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第二章 桜の下で誓った
第49話
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放課後には調理室での出来事がすでに噂になっていた。私が四人をしばき倒したとか、伊織が鍵のかかった外の扉を無理やりこじ開けて入ってきたとか尾ひれがついたというより根も葉もない噂にもなっているそうだ。
しかしそれはあくまでこの件に関わっていない人たちの間で面白おかしくささやかれているだけで「関わっていた人は戦々恐々だよー」といつもの四人で保健室を訪れた秋野さんが教えてくれた。六人で昇降口に向かって歩く最中に私は秋野さんに気になることを尋ねた。
「秋野さん、伊織が言ってたけど裏垢を特定したって……いったいどうやったの?」
秋野さんはいつものふわふわした調子で答える。
「んーそれはねー、誰のか分かってるアカウントに書き込まれた内容とー裏垢の内容を見比べてー書き込む時間とか内容の傾向で判断する感じー」
「そんなことで分かるの? すごい」
「分かりやすい人だけだよー。本垢と裏垢で人が違うみたいな書き込みしてたらさすがに分かんない。でもSNSで悪口とか言う人はかなりの頻度で書き込んでるからヒントがいっぱいあって結構分かりやすかったー」
「へー、心愛にそんな特技があったなんて初耳」
蘭々が感心したように言った。大石さんも小畑さんも知らなかったらしく皆驚いている。
「ちなみにM君大好きbotとSちゃん大好きbotなんてアカウントの中の人も知ってるよー」
「何それ? botって何?」
「んーとねー本当はプログラムで自動で書き込んだり動いたりするものなんだけどーこのアカウントは手動で書き込まれてるかなー。不定期にM君のカッコ良かったところとかーSちゃんの可愛かったところが書き込まれるのー。Sちゃんbotは最近動きが激しくなったねー」
「へえ、好きな人の良いところを書き込んでるんだ。裏垢って悪口とか危ないことばっかりだと思ってた」
「まあ人前でできないようなことするためのアカウントだからねー。あれ? 蘭々どうしたの―? 顔真っ赤だし、汗かいてるよー? 保健室戻るー?」
そういえば秋野さんがbotの話をした辺りから蘭々の様子が少しおかしい。焦っているというか挙動不審というか表情や動きがぎこちなくて普段の自信に満ちた姿勢とは大違いだ。
「い、いや、大丈夫。なんでもないよ、気にしないで」
「そおー? ならいいけどー、蘭々も裏垢には気をつけようねー」
「そ、そうだね。誰が見てるか分かんないし、気をつけようね。あ、詩織は見ない方が良いよ。結構刺激強いから」
「う、うん」
M君、Sちゃん。botの話で様子がおかしくなった蘭々。蘭々に対して裏垢に気をつけようと言ったbotの中の人を知っているという秋野さん。私には見ないように言う蘭々。なるほど全部理解した。
いったいどんなことを書き込んでいたのか、蘭々の目の前で見るのはかわいそうなので家に帰ってから見ることにしよう。
昇降口に着いた私たち、正確には美月を待っていたのは一年二組の女子生徒数人だった。今朝、男子と口論をしていた人も混ざっている。問題は解決に向けて前進してはいるけれど、まだまだ終わったわけではないということを思い出させる。
「萩原さん、今までひどいことしたり言ったりしてごめんなさい」
今朝男子と口論していた女子が先頭に出て今朝の態度とは大違いで頭を下げ、美月に謝罪をした。周りの面々も一緒に頭を下げ謝罪の言葉を述べ始める。今までの行為を反省し、許しを請おうとしている。
なんて勝手な人たちなのだろうか。今まで好き勝手やっていたくせに、あの四人が見つかって自分たちの行為も明らかになりそうだから、あらかじめ美月に許してもらうことで罪や処分を軽くしようという魂胆が見え見えだ。
「本当にごめんなさい。やっぱりクラスの仲間にこんなことするのはおかしいって思って、めちゃくちゃ後悔してるし反省してる。これからは仲良くしたいなって思ってて……」
よく漫画や小説などでよく反吐が出るという表現を見たことがある。不愉快になったり嫌悪感を持つようなときに用いるそうだけれど、実際にはどんな感覚なのだろうとずっと疑問だった。
今この状況はまさしく反吐が出るという表現がぴったりな状況であり、不謹慎にも感動してしまった。
美月は彼女らと目を合わせることすらしたくないようでうつむきながら蘭々の後ろに隠れていた。もう無理だろう。彼女らと美月が仲良くなんてできるはずがない。許すはずもない。目撃者もたくさんいる以上彼女らがいじめの加害者という罪から逃れる手段はない。待っているのは退学処分だ。
「あの、萩原さん?」
「話したくないってさ。行こっ」
こういうときに蘭々の強さは心強い。私たちは蘭々に連れられて、彼女たちの視線や声を無視して帰路についた。必死に美月に声をかけようとしていたけれどその声は届かない。彼女たちと顔を合わせるのはこれで最後になるかもしれない。
私は何の感情も抱かなかった。
自業自得。そんな言葉がよく似合う。
帰宅してお父さんに全てを話した。
お父さんは驚いたり怒ったり悲しんだり色々な感情を露わにしていたけれど、最後に伊織と真人君が助けてくれたからもう大丈夫と言うと納得して「よく頑張ったな」と言いながら頭を撫でてくれた。
