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(18)間島 勝之進 ①
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客間の丸い格子窓から中庭の紅葉が覗いていて、勝之進はふと、縁談を結んだ幼い日の追憶にひたった。
武家のなかではうんと早い縁談だった。
あの紅葉を縮麗だと言うと、純朴なお染は、
『取って差し上げましょう』
わんぱくに袖をまくり上げ、木の頂に色づく紅葉に手を伸ばした。
背の低いお染では届くはずもなく、勝之進が抱き上げてやって一緒に紅葉をもいだ。
ところが、葉を裏返してみれば芋虫がついていて、勝之進とお染は二人で仰天したものだ。
『この子、とても太っているわ。身ごもっているのかも』
「そうか、こいつは母親なのだね』
『お父さまがみたら、道に捨ててしまうわ。蟲が大嫌いなのよ』
『なら、落ち葉の下に行かせてあげよう』
『そうね。お父さまには内緒にしてあげましょう』
二人は幼いながらにそう解釈して、芋虫を落ち葉のなかへと逃がしてやった。
勝之進とお染が共有したささやかな秘密が、あの紅葉の下に隠れている。
「勝之進さまッ」
客間で待つ勝之進のところへ、許嫁のお染が飛んできた。
お染の足に蹴飛ばされた湯飲みから、それなりに高値の茶が畳の間に広がった。
「ああ、勝之進さま……ちゃんと足がございますね」
「幽霊でも来たと思っていたのかい」
「だって、お義父さまからの手紙で、もう助からぬやもと書いてあったものですから」
「そこまで書かれていたのに、離縁をしないでくれていたのだね」
「お父さまも私も、勝之進さまが殺したのではないと言じておりましたもの。あなたさまがそんな惨いこと、お日さまが西から上ったってするはずがございません」
お染に強く掻き抱かれて、高く脈打つ鼓動が伝わってくる。
仇としての疑惑がかかった以上、勝之進には、お染との婚約が破談になる覚悟もできていた。
それだけに、いまだ倍じていてくれる許嫁には、いまいちど惚れ直したし、感極まってもいた。
男として泣くまいと歯を食いしばったが、かわりに鼻水だけが出てきた。
喉にせり上がる嗚咽がようやく落ち着いたのは、中庭の紅葉が一枚、はらりと散ったころだ。
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