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最終章
最終章-8 神の武器、変わらない結末
しおりを挟む風雲急を告げる議会閉廷の後、各々休息を挟み宮廷での慰問晩餐会が始まっていた。
彩りどりに並ぶ料理を見て、各国来賓達は苦虫を潰したような複雑な顔をする。
サウセント王国側が無礼を働いた訳ではない。
自国内のみで試験的に流通させている食材であるにも関わらず、それをふんだんに使用した料理が並んでいたからだ。
牽制と宣言。
情報という牙は有しているという牽制。
人族の国では西南に位置するが、海を跨いだ大陸としてみれば中央に位置する。
その利点を生かした交流国家であるという宣言。
それを証拠に、他国の真新しい食材を組み合わせた料理を並べているのだ。
口に運ぶ頃にはその意図を自ずと理解する事だろう。
過去を辿れば略奪があった。
過去を偲べば他種族の排斥があった。
侵略という戦争があった。
これも謂わば戦争の新しい形。
経済戦争ではない。
融通、そして忖度。
共に成長を促していく形式。
競争戦争と言えばいいだろうか。
それは経済を活性化させ循環を促す事だろう。
オリバー国王はニコニコとした仮面を被りながら溜息を吐く。
見渡せば数席空きがある。
獣王国レオンパルドの席、魔人国ドゥエムル卿の席、そしてアルベルト子爵の席だ。
(・・・自分達だけ・・・ずるいよ・・・)
獣王国の宰相はいる。
形だけと言われても過言ではないレオンパルドは居なくても差し支えはない。
だが、魔人国のドゥエムル卿は実質の支配者だ。
そしてアルベルト子爵は今回の責任者だ。
確かにその二人を好きに歩かせる訳にもいかない。
護衛は不要だが必要だ。
どうせ二人の目的地はアルベルト子爵のサテライトの街なのだから、致し方ないとも言える。
(・・・面白いだろうなぁ・・・)
情報収集にひっかかったネタがあった。
それがここではなく、あの街で行われるのがオリバー国王は癪だったのだ。
その国賓二人を乗せた馬車は、サテライトの街が小さく見える所まで来ていた。
会話の進まない車内の時間経過は遅く感じられただろう。
空に広がる低く黒い雲がそれをより演出した。
その沈黙を破ったのはオーウェンだった。
「エインリッヒ殿、先程の話ですが・・・」
「財団の件でしょうか?」
オリハが絡まなければ会話は出来るのだ。
ちなみにエインとレオでは無理だろう。
「ええ、扱う商材は絵本との事ですが・・・それだけではないのですよね?」
絵本は回転のある商材ではない。
それだけでは財団は立ち行かない。
その指摘、というより今後の展望の確認だ。
「けっ、どうせ小物らしくチマチマ運用して小銭稼ぐんだろうよ」
「・・・オーウェン様にもお手伝い頂く事になると思いますが、高い副次効果が見込まれます」
レオは無視された。
「絵本で、ですか?」
「はい、とはいえ数ヶ月は先の話で御座います、問い合わせは領地の管理者であるオーウェン様に向かうでしょうから、その窓口をお願い致します」
「・・・豚が勿体振りやがって・・・」
意図した訳ではなかった。
エインは結論有りきで語る事が多い。
ほぼ一人で物事を進めている弊害でもあるが、その過程はあくまで想定通りの予定調和であり、必要とは思っていない。
「先程からニャーニャー煩わしう御座いますよ!男から豚呼ばわりされても全く嬉しくも有りませんっ!・・・貴方こそ本気ですか?」
「あん?当たり前だ、オリハは今日は俺のモンだからな」
「・・・そのままお亡くなりになられる事を心待ちに致しておりますよ?」
「うるせえ・・・今日は勝たなきゃならねぇんだ、それにそのまま国に連れ帰るつもりだしな」
「やはり死んで下さい」
火花が散る様に睨み合い、共に舌打ちをしてぷいっと視線を外に向け合った。
オリバーが仕入れた情報はエインも当然耳に入れた。
報告したい事があるが、今日はオリハは荒れるだろう。
顔を見るだけで満足致しますか、とエインは溜息を吐いた。
その様子にオーウェンも肩を落とす。
何かにつけて自分と比べてしまう。
その力も、そして才覚も。
