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36 モノローグ [戦]

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チューバッカ王国軍は明け方にゆったりとした速度で進軍を開始した。
それは帝国に知らせる為に。
防衛の準備がしっかりと終わるように。
ヒードル率いる小隊は既に現地で待機していた。
だが緊張は無い。
見つからないよう警戒をする程度で、それはその日に帝国軍と衝突する予定は無いからだ。

サザーランド将軍率いる帝国軍は王国軍が進軍を始めたというその報を聞いても慌てる事はなかった。
進軍して来る場所が分かっているからだ。
オルガスと呼ばれる街の北側には見晴らしの良い平地が広がる。
所々にある小高い丘や崖が障害物になる程度だ。
伏兵や奇襲を受ける心配は無いとそう判断をした。

「奇策を用いる必要はない」「数は我等の方が圧倒的に多い」「姑息な手段さえ無ければ獣如きに」

そう兵達を鼓舞した。
そしてサザーランドは陣の最奥へと引き下がった。
街から見える程の再奥に。
いつでも本陣の撤退が出来る位置に。
何故なら回り込まれる心配がないからだ。
見晴らしが良すぎる故の判断だった。

ある位置を境にそれが背を崖にしたような陣へと変貌を遂げるとは、誰が想像出来ただろうか。

王国のゆったりとした進軍は途中で夜営を挟んだ。
昼過ぎに漸く防衛線を張った帝国軍を更に嘲笑うかのように。
その防衛線を離れない事は戦場を決めた時から想定されていた。

帝国の将軍はそういう男だと。

安全の余白の確保に余念がない男だ。
見晴らしが良すぎる所為で下準備は疎かにする筈だ。
疎かな場所へ軍を進める男ではないと。

その予想は的中する。
動く影は1小隊のみだった。
眼鏡を外したヒードルは笑いを噛み殺していた。
火を起こさず暗闇の中、良く利く夜目をギラつかせ動かぬ帝国軍を眺めていた。


帝国側は夕方には進軍して来るだろうと予測していた。
場合によってはその場で衝突があるだろうと。
だが夜を迎えても王国軍の明かりさえ見えなかった。
王国には6番隊に猫族、所謂猫人や豹人、獅子人など夜目が利く者を集めた夜戦部隊があった。
当然過去の戦で夜襲を経験している帝国は更に夜の恐怖に脅える羽目になる。

これは作戦とも呼べないヒードル発案のただの嫌がらせであった。
警戒する帝国軍を他所に6番隊はグッスリと睡眠をとっていた。


日が昇り始めると同時に王国軍は進軍を再開した。
それは急ぐような速度ではない。
ただ昨日のようにゆったりとは進まない。
戦を前に逸る気持ちを抑えた獣の行進だった。

昼を前に両軍は向き合う事になる。
ヒードルはやや縦に重ねられ伸びた帝国軍を押し込む所から始めた。

まず動きに定評のある2番隊、6番隊、7番隊に南の合図を出した。
向き合った状態での進軍方向でもある南の合図は攻撃を意味させた。
だがガッツリと攻撃する予定はない。
帝国前線を削り取るように襲いかからせた。
騎馬に乗り前線を薄くスライスしていく。

深入りはしない。
それは最初から決められていた。
威嚇の為に牙をぶつける犬のように少しずつ前線を押し上げた。

後方にかなり余裕を持たせた帝国軍は無駄な被害を減らす為、追撃を誘引させる為に後退をした。

王国はその押し込んだ所に3番隊と力に特化した種族混成の5番隊で厚い横陣を引いた。
その横陣の更に横に2.6.7番隊が並んだ。
3.5番隊の後ろに1.4番隊を救援要員として、更に後方に魔法に特化させた9.10番隊を配置、工作部隊の8番隊をその後方に並べた。

ここから王国は前線を怪しまれないように徐々に後退をさせた。
帝国側に押されているように、帝国側が優勢であるかのようにそっと。
この負荷は壁役でもある3番隊、5番隊に重くのし掛かった。

横から回り込もうとする一団は2.6.7番隊が更に回り込み抑えた。
中遠距離の魔法は9.10番隊が対処した。
壁役が押され過ぎた場合は1.4番隊が隙間を縫って救援に入った。
全隊が一丸となって後退戦に取り組んだ。
帝国軍が数で押していると勘違いするように。

サザーランドは余白が生まれると尺取り虫のように縮めて伸ばした。
あまり伸ばし過ぎると横からの攻撃に弱くなる。
縮め過ぎると本陣が安全に撤退する余白が消えるからだ。

後方へ退がる事を目的とする王国を押す事は難しい事ではなかった。
サザーランドは愉悦を感じていた。
少ない被害で苦渋を舐めさせられた王国の軍勢を押し返す事に笑いを隠せないでいた。
そして既に帝国でも手の打ちようが無いほど追い詰められていた。
この戦はサザーランドにとっても起死回生の一手だった。
その戦が傍目に優勢なのだ。
同じ立場の者であれば誰しもが愉悦に身を浸しただろう。


ヒードルは小高い崖の上からほくそ笑んでいた。
遠目ながらも見晴らしの良さで両軍の動きが良く見えた。
今、参謀として遣り甲斐を感じていた。
流れるように変わる戦局を調整する事に喜びを感じていた。

元よりヒードルの能力は高い。
だが陰日向と敬愛するハッグの為に動く事を彼は良しとしていた。
その事に決して不満はなかった。
だがそのハッグに全権を任され、帝国を手の平の上で転がす感覚はまさに甘美であった。

