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「寧ろ私としては・・・この3年間何もなかった事を恨んでおります」
「・・・」
目を見てはっきりと言い切りました。
ローレン様の目には動揺が見て取れます。
瞳も涙に濡れてらっしゃいます。
その理由はどうでも良いですし、考えたくもありません。
ですが、それでも真っ直ぐに私の目を見返すところは面白いです。
中々気に入りました。

・・・どうか、折れないで下さいね?

「まず女性は男性より早熟なのです、申し訳ありませんが私はこれ以上大きくなる事はありません」
この発言にローレン様はセバスとアンを慌てて見ました。
2人はゆっくりと大きく頷いてくれました。
ええ、そうですとも、大きくなれません。

「それとオーウェン様、元婚約者ですがあれは親が決めた許嫁です、それ以上でもそれ以下でもありません」
・・・このお方は目で物を言いますね。
安堵というか喜びさえ感じます。
「あと私は退屈な事が嫌い、いえ嫌悪しております・・・ローレン様が私を見てお感じになられたのはそういう所だったと思います」
さあ種は蒔きました。

・・・最後まで目は逸らさないで下さいね。

「私には元婚約者は退屈でした、ローレン様から結婚のお申し出があり、人となりを聞いてむしろ喜んだのですよ?退屈せずに済みそうなお方です、と」
言いたい事はご理解頂けた様ですね。
「誓いのキス、覚えていらっしゃいますか?見た目通りの不器用なお方だと、笑いを堪えるのが大変で御座いました」
まあ、動揺を前に震えておられます。
おまけの罪悪感を増すための微笑みに御座いますよ?
「その日から・・・毎日地獄に御座います」
ああ!私の一言一言に傷ついてらっしゃるのですね!
16歳年下の小娘相手に泣かされておられるのですね!
下さいっ!私にっ!3年分の愉悦を!
「私にとってローレン様は好きとか嫌いではありません、ただ、ただ、恨んでおります」
・・・素晴らしいです!醜いお顔が更に酷い有様ですわ。
鼻をすすり顔を顰め涙を垂れ流す。
是非に!部下の騎士の方にお見せしたい程にっ!

・・・それでも・・・そのようなお顔になられても・・・私から目は逸らさないのですね。

ふふっ、新しい玩具、いえ珍獣でも見つけたような気分ですわ。
ただ捨てるのも勿体ないです。
でしたら・・・
「ですがローレン様のお気遣いには痛み入ります・・・確かに先程掴まれた両肩に、未だ痛みがあります」
立ち上がろうとする珍獣を手で制します。
まるで・・・調教師の気分ですね。
「ローレン様は私に怪我をさせないよう、嫌われないよう心を砕かれておられたのですよね?」
「・・・ああ」
「私は結婚式の誓いで充分でしたが・・・ローレン様には足りなかったご様子、ですので契約を致しましょう」
「・・・契、約?」
「はい、結婚してから一度も聞いた事がありませんが、愛してくれているのでしょう?私を」
ふふっそんな事で今更動揺されるなんて・・・
「退屈しないよう、私めにローレン様の愛を毎日感じさせて下さい」
「そ、それはどの様に?」
「それを教えて私はどうやって愛を感じるのでしょうか?」
「ぐっ!」
「高価な贈り物は必要ありません、欲しいのはお気持ちです、ですがその日々が続く限り、私めはローレン様を決して裏切りません、如何に愛を囁かれようとも、山の様な財を目の前に積まれようとも、心揺らがずに貴方に付き従いましょう・・・それが契約に御座います」
「だ、だが、いやその様な事はないが・・・」
「もしローレン様が私めを愛せなくなったら、私が愛を感じられなくなったら・・・その手で殺して下さい」
「そ、そんな事っ!無理だっ!」
「恨まれたまま退屈の檻に閉じ込めるか、私めを愛し続ける契約を結ぶか、道はふたつにひとつで御座います」
ふふっ他にも選択肢はありますが、必要ないでしょう?
「・・・わかった・・・契約、してくれ」
「ありがとうございます、ローレン様、改めましてよろしくお願いします」
「ああエレーナ・・・よろしく頼む」
・・・この珍獣でしたら、退屈せずに済みそうですわ。

「ですがローレン様は恋愛は初心者のご様子、ですので今日は私が御教授差し上げます、明日以降は真似するも変えるもお任せ致します」
「あ、ああ、助かる」
「では私の前にお立ち頂けますか?」
「こ、ここでか?」
「ええ、何かご不都合でも?」
「い、いや、問題ない」
調教は最初が肝心です。
主従関係ははっきりさせなければなりません。
「ここで良いか?」
「はい、では両手を私の肩に」
ここは・・・耐えます、我慢ですよ。
「こ、こうか?」
「・・・結構です、では私をどう思ってらっしゃるのか言葉にして下さい」
「・・・あ、愛している」
「目を見ずに囁く愛などありませんよ?」
「あ、あ、愛している」
「照れて言う愛も御座いません」
調教には鞭も必要です。
硬いお腹をつねって差し上げます。
「・・・愛している、心から」
ふふっ主従関係は出来ましたかしら?
「ありがとうございます、今日は伝わりました・・・ローレン様、お食事は如何なさいます?」
「い、いや、今日は少し疲れた、早めに休みたいのだが・・・」
「わかりました、私も今日は胸いっぱいです、着替えて参ります、アンお願いね」
「は、はい畏まりました」
食堂を後にしてからアンに氷を頼みました。
私の両肩・・・大丈夫でしょうか・・・