扱える人員数が違うと言えばそれまでだが、側にいる、近くにいる時間が一番長いのに、いつも出遅れている。
会議の場でもそうだ。
発言権こそ有さないが、責任者としてあの場にいた。
あの場を支配したのはエインだ。
そして話の腰を折ったのはレオンパルドだ。
話の腰を折る為には、流れに飲まれる事なく話の本筋を正しく理解していなければ出来る事ではない。
(・・・私は、ただ、飲まれていた・・・)
出て来る手札に翻弄されていた。
その自覚があった。
立場が違う、器が違う。
同じ女性に惚れた男として意識しない訳がない。
好きだと伝えた事はない。
愛していると伝えた事もない。
だがそれは二人への劣等感からではない。
オリハがそれを望まないだろう事も感じている。
(・・・関係ない・・・)
能力を比べる必要などない。
想いを比べる必要などない。
(・・・ただ側にいる・・・)
娘への恩もある。
それと同様の重さの想いもある。
(・・・そう決めたのだから・・・)
いずれ誰かを選ぶのかも知れない。
誰も選ばないのかも知れない。
例えそれが別の誰かであったとしても、側にいる、ただ支える、とそう決めたのだから。
「獣王陛下、お茶でも淹れましょうか?」
「おっ、悪いな、貰おう」
主人をさておいてマリアが問いかける。
「あっ、私も!私めも飲みとう御座います!」
「アルベルト様も如何ですか?」
「有難う、お願いしていいかな?」
「畏まりました、ではお二つですね」
「む、無視に御座いますか?!・・・有難う御座いますっ!」
マリアはオーウェンにカップを手渡しながら思う。
(エインリッヒ様×アルベルト様・・・いえ、逆かしら・・・)
マリアはレオンパルドにカップを手渡しながら思う。
(陛下は・・・やはり総攻めですね、絶倫とお噂ですし)
男共はそんな目で見られているとは知る由もなかった。
馬車は二人の宿泊予定であるアルベルト子爵邸ではなく、手前の教会へと向かう。
放っておけば喜んで孤児院に泊まるだろう。
だが一応は国賓である。
それなりの対応はしなくてはならない。
そしてオリハの貞操を守る為でもある。
「・・・巻き添えを食らいたくは御座いません、お一人で行って下さい、骨は拾って差し上げますから」
「ふんっ、俺達のイチャつくとこでも指咥えて眺めてろ」
「はぁ・・・あのお二人の事です、まだ話せていないでしょう」
「・・・だろうな」
そう言いながら馬車から一人降りる。
「一体、何を?」
「直ぐに分かります・・・私共はお土産を持って来たおじさん達として、お子様方からチヤホヤされていましょう」
「ここで何かあると私も国も不味いのですが?」
勢い良く裏手、孤児院側のドアを開ける。
「邪魔するぞ!」
「静かに開けぬか!扉が壊れるだろうがっ!」
家の中からがなり返す声が外まで響く。
「ガキ共、ナツとフユを貰いに来た」
「・・・帰れ」
深く響く声だった。
今度は大きい声ではないのに、混ざる殺気の所為か外にいるオーウェン達にもその声が届いた。
「安心しろ、ついでにテメエも貰っていくつもりだ」
「・・・我は帰れと言ったが?」
空を見てからエインは護衛の領兵に指示を出した。
「淋しがる必要はない、今日の夜からしっかり可愛がってやるからなぁ!」
「・・・死にたいらしいな、表に出ろっ!」
領兵はサウセント王国の兵で魔人国の兵ではない。
だがエインの指示で外に出るオリハと入れ替わるように荷物を運び入れる。
「オーウェン様、雨が降りそうです、さ、お早く」
「え、ええ・・・ですが・・・良いのですか?」
過程は所詮、過程に過ぎない。
エインはそう思っている。
「良いのですよ・・・望まれたとはいえ、オリハ様からナツ様とフユ様を奪おうとするのですから」
確かに大事な事ではある。
過程がなければ結末は生まれない。
だが未来が、結末が変わらないのであれば、それはあくまでも予定調和なのだから。
「・・・それにあの御役目は・・・残念ながら駄猫にしか務まりません」
シトシトと空から雨が溢れ始めた。
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