「まるで・・・指揮者にでもなった気分です・・・くっくっくっ」

彼の本領と才能はここに大きく花開いていた。


攻めあぐねる帝国と疲労し消耗する王国の戦いは5日目を迎えた。
死に至る大きな怪我を負っても即座に王国側の魔道具を介しそれを癒した。

ジェリーはその魔道具の名前を「ローズマリー」と名付けた。
マリーの為に作った魔道具であり、番である夫人からその花の複数の花言葉を聞き、躊躇うことなくその名を付けた。

その花言葉は・・・[あなたは私を蘇らせる]

ジェリーはピッタリだとしたり顔だった。
マリーが聞いたら「やめてくれ!」と懇願した事だろう。

押しているのに王国側の被害は見受けられない。
寧ろ押しに押す事で帝国側の被害の方が多いと推察出来た。
サザーランドの苛立ちはこの日に頂点へと達した。
強引に数にものを言わせた進軍を仕掛けたのだ。

ヒードルは大きな下弦の月を顔に浮かべた。
その勢いに一気に後方へと退がる支持を全軍に出した。

懸命なる撤退戦は大なり小なり、ある者への慚愧の念により統一された。
獣人にとって番と離れるという行為を選んだ、不甲斐ない自分達に笑顔を向けた雌への一念だった。

そして帝国軍という名の尺取り虫は二度、三度と本陣を巻き上げた。

そしてこの戦、最後の夜を迎えた。


・・・クンクン・・・

ハッグは臭いを嗅いだ。
唯一動かせる鼻を頼りに状況を確認していた。
火の臭いがした。
食事の匂いがした。

人間の臭いは・・・くっくっくっ、流石はヒードルだ。
誰も死んでおらぬだろうな?
・・・儂の我儘に付き合ってくれてありがとう・・・

帝国軍の本陣の南側でボコっと地面が隆起した。
その土塊から生まれでたのは文字通り裸一貫の熊だった。
いや、マリーからの贈り物であるネックレスだけを首から下げた全裸のハッグだ。

ハッグは「ペっ」と口の中の土を吐き出した。
「フンっ」と鼻の中に入った土を噴き出した。
そして肩を回しゴキゴキと鳴らした。


マリーがワング隊に使った伏兵戦での仕掛けは土に埋まる事だった。
それは帝国側の工作兵用の魔道具[土竜モグラ]を用いて行われた。
特に鼻の利く獣人を誤魔化す為に用いた奇策だった。

この見渡す限りの平地に5日間も埋まっているとは誰が想像しただろう。
ヒードルが「バカなんじゃないですかっ?!」と怒鳴ったのも無理はないだろう。
初日に戦線を押し込んだ所へ[土竜]を用い8番隊がハッグを埋めたのだ。


ハッグはペンダントトップの肉球にチュッとキスをした。
そして鎖から引き剥がした。
大きく息を吸い極大魔法の名に相応しい程の魔力を練った。
そして手を天に掲げ咆哮のように魔法を唱えた。

権限せよぉっ!我が化身んっ!肉球落下っメテオスタンプ!!!

帝国本陣上空に巨大な肉球が現れた。
だがまだ落下は始めない。
ハッグが更に魔力を込めていく。
そして握られた肉球ペンダントトップが光の粒子へと変わった。
その粒子がハッグの中に吸い込まれ、それに合わせて肉球が大きさと輝きを増した。

本陣より騒めく音がする。
上空の光る肉球へと視線が集まる。
そして権限した肉球を介して野生の勘が働いた。

「・・・あそこにマリーをいじめた者がおる気がするっ!」

無性に腹が立つ・・・そうだな魔力など1滴残せば良い。
全て・・・全て注ぎ込んでくれるっ!

「・・・はぁぁぁあああっ!!!」

そして今から絶望を与える者の名を雄叫びのように名乗った。

「聞けっ!帝国の者よっ!悪鬼羅刹と恐れるが良いっ!恐怖と共に心に刻めっ!我が名はハッグ・ベアードッ![王国の女熊]が番っ!血塗られた灰色熊ブラッディグリズリーだっっ!!!」

振り下ろされた手の動きに合わせて巨大な肉球が落下を始めた。
慌しく這いずる者が見える。
走り逃げる者が見える。
天へ泣きながら祈る者が見える。
それらを見ながらハッグは呟いた。

「貴様らを殺した者だと我が名ブラッディグリズリーに刻もう」

落下した肉球から轟音と爆風が巻き起こる。
その爆風にハッグは耳をパタパタとはためかせながら踏ん張った。

「ぬっ・・・お、おう?おっ、くっ・・・ぐへっ」

普段なら耐えられたかも知れない。
魔力ほほぼ全て使い切り、この5日間体を動かす事なく、飲食をしていない体では堪える事は出来ず、転がるように後ろへ吹き飛ばされた。

「ハッグ将軍っ!」

声を掛け寄って来たのはウォルグと狼人二人だ。
10日前から大きく迂回し街の近くで潜み待機していた。
ハッグの回収役として愛馬のランカスを連れて。

「おおウォルグ・・・すまぬ少し手を貸してくれ」

「全く・・・ハッグ将軍、お疲れ様でした」

「ありがとうな・・・」


こうして帝国軍部との争いは幕を閉じた。
生き残った帝国の騎士達は補給部隊だけが滞在するオルガスの街へと逃げ帰っていた。
それを指揮する者はもういない。
戦線を維持する事なく一人また一人と釣られて持ち場を離れた。
ただ恐怖に脅える事しか出来なかったろう。
そして帝国軍は誰もいなくなった。
大地に巨大きな爪痕・・・いや肉球の痕だけを残して。

翌朝王国は使者を立てた。
証として白い旗を立てオルガスの街の前で声を上げた。

「2週間の停戦期間を設けるっ!その間にこの書簡の返答をせよっ!」


こうして数百年にも及んだ戦争の歴史に幕を下ろした・・・


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