73 / 82
第三章 桜の下で伝えた
第73話
しおりを挟む
午前中の授業を終えて昼休み、美月はいないがたまには白雪先生と二人でお昼ご飯を食べるのも良いだろうと思いお弁当を持って保健室に入ったが、三台のベッドがすべて埋まるほどの体調不良者がおり、直前の体育の授業で怪我をした人もいて先生は大忙しのようだった。
奥のスペースで一人で食べ始めるか他のところに行って食べてと言われたので、蘭々たちに混ぜてもらおうと教室に戻るため保健室を出るとプリントを何枚か持った秋山君と出くわした。
「よう、もう弁当食べ終わったのか、早いな」
「違うよ。白雪先生と一緒に食べようと思ったんだけど、忙しいみたいだから出てきたの。秋山君はどうしたの? 今日、美月はお休みだよ?」
「え? まじ? 堀先生一言も教えてくれなかったんだけど。俺信用されてないのかな……」
驚いたり怒ったり悲しんだり秋山君は感情豊かに表情を変える。感情をありのままにぶつけるってこういうことなのかなと参考になる。
秋山君も教室に戻るようで、行き先が隣の教室なので自然と一緒に歩き出すが、美月大好きクラブの同志である秋山君と一緒に歩くのは苦にならない。
ちなみにそのクラブの部長は私。副部長は伊織だけど今は部長権限で部員資格停止中だ。一般部員が秋山君しかいない小数精鋭すぎるクラブなのでいつか白雪先生や蘭々たちも勧誘しようと思う。美月の家族は名誉部員なのでカウントしない。
「そういえば萩原さんの好きな人、結局誰なの? バレンタインのとき、明日になれば分かるって言ってたけど、二週間たっても誰かと付き合ってる雰囲気ないんだけど」
確かに聞くよね。くだらないことを考えながら何も話さずにやり過ごそうとしていたけれど秋山君は逃がしてくれなかった。
「もしかして真人と春咲のことと関係あったりする?」
知っているんだ、秋山君は。真人君か伊織が相談したのだろうか。
秋山君とは仲良くなれそうだけれど未だに詳しくは知らない。今までの印象だと、感情が割と表に出やすく、責任感が強くてちょっとだけ意地っ張り。美月以外には思っていることをはっきり言えるタイプのように見える。
信用できる人だとは思うし、事情を知っているのならばちょうど良いので、白雪先生のように少しでも道を開かせてくれることを期待して話をすることにした。でも教室までの道のりでは話しきれなそうだ。
「秋山君、お昼は?」
「え? まだだけど……」
「じゃあお昼ご飯持って保健室に来て。奥のいつも美月がいるところで話そう」
私は突然の誘いに目を丸くする秋山君を置いて保健室に戻り、忙しそうな白雪先生に断りを入れて奥のスペースに向かった。
これから秋山君が来ますと言うと先生も驚いていたけれど、色々な人と話したいという私の気持ちを察してくれたようで無言で頷いて了承してくれた。
お弁当を食べながら待つこと三分、秋山君が保健室に到着し奥のスペースに入ってくる。
「失礼しまーす……ってもう食べてんのかよ」
「ごめん、私食べるの遅くて急がないと食べきれないから」
文句を言いながら秋山君は私の正面に座って自分のお弁当を広げ始める。私の二倍くらいの量はあって、まるで体を大きくしたい伊織みたいだ。
「いっぱい食べるんだね」
「体大きくしたいからな」
「でも部活は辞める七割なんでしょ?」
「辞めるって決めるまでは頑張りたいし」
「いつ決めるの?」
「二年生になる直前かな。そんときの気持ち次第で辞めるか続けるか決める」
「どっちにするか決まってないけど決めるタイミングは決めてるんだ」
「考えるって言っても期限を定めておかないとグダグダになるからな。部活っていう団体である以上俺一人の問題じゃないし」
「そっか。やっぱり秋山君に相談して良かった」
「え? 何、いきなり。まだ春咲の話何も聞いてないけど」
秋山君はきちんと考えて決められる人だ。私みたいに考えて考えて、考え続けてグダグダになっている人間とは違う。
「秋山君はどこまで知ってるの? 私と真人君のこと」
「真人が八月からアメリカに行くって春咲に言ってからちょっと気まずくなってるってところまで。バレンタインの二日後くらいに、四月から同じクラスだからよろしくなって伝えに言ったら深刻そうな顔で相談されたよ。で、それと萩原さんのことは関係あるのか?」
「うん。私、真人君の話を聞いてどうしたらいいか分からなくなっちゃってこの二週間ぐらいずっと宙ぶらりんなままというか、あの日以来真人君とまともに会話できてなくて。落ち込んでるというか悲しんでいるというかちょっとだけ怒ってるというか、私がそんな状態なのに自分だけ幸せになれないって」
「萩原さんが言ったのか?」
「伊織だよ。美月が好きなのは伊織。伊織も美月のことが好き。でも、私のせいでまだ付き合ってない」
「そっか、伊織か。やっぱりな……」
秋山君は天井を見上げた。肌も白くて顔立ちも幼げなので年下のように見えてしまうときもあるが天井を見上げたことで露わになった首には、伊織や真人君と同じように男の子らしい喉仏がしっかりと見えており、同級生なのだと認識させられる。
