギチギチに詰っており、これを突破するのは困難だろう。

もちろん、こんな奴ら敵ではない。魔王軍の前には、あいつらなど塵芥に等しい。


問題なのは、この通路が長すぎるということだ。地平線までこの道は続き、そして敵兵も隙間なく詰め込まれている。

第3層の攻略のためには、この大量の敵兵を正面から叩き潰さなければならないということだ。

第3層の攻略は時間がかかるだろう。









今日のログインボーナスは武器確定ガチャ!



ガタンッ



UC『宇宙を切り裂く真紅の竜魔剣ゼノ・バルトシアス【キーホルダー】』



カランッ、という音と共に床に落下する。


出現したのは掌サイズの剣だった。安っぽい金色の塗装と小さな赤いガラス玉が着けられた、チープな印象を与えるキーホルダー。日本全国のお土産屋に置かれている、観光地と何の関係も無い武器キーホルダーを思い出す。


剣の持つ手の部分には金色の竜がくるくると巻き付いている。しかしその竜は翼も無ければ足も手も無い。

どちらかと言えば蛇のような見た目だ。




さて。これがただのキーホルダーなら放置するのだが、宇宙を切り裂くなどという大袈裟なことを書いてある。
こんなキーホルダーにそんな力があるとは思えないが、レア度はCじゃなくてUC。

これはただのキーホルダーでは無いというわけだ。では、鑑定!




●ゼノ・バルトシアス

竜種 星間竜目 ゼノ科

別名【鉱喰竜】。基本的に宇宙に住む竜種です。翼付近に存在するエンジンのような臓器を使い宇宙空間を高速で飛行し、アステロイドベルト内で石や砂、鉱石や金属を餌として活動します。

鉱山労働者の方はゼノ・バルトシアスを目撃しても焦らず、落ち着いて所定の機関に連絡してください。穏やかな種族ですのでこちらから手を出さなければ攻撃してきません。

またゼノ・バルトシアスのフンは美しく非常に希少な宝石として取引され、アステロイドベルトを購入したらゼノ・バルトシアスを発見、高値で転売できて儲かることが出来たという報告もあります。





は?

違う!俺が鑑定したいのはこの魔剣だ!この魔剣がどんな能力を持っているか知りたいんだよ!この巻き付いている竜がなんの種族をモデルとしているのかなんて聞いていない!誰が報告してるんだこの情報⁈

後、魔剣の名前がゼノ・バルトシアスじゃなくて、この竜がゼノ・バルトシアスなのか?じゃあこの魔剣の名前は何なんだ!

というか、この竜だってキーホルダーの一部だろう!なんでわざわざ別の物として認識するんだ!

そう考えていると、剣に巻き付いた龍がスルスルすると蛇のように動き、剣から離れた。

「ピギャァ」


あらかわいい。

え、こいつ生きてるの?


この蛇は剣をじっと見つめて、そして近づき大きく口を開けた。


『ゼノ・バルトシアスは鉱石を餌とする』


「ちょ、ちょっと待」

バキバキバキバキ

あーあ、食べちゃった。蛇はどこにそんな力があるのか、キーホルダーをかみ砕き、完食した。

満足したのか、この竜はすやすやと眠り始めた。警戒心というものがないのかこいつ。



この魔剣の名前は何なのか。
宇宙を切り裂くとあるが、本当に切れるのか。切れた後宇宙はどうなるのか。
魔剣の名前は何なのか。
そもそも、この魔剣と竜の関係は何なのか。


この謎が解けることはないだろう。永遠に。










では、無料ガチャ!



ガタンッ










R『鍛冶大工裁縫工房』


それはショッピングモールの3階に出現した。出現したのは3つのエリアで構成された大きな施設。

鍛冶エリア、大工エリア、裁縫エリアに分けられており、看板には説明が書かれてあった。

『金属などを加工したい場合は左の鍛冶エリア!布などを加工したい場合は正面へ!木材などを加工したい場合は右へ!』


俺は鍛冶エリアに入る。そこは圧巻の一言だった。


広々とした作業スペースが広がっており、鍛冶のために必要な作業台や大きな溶鉱炉などが複数設置配置されている。溶鉱炉より蒸気が噴き出し、部屋は熱気に包まれている。

様々な鍛造用具が備えており、鍛槌や金づち、ハンマーなどの打撃工具などが壁や棚に掛けられ整理されており、金属や鉱石、道具類を保管するための収納スペースが備えられていた。


まさにイメージする鍛冶屋そのままだった。


俺は鍛冶屋の中心にある作業台、その前にある椅子に座ると、システムウィンドウが出現した。

システムウィンドウには武器の作成、強化、進化とその他多くの選択肢が存在する。

俺は武器の作成を選択すると、ずらりと数多くの製作レシピが出現した。

レシピには制作可能なアイテムの説明、必要な素材からその制作手順。

俺はレシピより医療用メスを選択する。効果は切れば傷を塞ぐことができるという意味のわからないもの。必要素材はポーションと魔石。ダンジョンより大量に回収できているため材料の不足の心配はない。

俺は倉庫より必要な材料を作業台の上に置き、制作開始のボタンを押す。



そこからは忙しかった。

システムが俺に対して魔石を溶鉱炉に運べ、たたけ、水で冷やせなど命令をしてくる。
レシピに書かれた手順を、一定時間以内に終わらせなければならないのだ。もうとにかく忙しかった。

ホムンクルスに手伝ってもらって、無事俺はシステムの指示を全て達成した。


成功!『医療用メス』を作成しました。


出来上がったのは一本のメス。出来栄えは悪くない。


次は進化だ。どうやら武器を進化、つまり全く別の武器にすることができるようだ。

俺は大工エリアに向かい、一つの武器をガチャコールにて召喚する。


木刀(バイカル湖)


俺はこの木刀がどのように進化するのか気になった。バイカル湖で使うと何かが起きるらしいこの木刀はどうなるのか。

作業台の上に木刀を設置し、システムウィンドウより進化を選択する。

すると複数の進化可能な進化先候補が出現した。


木刀(アラル海)
木刀(カスピ海)
木刀(ビクトリア湖)



うーん、これは進化なのか?







後日、ダンジョン攻略のために俺は魔王装備で前線に出たところ、邪神ベヘモット率いるホムンクルス部隊が見るも恐ろしい武器を装備し、敵兵を蹂躙していた。


そのホムンクルス達は鈍器のような大きな武器を両手で担ぎ、敵兵を捕食していた。

そう、捕食。

鈍器の先には鋭利な歯が生えた大きな口がついており、ホムンクルスが鈍器を振るう度、その口が敵兵を噛み千切り、バキバキとゴブリン兵の貧相な装備ごとかみ砕いていた。凄まじい血しぶきが周囲にまき散らす。

敵軍は恐怖のどん底だ。我先にと逃げようとするが、後ろは大量の兵士で隙間無く埋め尽くされているため、逃げることができない。しかしそれでも逃げようとするため敵兵と敵兵は押しつぶされて圧死、ドミノのように倒れていく。

鈍器は敵を逃がさない。大量の触手が鈍器より伸び、敵を捕獲し口まで運ぶ。聞くに堪えない悲鳴がダンジョンに響き敵軍はさらにパニックに陥る地獄だ。




待て!そんなものがドロップするなんて報告は受けてないぞ!

は⁈ベーコンキャベツを加工して剣を作った⁈

そんな精神を削るような物作るんじゃない!


そもそも何でベーコンキャベツを大工エリアで加工しようと考えたんだ!








現在世界的な新興宗教団体『運命教会』が勢力を急速に拡大しています。

運命教会は山田竜氏を神と崇拝する団体で、アメリカのネット掲示板で誕生しました。ジョークの意味合いが強く、ドラゴンガチャコインと呼ばれる仮想通貨の発行、合成画像やwikiの制作が行われています。

当初はガチャより排出されたアイテムに対して強引な解釈(最初のホムンクルス12人はキリストの使徒の生まれ変わりである)を行う娯楽として楽しまれていましたが、運命教会の会員が宝くじに当選したことでアメリカで急速に勢力を拡大しました。

今では日本国内でも宝くじを買う前やテスト前など、軽い気持ちで祈る人々も多く存在します。



さらに義足や貧困地帯に対して蜜柑ジュース、ベーコンキャベツなどを支援したことにより、貧困国家でも勢力を伸ばしており、しかし運命教会をキリスト教などは出鱈目だと批難し、運命教会に騙されないように発信しており、対立を深めている現状です。


運命教会は穏健派ですが、その逆である過激派も存在します。

日本最大の山田系新興宗教団体【運命の糸】は他のジョークとは異なり、山田竜氏を実際の信教の対象としています。

つい先日【運命の糸】から、より過激派な武闘派派閥【魔王の僕】と【右翼の剣】が独立しました。

【魔王の僕】は魔王軍とも呼ばれる山田ドラゴンガチャ王国の軍隊の一員への将来的な合流と教義に定められた聖戦に備えての独自の戦闘訓練を行っています。銃刀法違反で一部構成員が逮捕された件は記憶に新しく、その存在は不安視されています。

【右翼の剣】は運命教会を名乗って高額で物を売りつける悪質な業者に対しての暴行事件を先日引き起こしており、非常に危険な団体として知られています。

過激派は世界各国に存在し、今後も勢力拡大が予測されます。


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