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第一章 桜の下で再会した
第11話
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あらかた出店を回り切り、私たちは今日の合流地点だった鳥居の下まで戻ってきていた。
時刻は午後二時前。お父さんが余計な心配をするので夕飯の前には家に帰らないといけないがまだまだ時間はある。
ただ神社でできることは全てやり切ってしまっていた。まだ帰りたくない。もっと真人君と一緒にいたい。そう思って真人君の手を離さずにいた。
そして真人君はとても察しが良い。
「詩織さん、まだ時間ある?」
「うん」
「次どこか行こうか? 何かしたいこととか食べたいものとか見たいものとかあるかな?」
したいことは真人君がいれば何でもいい。食べたいものはもうお腹いっぱいなのでない。
見たいものはある。画面越しでしか見たことがない、真人君がバスケをする姿。生で見たらきっと速くて強くて高くて美しいんだろうなと思う。
「バスケ、見たい。真人君がバスケをする姿が見たい」
真人君は嬉しそうな表情をするがすぐに残念そうな表情に変わった。
「ごめん、見たいって言ってくれるのは嬉しいけど、学校も開いてないし使えそうな体育館もないし、この辺ってバスケットゴール置いてある公園もないんだよね」
「そっか、ごめんね無理言って。じゃあ学校始まったら私も放課後の練習見に行ってみようかな」
全国常連の桜高校バスケ部には専用の体育館がある。バスケットコート二面と観客席まであって、その気になれば学校で大会が開けるほど立派なものだ。
全国大会に出れば観客が大勢いる中で試合をすることになるため、普段の練習から観客の目に慣れておくようにというのが監督の方針らしく観客席はいつも解放されていて生徒やバスケ部の卒業生が自由に見学をしている、という話を伊織から聞いたことがあったので今度行ってみようと思う。
人気ナンバーワンの真人君以外にも学校内で人気のある人がバスケ部には多く、いつも観客席には女子生徒が大勢いるそうなので私が紛れても大丈夫だろう。仮に誰かに見つかっても伊織を見に来たと言えば誤魔化せる。
「うん、見に来てくれたら嬉しい……あのさ詩織さん。一か所だけ今すぐにバスケをできる場所に心当たりがあるんだけどどうかな?」
「え、どこ? 行ってみたい」
真人君は可愛らしく顔を真っ赤にして細々と小さな声で言った。
「俺の家」
「……」
「あの、詩織さん大丈夫?」
一瞬時間が止まって意識がどこかに行っていたが、真人君の声で戻ってこれた。
「え、あ、あの、い、家?」
「う、うん。うち、半面だけどバスケットのコートがあっていつもそこで練習してるんだ。ここから歩いて五分くらい」
家族ぐるみの付き合いがある幼馴染とかならまだしも、高校生の男女がお互いの家に行くというのはやはり特別な意味があるはずだ。漫画で見た。
それに両親、真人君の場合はお父さんが離れて暮らしているからお母さんだけかもだが親と会うことになる。まだそんな心の準備はしていない。
「あの、お母さん、家にいるんじゃ……」
「あ、母さんは朝から父さんのところに行ってるんだ。母さんの実家はそっちからの方が近いから、今日泊まって父さんと一緒に実家に寄って明日の夕方くらいに帰ってくる。だから今日は俺一人」
「そ、それなら行こうかな」
いや、余計駄目でしょ。何を言っているんだ私は。
今日一日、真人君と楽しく過ごして完全に舞い上がってしまっている。このままではお父さんに怒られるようなことになってしまうかもしれない。
私の脳内で駄目だと言う私と行こうと言う私がせめぎ合う。
駄目だと言う私は主に漫画で見たエピソードを軸に持論を展開していて、男の子の家にのこのこついて行った者の末路を熱く語っている。私や伊織が買うような本では不幸になることはないのだが。
行こうと言う私は真人君の真面目さや誠実さをアピールしている。あれだけ女子にちやほやされても彼女も作らず、良い気にもならず一生懸命にバスケをしている理性的な真人君なら問題ないと言っている。
私は結論を出せないまま真人君に手を引かれながら真人君の家に向かって歩き出していた。
胸をバクバクさせながら歩くこと約五分、普通よりも少しだけ広い二階建ての家の前で真人君は足を止めた。車二台分くらい停めることが出来そうなスペースとバスケットゴールが一つ立てられた広めのスペースがアスファルトで舗装されている。
お母さんがいないという言葉通り車は停まっていない。
「ここで練習してるの? でもなんかゴールが低いような……」
「ああ、これは小学生のとき使ってたミニバス用のゴールだよ。今は使ってないんだ。入って」
これなら私でもシュートを決められそうとか思ったのが少しだけ恥ずかしい。
そして私は真人君に促されるまま家の中に足を踏み入れた。
「お邪魔します」