秋山君はそのまま「よし」と呟きながら一瞬だけ笑みを見せ、次の瞬間には私と向き合った。何かを決断したように見える。
「じゃあ春咲が真人とちゃんと向き合えるようになれば二人は付き合うんだな?」
「まあ、そうだと思う。私もそうしたいんだけど、どうしたら良いか悩んでて」
「俺も手伝うよ。春咲のこと」
「え? 良いの? もし美月のことをまだ好きなら、むしろ今の方が都合が良い気がするけど」
「好きだけど、未練があるから今もプリントとか届けに来てるし、春咲に萩原さんのこと聞いたりしてるけど、良いんだ。ほとんど吹っ切れてたし、伊織は良い奴だと思うし、二人が付き合ってくれたら完全に諦められる」
「秋山君がそれで良いなら私も良いんだけど」
「それに気まずい関係の奴らと同じクラスになりたくねえよ。こっちまで気まずくなりそう」
秋山君は冗談めかして笑って見せた。
「ていうか知ってるか? 真人の奴、一学期しか学校に来ないのに特進クラスにした理由」
「えっと、バスケだけじゃなくて勉強も頑張りたいからって聞いたけど」
「それもあるけどもう一つあるんだ。あいつが相談しに来たときに言ってた。春咲と同じクラスになりたかったんだってよ。日本での高校生活の最後に同じ教室で過ごして思い出が欲しかったって」
そんな風に思ってくれていたことは素直に嬉しい。でも、最後にという言葉はやっぱり寂しくて、胸がキュッと締め付けられるように苦しくなる。
「そんだけ春咲のことが好きなのに大事なことをずっと言わなかったってのは良くないよな、今更だけど。で、俺は何をすれば良い? 何をしてやれば春咲の手伝いになる?」
「うん、そんな感じで秋山君が思ったことを言ってくれると嬉しい。余計な気を遣わないで、自分はこう思うとか自分ならこうするとか言ってくれると助かる」
秋山君は私が面と向かって話ができる貴重な男子。アドバイスではなくただの感想でもきっと他の人とは違った視点から話をしてくれてヒントをもらえると思う。
奥のスペースで一人で食べ始めるか他のところに行って食べてと言われたので、蘭々たちに混ぜてもらおうと教室に戻るため保健室を出るとプリントを何枚か持った秋山君と出くわした。
「よう、もう弁当食べ終わったのか、早いな」
「違うよ。白雪先生と一緒に食べようと思ったんだけど、忙しいみたいだから出てきたの。秋山君はどうしたの? 今日、美月はお休みだよ?」
「え? まじ? 堀先生一言も教えてくれなかったんだけど。俺信用されてないのかな……」
驚いたり怒ったり悲しんだり秋山君は感情豊かに表情を変える。感情をありのままにぶつけるってこういうことなのかなと参考になる。
秋山君も教室に戻るようで、行き先が隣の教室なので自然と一緒に歩き出すが、美月大好きクラブの同志である秋山君と一緒に歩くのは苦にならない。
ちなみにそのクラブの部長は私。副部長は伊織だけど今は部長権限で部員資格停止中だ。一般部員が秋山君しかいない小数精鋭すぎるクラブなのでいつか白雪先生や蘭々たちも勧誘しようと思う。美月の家族は名誉部員なのでカウントしない。
「そういえば萩原さんの好きな人、結局誰なの? バレンタインのとき、明日になれば分かるって言ってたけど、二週間たっても誰かと付き合ってる雰囲気ないんだけど」
確かに聞くよね。くだらないことを考えながら何も話さずにやり過ごそうとしていたけれど秋山君は逃がしてくれなかった。
「もしかして真人と春咲のことと関係あったりする?」
知っているんだ、秋山君は。真人君か伊織が相談したのだろうか。
秋山君とは仲良くなれそうだけれど未だに詳しくは知らない。今までの印象だと、感情が割と表に出やすく、責任感が強くてちょっとだけ意地っ張り。美月以外には思っていることをはっきり言えるタイプのように見える。
信用できる人だとは思うし、事情を知っているのならばちょうど良いので、白雪先生のように少しでも道を開かせてくれることを期待して話をすることにした。でも教室までの道のりでは話しきれなそうだ。
「秋山君、お昼は?」
「え? まだだけど……」
「じゃあお昼ご飯持って保健室に来て。奥のいつも美月がいるところで話そう」
私は突然の誘いに目を丸くする秋山君を置いて保健室に戻り、忙しそうな白雪先生に断りを入れて奥のスペースに向かった。
これから秋山君が来ますと言うと先生も驚いていたけれど、色々な人と話したいという私の気持ちを察してくれたようで無言で頷いて了承してくれた。
お弁当を食べながら待つこと三分、秋山君が保健室に到着し奥のスペースに入ってくる。
「失礼しまーす……ってもう食べてんのかよ」
「ごめん、私食べるの遅くて急がないと食べきれないから」
文句を言いながら秋山君は私の正面に座って自分のお弁当を広げ始める。私の二倍くらいの量はあって、まるで体を大きくしたい伊織みたいだ。
「いっぱい食べるんだね」
「体大きくしたいからな」
「でも部活は辞める七割なんでしょ?」
「辞めるって決めるまでは頑張りたいし」
「いつ決めるの?」
「二年生になる直前かな。そんときの気持ち次第で辞めるか続けるか決める」
「どっちにするか決まってないけど決めるタイミングは決めてるんだ」
