赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
上 下
117 / 162
第8章 サウセント王国編

8-17 神の武器、未来に捧げるみらい

しおりを挟む


自分には才能がある。
根拠はない。
だがそれを確信していた。

今でもそうだ。

このままでは終わらない。

何となくそれを感じていた。

その兄や姉の斬撃が見える訳ではない。

まだ幼い動体視力では捉える事は出来ない。

だが何となくだが戦局が分かる。

そして最後には必ずここに来る。

それだけは確信していた。

だから自信を持って言える。

ぼくはてんさいだ、と。


ここに来る前に父の戦いを遠目に見た。
オリハ母上は[魔王]と言った。
そして感じた。

アレはぼくのなかにもいる、と。

ただそれは将来の話だ。
何年先かまでは分からない。
だが遠くない未来、間違いなく得られる力だとアキは感じていた。


瞬時に開いたティダとギュストの距離は絶望を感じさせた。
ナツはその一撃に込められる全てを詰め込んでいた。
フユは壁に余裕なく衝突した際に足を痛めていた。
シャルには瞬時に対応する術はない。
だから予期せぬギュストの動きに対応する事は出来なかった。

ティダは慌てる事なく剣を構えた。
肩に担ぎ剣先を後方へと向けて両手でしっかりと抑えながら。

不安はなかった。

ティダは確信する。
間に合う、と。
そうスキルが教えてくれた。
そして剣へと魔力を流し始めた。


嵐の檻をただ見上げていた。
オーウェンもハルも。
アキはそっと後ろから抱きついてくれるハルの手を上から重ねた。
振り返り見上げて・・・微笑んだ。
素人目に勝負がついたように思えた。
だからハルはしがみつくような力を解き、アキに微笑み返した。

(姉上は・・・ぼくがまもる)

未だ力を宿さないその体で誓う。
発展途上と呼ぶのすら烏滸がましい。
戦闘の手解きすら未だ受けてはいない。
年の割に多いとはいえ、この場において魔力とて微々たる物だ。
その魔力はオーウェンにすら劣るのだから。

だがそれが出来るとアキは確信していた。

そしてハルの腕から惜しむようにスルッと抜け出た。
トコトコと仕方なくオーウェンの前へと進み出た。
見上げるオーウェンにその姿が見えなかったのは不可抗力だった。

誰から教わった訳でもない。
アキは自然と怒りを呼び起こす。
大切な者を傷つけようとするその存在を思い浮かべながら。

そしてソレを魂が拒絶する。
まだ早い、その時ではない、と。
それは反動となってアキに電流のような痛みを与える。

その痛みに幼い体は悲鳴をあげる。
抗う為に声には出さなかった。
その痛みすら怒りの種火にする為に薪として焚べた。

その手段が自分の命を懸ける行為だと察していた。

それを天秤にかけてさえ守りたい存在ハルがいる。

自分がまだ幼い事などを言い訳にしたくなかった。
身体の成長に伴い強くなれた筈だ。
将来、姉を守れる存在になれた筈だ。

でもそれは今ではない。

その不甲斐なさも薪にして怒りに焚べた。

痛みに耐えながら両手を前に。

天才であるが故に至ってしまった。
魂を捻り、強制的にスキルを発動させる方法を。
幼き故に、柔らかく未熟な魂であるが故に至ってしまった。
その未来を犠牲にする方法を。


それは瞬きの間であった。
嵐の檻から魔人が解き放たれ、ナツとティダが追撃を仕掛けた。
肩から先を失った魔人が、声にもならない雄叫びを上げながらこちらに向かって来る。
状況を判断する時間さえ無い。

オーウェンには子供達を庇う時間すら許されなかった。

アキだけがこうなると予測していた。
そしてその準備を終えていた。
スキル発動の為に鍵を静かに回す。
柔らかな鍵穴は激しい痛みを伴い、魂ごと捻り捩じられる。

「・・・っ!・・・ぼくがっ・・・[まおう]だっ!!!」

漆黒の魔力が小さな手から前へと噴き出す。
アキの元々の魔力量が魔力量だ。
スキルを発動させたとて爆発的な魔力の上昇はあり得ない。
それでもその漆黒の魔力はしっかりと[まおう]の特徴を宿す。
そして命じる。
大事な者を奪おうとする輩に。

「ひれふせっ!!!」

「ガッ?!」

その言霊一つ。
それがアキの[まおう]の限界だった。
限界を迎えた魂は強制的にスキルを解除させた。
漆黒の魔力が霧散する。
それと同時にアキの意識が途絶え、膝から崩れ落ちた。

そこまでしてもギュストを地に伏させる事は叶わなかった。
片腕を失おうとも、致命傷を受けていようとも、相手は狂気だ。
その脚を止めるだけで精一杯だった。

そしてそれで充分だった。

動きを止めたギュストの体から剣が生える。

「・・・終わりだ」

深く突き刺した剣をティダが捩じり抜く。
糸の切れた人形のようにギュストが地に落ちる。
完全に受肉しているため、今までのように狂気が抜け出る事はない。

歴史は繰り返される。
それは狂気による破壊の歴史ではない。
獣人が、エルフが、魔人が、そしてドワーフの作った武器を持ち人族が惨劇を止める、その歴史だった。


「アキっ!」

そしてティダはギュストを尻目にアキへと駆け寄った。
抱き抱え頬を軽く叩く。
だが反応は無い。

「シャル!来てくれ!」

言うまでもなく誰も彼もが駆け寄って来た。
フラフラとしながらもナツが、そしてフユが。

「貸して!・・・ひ、酷い・・・」

アキを引っ手繰るようにティダから抱き寄せ、シャルは回復魔法と並行して魂の解析を行った。
器としての魂が完全にへしゃげてしまっていた。
既にシャルの魔力は、大魔法は使えなくとも普通に魔法を扱える程には魔力が回復している。
最大値が跳ね上がった恩恵でもあった。

「・・・絶対助ける」

そしてアキに魂の回復魔法をかける。
じっくりと負荷をかけないように。
それは潰した空き缶を元に戻すような作業だ。
急激に伸ばせば、魂は割れて壊れてしまうだろう。

「何がどうなったんだ?」

「あんたと同じよ・・・無理にスキルを使ったんだと思う」

「あー・・・それでアキは大丈夫なのか?」

「・・・気が散るから静かにして」

シャルの額から脂汗が流れる。
繊細で緻密な魔力操作が要求される。
その上扱う魔力はそれなりに膨大。
シャルの回復する魔力をそのままに、魂の回復魔法へと変換していく。


ただ時だけが過ぎる。

まだ柔らかく幼い魂であった事も要因の一つだ。
成形を終えて皺を伸ばすような作業へと移っていた。
年経た魂であればこうもいかなかっただろう。
そして白い光が終息していく。

「・・・ふぅ、終わったわ・・・もう大丈夫よ」

息を深く吐き、魂の外科手術を終えた。
どうしようもない箇所もあった。
そこは繋げて不要な箇所は切除した。
一回り小さくはなったが、皺一つなく綺麗な状態に戻した。

ナツが喜びの遠吠えを上げ、フユとハルは抱き合い泣き崩れた。
オーウェンは胸を撫で下ろした。

(・・・でも・・・ティダと違って・・・)

それは口にはしなかった。
小さくなってしまった事により、魂の余白はなくなってしまった。
オリハが行ったとしても、その結果は変えられなかっただろう。
この先、もうアキはスキルを使う事は出来ない。
それが未来へと捧げた代償であった。

そしてティダは剣を構え振り返った。

「・・・マ、マダダッ・・・マダオワラセナイ・・・」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...