綺麗、というのが第一印象だった。おしゃれな小物に観葉植物、ピカピカなフローリングの床、無駄なものがなくて、清潔感のある真人君にはぴったりだと思った。
玄関でスニーカーを脱ぎ、真人君が用意してくれたスリッパを履いてもう一度家の中を見回した。
「綺麗だね、うちなんか色んなものがごちゃごちゃ置いてあって玄関が狭くなってるのに」
「母さんが綺麗好きなんだ。そもそも母さんは仕事が忙しくてあんまり家にいないんだけど。俺も部活であんまり家にいないし、いるときはだいたい自分の部屋か下にいるんだ。だからあんまり余計な物がないし人の動きがないからそんなに埃もたまらない」
下、というのはどういうことだろう。真人君の部屋が二階にあって一階のことを下と呼んでいるのだろうか。その疑問は真人君の後ろについて行くだけで解消された。
真人君は二階へ上がる階段へ向かったと思いきやそこには下に降りる階段もあって、真人君は階段を降りて行った。私もそれについて行く。
「この家、俺が小学二年生くらいのときに完成したんだけど母さんの実家が結構なお金持ちらしくて支援してもらったんだって。土地とか家そのものじゃなくてこの地下室を、らしいけど」
階段を降り切った先にあった扉を真人君が開け、地下室に入ると目の前にはバスケットのコートが広がっていた。普通のコートのちょうど半分くらいの大きさでゴールが一つだけ設置されている。床は学校の体育館と同じような素材でできているようだ。
「すごい、部活が終わった後もここで練習してるの?」
「うん。ちょっとだけ待ってて、準備してくる」
一度地下室を出て上に上がっていく真人君。着替えなどをしに行ったのだろう。その間に私は地下のバスケットコートを見渡してみた。
半円みたいなおそらくこれより遠いとスリーポイントシュートになる線がきちんと引かれていたりして、本当のバスケットコートの半面であることが改めて分かる。
地下はカビやすいなんて聞いたことがあるけれど、気温や湿度などを管理する空調設備もついていて綺麗な状態が保たれていた。
マフラーや手袋を外してなんとなくゴールの反対側のコートの端っこに立ってみて、そこからゴールを見上げた。コートの真ん中からシュートを決めるなんて遠すぎて私には無理だなと思う。
今度はゴールの真下に移動して両手を挙げた。その状態でジャンプをしてもゴールについているネットにすら届かない。
スリッパにロングスカートなんて運動に適さない格好のせいで普段よりジャンプ力はないが、ちゃんとした格好になっても大差ないだろう。ダンクシュートなんて夢のまた夢だ。
時刻は午後二時前。お父さんが余計な心配をするので夕飯の前には家に帰らないといけないがまだまだ時間はある。
ただ神社でできることは全てやり切ってしまっていた。まだ帰りたくない。もっと真人君と一緒にいたい。そう思って真人君の手を離さずにいた。
そして真人君はとても察しが良い。
「詩織さん、まだ時間ある?」
「うん」
「次どこか行こうか? 何かしたいこととか食べたいものとか見たいものとかあるかな?」
したいことは真人君がいれば何でもいい。食べたいものはもうお腹いっぱいなのでない。
見たいものはある。画面越しでしか見たことがない、真人君がバスケをする姿。生で見たらきっと速くて強くて高くて美しいんだろうなと思う。
「バスケ、見たい。真人君がバスケをする姿が見たい」
真人君は嬉しそうな表情をするがすぐに残念そうな表情に変わった。
「ごめん、見たいって言ってくれるのは嬉しいけど、学校も開いてないし使えそうな体育館もないし、この辺ってバスケットゴール置いてある公園もないんだよね」
「そっか、ごめんね無理言って。じゃあ学校始まったら私も放課後の練習見に行ってみようかな」
全国常連の桜高校バスケ部には専用の体育館がある。バスケットコート二面と観客席まであって、その気になれば学校で大会が開けるほど立派なものだ。
全国大会に出れば観客が大勢いる中で試合をすることになるため、普段の練習から観客の目に慣れておくようにというのが監督の方針らしく観客席はいつも解放されていて生徒やバスケ部の卒業生が自由に見学をしている、という話を伊織から聞いたことがあったので今度行ってみようと思う。
人気ナンバーワンの真人君以外にも学校内で人気のある人がバスケ部には多く、いつも観客席には女子生徒が大勢いるそうなので私が紛れても大丈夫だろう。仮に誰かに見つかっても伊織を見に来たと言えば誤魔化せる。
「うん、見に来てくれたら嬉しい……あのさ詩織さん。一か所だけ今すぐにバスケをできる場所に心当たりがあるんだけどどうかな?」
「え、どこ? 行ってみたい」
真人君は可愛らしく顔を真っ赤にして細々と小さな声で言った。
「俺の家」
「……」
「あの、詩織さん大丈夫?」
一瞬時間が止まって意識がどこかに行っていたが、真人君の声で戻ってこれた。
「え、あ、あの、い、家?」