普段は面倒くさくてうっとうしく感じることもあるけれど、このときばかりはお父さんの優しさに甘えようと思い大人しく撫でられることにした。
しかしそれはあくまでこの件に関わっていない人たちの間で面白おかしくささやかれているだけで「関わっていた人は戦々恐々だよー」といつもの四人で保健室を訪れた秋野さんが教えてくれた。六人で昇降口に向かって歩く最中に私は秋野さんに気になることを尋ねた。
「秋野さん、伊織が言ってたけど裏垢を特定したって……いったいどうやったの?」
秋野さんはいつものふわふわした調子で答える。
「んーそれはねー、誰のか分かってるアカウントに書き込まれた内容とー裏垢の内容を見比べてー書き込む時間とか内容の傾向で判断する感じー」
「そんなことで分かるの? すごい」
「分かりやすい人だけだよー。本垢と裏垢で人が違うみたいな書き込みしてたらさすがに分かんない。でもSNSで悪口とか言う人はかなりの頻度で書き込んでるからヒントがいっぱいあって結構分かりやすかったー」
「へー、心愛にそんな特技があったなんて初耳」
蘭々が感心したように言った。大石さんも小畑さんも知らなかったらしく皆驚いている。
「ちなみにM君大好きbotとSちゃん大好きbotなんてアカウントの中の人も知ってるよー」
「何それ? botって何?」
「んーとねー本当はプログラムで自動で書き込んだり動いたりするものなんだけどーこのアカウントは手動で書き込まれてるかなー。不定期にM君のカッコ良かったところとかーSちゃんの可愛かったところが書き込まれるのー。Sちゃんbotは最近動きが激しくなったねー」
「へえ、好きな人の良いところを書き込んでるんだ。裏垢って悪口とか危ないことばっかりだと思ってた」
「まあ人前でできないようなことするためのアカウントだからねー。あれ? 蘭々どうしたの―? 顔真っ赤だし、汗かいてるよー? 保健室戻るー?」
そういえば秋野さんがbotの話をした辺りから蘭々の様子が少しおかしい。焦っているというか挙動不審というか表情や動きがぎこちなくて普段の自信に満ちた姿勢とは大違いだ。
「い、いや、大丈夫。なんでもないよ、気にしないで」
「そおー? ならいいけどー、蘭々も裏垢には気をつけようねー」
「そ、そうだね。誰が見てるか分かんないし、気をつけようね。あ、詩織は見ない方が良いよ。結構刺激強いから」
「う、うん」
M君、Sちゃん。botの話で様子がおかしくなった蘭々。蘭々に対して裏垢に気をつけようと言ったbotの中の人を知っているという秋野さん。私には見ないように言う蘭々。なるほど全部理解した。
いったいどんなことを書き込んでいたのか、蘭々の目の前で見るのはかわいそうなので家に帰ってから見ることにしよう。
昇降口に着いた私たち、正確には美月を待っていたのは一年二組の女子生徒数人だった。今朝、男子と口論をしていた人も混ざっている。問題は解決に向けて前進してはいるけれど、まだまだ終わったわけではないということを思い出させる。
「萩原さん、今までひどいことしたり言ったりしてごめんなさい」
今朝男子と口論していた女子が先頭に出て今朝の態度とは大違いで頭を下げ、美月に謝罪をした。周りの面々も一緒に頭を下げ謝罪の言葉を述べ始める。今までの行為を反省し、許しを請おうとしている。
なんて勝手な人たちなのだろうか。今まで好き勝手やっていたくせに、あの四人が見つかって自分たちの行為も明らかになりそうだから、あらかじめ美月に許してもらうことで罪や処分を軽くしようという魂胆が見え見えだ。
「本当にごめんなさい。やっぱりクラスの仲間にこんなことするのはおかしいって思って、めちゃくちゃ後悔してるし反省してる。これからは仲良くしたいなって思ってて……」
よく漫画や小説などでよく反吐が出るという表現を見たことがある。不愉快になったり嫌悪感を持つようなときに用いるそうだけれど、実際にはどんな感覚なのだろうとずっと疑問だった。
今この状況はまさしく反吐が出るという表現がぴったりな状況であり、不謹慎にも感動してしまった。
美月は彼女らと目を合わせることすらしたくないようでうつむきながら蘭々の後ろに隠れていた。もう無理だろう。彼女らと美月が仲良くなんてできるはずがない。許すはずもない。目撃者もたくさんいる以上彼女らがいじめの加害者という罪から逃れる手段はない。待っているのは退学処分だ。
「あの、萩原さん?」
「話したくないってさ。行こっ」
こういうときに蘭々の強さは心強い。私たちは蘭々に連れられて、彼女たちの視線や声を無視して帰路についた。必死に美月に声をかけようとしていたけれどその声は届かない。彼女たちと顔を合わせるのはこれで最後になるかもしれない。
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自業自得。そんな言葉がよく似合う。
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お父さんは驚いたり怒ったり悲しんだり色々な感情を露わにしていたけれど、最後に伊織と真人君が助けてくれたからもう大丈夫と言うと納得して「よく頑張ったな」と言いながら頭を撫でてくれた。
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