自室に戻り、姿見で肩を確認しました。
・・・手の形に痣になってますね。
触られるだけでこんな事になるなんて・・・
うふふっ退屈せずに済みますわっ!
ドアがコンコンと鳴りました。
「奥様、失礼致し、そ、その痣は?!」
「アン、悪いけど少し氷で押さえてもらえる?」
「はいっ」
「それにしても・・・流石騎士団長様ね、掴まれただけでこんなになるんですもの」
「幼少の頃から大変お力の強い方でしたので・・・」
「アンも大変だったでしょう?」
「・・・私も痣だらけでした・・・奥様、申し訳御座いません、ありがとうございます」
「貴女に謝られる事ではないわ、それに・・・酷い女だと思うわよ?」
「そんな事は御座いません!旦那様もお喜びかと」
「あら?だとしたらまだ早いわよ、今日から同じ部屋で寝ます」
「ですがこのお肩では・・・」
「私が痛いだけです・・・ありがとう氷はもういいわ、あと肩の痣はローレン様には内緒でお願いね」
「で、ですが奥様っ」
「ねえアン・・・私楽しそうでしょう?」
「は、はい」
「食堂で言った言葉は全部本当よ?退屈が嫌なの・・・あなた達も外様から来た嫁として扱ってきてくれたわ、でも今日から私はもう遠慮しない・・・あなた達が私を退屈させたら、そのしわ寄せは全てローレン様に行くからそのつもりでね」
「・・・わかりました、肝に銘じます、奥様」

・・・こちらも上下関係は済んだかしら。

「ねえアン、この痣が隠れる寝間着はあるかしら?」
「では奥様、こちらは・・・・・」
「そうね、まだ刺激がない方が・・・・・」




ローレンはベッドの上でお腹をさすっていた。
先程エレーナから抓られた所だ。
痛いわけではない、寧ろ心地良さを感じていた。

ずっと葛藤していた。
自分の勝手で婚約者から無理に引き離した。
嫌われていないか?恨まれていないか?
しかも自分は力加減も出来ないような醜男だ。
戦場しか知らない無骨者だ。
歳も離れている。
避けられるのではないか?
夫婦になってからもずっと怖かった。
だから近寄ることすら出来なかった。

恨んでいる、とそう告げられた時は泣きそうに、いや泣いてしまった。
見捨てられる、見放されると。
それでも・・・絶対に手放したくなかった。

そして今、ローレンは至福を得ていた。
歪な形かもしれない。
それでもローレンには充分だった。
愛しい女が財を積まれても、愛を囁かれても自分に付き従うと誓ってくれた。
その喜びに打ちひしがれていた。
抓られた腹をさすり、ベッドをの上を転げ回っていた。

ドアがコンコンと鳴る。
「ローレン様、エレーナで御座います」
慌てて姿勢を直した。
あの様な姿を見られるわけにはいかない、そう思った結果だ。
「あ、ああ、入っていいぞ」
「失礼します」
ローレンは初めてエレーナの寝間着姿を見た事に気がついた。
そして激しく胸が高鳴った。
「・・・どうした?」
「ええ、本日から一緒に眠らせて頂きます」
「なっ?!」
「夫婦として何もしなかった3年分の利子です」
「い、いやしかしだな」
「わかっております、ローレン様が手加減出来ずに私を抱いてしまえば・・・死んでしまうでしょう?」
「・・・あ、ああ」
「利子を払いながら少しづつ手加減に慣れて下さい」
そう言いエレーナは微笑んだ。
「横になってください、灯りを消しますね」
「んっ!あ、ああ」
「ローレン様、お手を横に伸ばしてくださいませ」
「こ、こうか?」
「結構でございます」
そう言うとエレーナはローレンの腕を枕にした。
「・・・!!」
「お休みなさいませ、ローレン様」
「お、おやすみ」
そしてエレーナはローレンに背を向ける形で寝息を立て始めた。

ローレンの目の前には女の愛らしい背が、流れるビロードの様な髪があった。
心臓の鼓動が自分で聞こえるくらいに高鳴る。
愛おしい女を抱きしめたい衝動に駆られる。
その興奮に伴い男が怒張を増す。
(駄目だ!もし加減出来なかったらどうする!)
その思いに身体を留める。
意に反する身体を情が抑えつける。
ふとエレーナの寝間着に意識を向けた。
この暖かい時期に不釣り合いな厚手の寝巻きだと思い至った。
幼少の頃、何度もアンに痣を作った事を思い出した。
(食堂で掴んだ時?!まさかっ?!)
そう思うが脱がして確認も出来ない。
触って痛がらせるわけにもいかない。
そう空いた手をウロウロさせていると、エレーナのビロードの様な髪が鼻腔をくすぐった。
愛しき者の髪はまさしく媚香だった。
落ち着かせた鼓動がまた高まるのを感じる。
このままでは落ち着かない、と身体が距離を取りたくなる。
心がそれを激しく否定する。
だが脳が腕を引き抜くことを考えた。
(腕を外した事で愛情が感じられないと言われたら)
言い訳がましく心の赴くままに諦めた。
もう心を落ち着かせて寝てしまおう。
ローレンはそう考えた。
(寝返りでエレーナが潰れてしまったら)
そう思うと眠りにつく事も許されなかった。

これをエレーナが起きるまで繰り返した。
ローレンは気がつけば朝を迎えていた。
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