「う、うん。うち、半面だけどバスケットのコートがあっていつもそこで練習してるんだ。ここから歩いて五分くらい」
家族ぐるみの付き合いがある幼馴染とかならまだしも、高校生の男女がお互いの家に行くというのはやはり特別な意味があるはずだ。漫画で見た。
それに両親、真人君の場合はお父さんが離れて暮らしているからお母さんだけかもだが親と会うことになる。まだそんな心の準備はしていない。
「あの、お母さん、家にいるんじゃ……」
「あ、母さんは朝から父さんのところに行ってるんだ。母さんの実家はそっちからの方が近いから、今日泊まって父さんと一緒に実家に寄って明日の夕方くらいに帰ってくる。だから今日は俺一人」
「そ、それなら行こうかな」
いや、余計駄目でしょ。何を言っているんだ私は。
今日一日、真人君と楽しく過ごして完全に舞い上がってしまっている。このままではお父さんに怒られるようなことになってしまうかもしれない。
私の脳内で駄目だと言う私と行こうと言う私がせめぎ合う。
駄目だと言う私は主に漫画で見たエピソードを軸に持論を展開していて、男の子の家にのこのこついて行った者の末路を熱く語っている。私や伊織が買うような本では不幸になることはないのだが。
行こうと言う私は真人君の真面目さや誠実さをアピールしている。あれだけ女子にちやほやされても彼女も作らず、良い気にもならず一生懸命にバスケをしている理性的な真人君なら問題ないと言っている。
私は結論を出せないまま真人君に手を引かれながら真人君の家に向かって歩き出していた。
胸をバクバクさせながら歩くこと約五分、普通よりも少しだけ広い二階建ての家の前で真人君は足を止めた。車二台分くらい停めることが出来そうなスペースとバスケットゴールが一つ立てられた広めのスペースがアスファルトで舗装されている。
お母さんがいないという言葉通り車は停まっていない。
「ここで練習してるの? でもなんかゴールが低いような……」
「ああ、これは小学生のとき使ってたミニバス用のゴールだよ。今は使ってないんだ。入って」
これなら私でもシュートを決められそうとか思ったのが少しだけ恥ずかしい。
そして私は真人君に促されるまま家の中に足を踏み入れた。
「お邪魔します」
綺麗、というのが第一印象だった。おしゃれな小物に観葉植物、ピカピカなフローリングの床、無駄なものがなくて、清潔感のある真人君にはぴったりだと思った。
玄関でスニーカーを脱ぎ、真人君が用意してくれたスリッパを履いてもう一度家の中を見回した。
「綺麗だね、うちなんか色んなものがごちゃごちゃ置いてあって玄関が狭くなってるのに」
「母さんが綺麗好きなんだ。そもそも母さんは仕事が忙しくてあんまり家にいないんだけど。俺も部活であんまり家にいないし、いるときはだいたい自分の部屋か下にいるんだ。だからあんまり余計な物がないし人の動きがないからそんなに埃もたまらない」
下、というのはどういうことだろう。真人君の部屋が二階にあって一階のことを下と呼んでいるのだろうか。その疑問は真人君の後ろについて行くだけで解消された。
真人君は二階へ上がる階段へ向かったと思いきやそこには下に降りる階段もあって、真人君は階段を降りて行った。私もそれについて行く。
「この家、俺が小学二年生くらいのときに完成したんだけど母さんの実家が結構なお金持ちらしくて支援してもらったんだって。土地とか家そのものじゃなくてこの地下室を、らしいけど」
階段を降り切った先にあった扉を真人君が開け、地下室に入ると目の前にはバスケットのコートが広がっていた。普通のコートのちょうど半分くらいの大きさでゴールが一つだけ設置されている。床は学校の体育館と同じような素材でできているようだ。
「すごい、部活が終わった後もここで練習してるの?」
「うん。ちょっとだけ待ってて、準備してくる」
一度地下室を出て上に上がっていく真人君。着替えなどをしに行ったのだろう。その間に私は地下のバスケットコートを見渡してみた。
半円みたいなおそらくこれより遠いとスリーポイントシュートになる線がきちんと引かれていたりして、本当のバスケットコートの半面であることが改めて分かる。
地下はカビやすいなんて聞いたことがあるけれど、気温や湿度などを管理する空調設備もついていて綺麗な状態が保たれていた。
マフラーや手袋を外してなんとなくゴールの反対側のコートの端っこに立ってみて、そこからゴールを見上げた。コートの真ん中からシュートを決めるなんて遠すぎて私には無理だなと思う。
今度はゴールの真下に移動して両手を挙げた。その状態でジャンプをしてもゴールについているネットにすら届かない。
スリッパにロングスカートなんて運動に適さない格好のせいで普段よりジャンプ力はないが、ちゃんとした格好になっても大差ないだろう。ダンクシュートなんて夢のまた夢だ。
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