「考えるって言っても期限を定めておかないとグダグダになるからな。部活っていう団体である以上俺一人の問題じゃないし」
「そっか。やっぱり秋山君に相談して良かった」
「え? 何、いきなり。まだ春咲の話何も聞いてないけど」
秋山君はきちんと考えて決められる人だ。私みたいに考えて考えて、考え続けてグダグダになっている人間とは違う。
「秋山君はどこまで知ってるの? 私と真人君のこと」
「真人が八月からアメリカに行くって春咲に言ってからちょっと気まずくなってるってところまで。バレンタインの二日後くらいに、四月から同じクラスだからよろしくなって伝えに言ったら深刻そうな顔で相談されたよ。で、それと萩原さんのことは関係あるのか?」
「うん。私、真人君の話を聞いてどうしたらいいか分からなくなっちゃってこの二週間ぐらいずっと宙ぶらりんなままというか、あの日以来真人君とまともに会話できてなくて。落ち込んでるというか悲しんでいるというかちょっとだけ怒ってるというか、私がそんな状態なのに自分だけ幸せになれないって」
「萩原さんが言ったのか?」
「伊織だよ。美月が好きなのは伊織。伊織も美月のことが好き。でも、私のせいでまだ付き合ってない」
「そっか、伊織か。やっぱりな……」
秋山君は天井を見上げた。肌も白くて顔立ちも幼げなので年下のように見えてしまうときもあるが天井を見上げたことで露わになった首には、伊織や真人君と同じように男の子らしい喉仏がしっかりと見えており、同級生なのだと認識させられる。
秋山君はそのまま「よし」と呟きながら一瞬だけ笑みを見せ、次の瞬間には私と向き合った。何かを決断したように見える。
「じゃあ春咲が真人とちゃんと向き合えるようになれば二人は付き合うんだな?」
「まあ、そうだと思う。私もそうしたいんだけど、どうしたら良いか悩んでて」
「俺も手伝うよ。春咲のこと」
「え? 良いの? もし美月のことをまだ好きなら、むしろ今の方が都合が良い気がするけど」
「好きだけど、未練があるから今もプリントとか届けに来てるし、春咲に萩原さんのこと聞いたりしてるけど、良いんだ。ほとんど吹っ切れてたし、伊織は良い奴だと思うし、二人が付き合ってくれたら完全に諦められる」
「秋山君がそれで良いなら私も良いんだけど」
「それに気まずい関係の奴らと同じクラスになりたくねえよ。こっちまで気まずくなりそう」
秋山君は冗談めかして笑って見せた。
「ていうか知ってるか? 真人の奴、一学期しか学校に来ないのに特進クラスにした理由」
「えっと、バスケだけじゃなくて勉強も頑張りたいからって聞いたけど」
「それもあるけどもう一つあるんだ。あいつが相談しに来たときに言ってた。春咲と同じクラスになりたかったんだってよ。日本での高校生活の最後に同じ教室で過ごして思い出が欲しかったって」
そんな風に思ってくれていたことは素直に嬉しい。でも、最後にという言葉はやっぱり寂しくて、胸がキュッと締め付けられるように苦しくなる。
「そんだけ春咲のことが好きなのに大事なことをずっと言わなかったってのは良くないよな、今更だけど。で、俺は何をすれば良い? 何をしてやれば春咲の手伝いになる?」
「うん、そんな感じで秋山君が思ったことを言ってくれると嬉しい。余計な気を遣わないで、自分はこう思うとか自分ならこうするとか言ってくれると助かる」
秋山君は私が面と向かって話ができる貴重な男子。アドバイスではなくただの感想でもきっと他の人とは違った視点から話をしてくれてヒントをもらえると思う。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
学園制圧
月白由紀人
青春
高校生の高月優也《たかつきゆうや》は、幼馴染で想い人の山名明莉《やまなあかり》とのごくありふれた学園生活を送っていた。だがある日、明莉を含む一党が学園を武力で占拠してしまう。そして生徒を人質にして、政府に仲間の『ナイトメア』たちを解放しろと要求したのだ。政府に対して反抗の狼煙を上げた明莉なのだが、ひょんな成り行きで優也はその明莉と行動を共にすることになる。これは、そんな明莉と優也の交流と恋を描いた、クライムサスペンスの皮をまとったジュブナイルファンタジー。1話で作風はつかめると思います。毎日更新予定!よろしければ、読んでみてください!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜
green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。
しかし、父である浩平にその夢を反対される。
夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。
「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」
一人のお嬢様の挑戦が始まる。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる