人生で1番「かわいい」と言われて

一章

ハードワーク

着替えに１０分ほど要して、フロアに出る。
視界はほぼない為、原田さんに手を引かれよちよち歩きで前へと進む。

「うける、超かわいい！」
「神崎さんめっちゃ可愛い！」
「え、神崎さん？すごーい！」

皆が声をかけてくれたが、実践でかわいい動きの練習をする為
店内ではなく店頭でグリーティングと呼ばれる呼び込みを原田さんと一緒に行うことになった。

季節は7月。
何もしていなくても汗をかく季節だと言うのに
私は外で着ぐるみの中に立ち込める湿気と熱気に蒸されていた。

「ウランちゃん、人が通ってるよ？」

原田さんはそう言って、ぼーっとしている私を注意した。
──そうだ、動きの練習をする仕事なんだっけ！

茹だるような暑さにかまけて休んでいる暇はない。