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第6章 獣王国編
6-14 神の武器、閑話フユ、閑話獣王
しおりを挟むお母さん元気?
フユは元気だよ。
ナツはお別れしてから泣いてばっかりだった。
腹が立つから、背中叩いて励ますフリしてたまに爪で刺した。
アタシもたまーにだけど淋しくなった。
でもそんな時、いつもオリハが撫でてくれた。
そして抱きしめてくれるの。
・・・これがお母さんの言ってた優しいって事なのかな?
ヒトの町にもたくさん行ったよ。
ハルがね手を握ってくれるの。
フユ姉が迷子にならないようにって。
でもどんどん勝手に進んで、いつもオリハが慌てて追いかけてくるの。
少し涙目で。
多分・・・ハルはわざとやってる気がする。
ヒトの町に行くたびに、ヒトとして一人前にって言われたことが胸に響いた。
まだ言葉もわかんなかったし、判らない事だらけだったから。
ナツにもがんばろうって爪刺した。
今は王都って言うところにいる。
宿屋っていう巣を借りて住んでるの。
ネズミのおじいちゃんも一緒に住んでるの。
いつもニコニコして、お掃除をすると「ありがとう」って頭を撫でてくれるの。
たまにお菓子もくれる。
このおじいちゃんも優しい。
近所のおばちゃんも「フユちゃん偉いね」って褒めてくれる。
「言葉に、にゃ、を付けると猫獣人はより可愛くなるわよ」って教えてくれた。
もう少し慣れたら試してみによゃ・・・
試してみようかな。
ぶとーたいかいっていうのも見たの。
みんなすごかった。
ナツとあの人がすごい、カッコよかったって話してた。
でもお母さんから「誰よりも強く」って言われたのに自信が少しなくなった。
ナツもそう思ったみたい。
そしたらオリハが「強くなりたいか?」って。
その次の日からお勉強と修行の日々。
大変だけど少しづつだけど、毎日強くなってる気がする。
ある日アキを膝の上に乗せてお話をしてた。
アタシ達も聞いてほしいって。
「アキ、母の事好きか?」
「母上すきー」
「そうか、母もアキが大好きだ・・・だがアキにはもう一人母親がおるのだ・・・アキを産んでくれた母親だ」
そう言うと優しく、でも強くアキを抱きしめた。
種族が違うからもしかしてって思ってたけど・・・
「ハル、こっちにおいで」
「はーい」
そしてハルも一緒に膝の上に乗せた。
「ハルにはもう何度も話したな?」
「うん、わたしを産んでくれたお母さんの事だよね」
「そうだとても偉大な母親だ、アキの母もだ・・・どちらの母親も命をかけて二人を守ったのだぞ」
そう言って二人とも優しく抱きしめた。
ハルもそうだったんだ。
そしてもういないんだ。
「ナツ、フユ、こっちにおいで」
そう言って膝下に呼んだ。
「ちゃんと聞いたわけではない・・・フェンリルが魔物から助けた時に、か弱いお主達だけが生きていたのは・・・産みの親が命がけで守っていたからだと思うぞ?」
ああそうか、アタシ達もそうだったんだ。
そう思うと少し心が冷たくなった。
でも今度はアタシもナツもハルもアキも強く優しく抱きしめてくれた。
「ハルとアキの母親から母は託されたのだ、だから何があっても守ってやる、そして愛してやる・・・ナツとフユもフェンリルから託された、だから我がその分も厳しく、そして愛してやる」
「母上だいすき」
「わたしもー」
「ああ母も大好きだぞ」
声が出そうになる。
アタシも言いたい。
オリハはハルやアキと変わらずにアタシとナツを愛してくれている。
でも言えない。
お母さんはまだアタシの中で生きてるから。
だから何も言わずに強く抱きしめた。
オリハはすごく優しい。
アタシ達がお母さんを忘れられないのをいつも考えてくれてる。
だからハルとアキと話している時は自分の事を「母」って言う。
アタシ達と話してる時は「我」って言うの。
ナツと話をした。
オリハをお母さんって呼びたいって。
アキも悩んでたみたい。
お母さんはお母さんしかいないからって。
また別の日に修行してたら、ぶとーたいかいで一番強かった人がやってきた。
なんだかイヤーな気配をオリハに向けてたからすぐ分かった。
言葉の意味はわからなかったけど、オリハをバカにしたのはわかった。
だってオリハはアタシ達をバカにしたらすぐに怒るから。
なんか難しいことを言い返したら、後ろの人が笑ってた。
今度はいやらしい顔で「メカケ」とか言ってた。
でもあの顔はすごいひどい事を言ったんだって気がしたの。
そしたらナツが飛び出して「ママに手を出すなっ!」て。
多分ナツの事だから、あんまり考えていなかったと思う。
今でも唸ってるし。
「お母さん」とは呼べないけど「ママ」ならって・・・うん、アタシもそれで行こう。
「・・・アタシのママにいやらしい顔をしないでっ」
うふふ、言っちゃった。
屁理屈ってやつだよね?
でもいいの、言いたかったんだもん。
その後も色々あったけど、なんだかんだで帰っていった。
「ナツ、フユ・・・この国にずっとおるとは限らぬのだ、本当に我をそう呼ぶのか?ならば嫌だと言っても連れて行くぞ?」
「大丈夫だよ、ママ大好きだよ」
「えっ?あっ、うん・・・ママ僕も大好き」
やっぱりナツは何にも考えてなかった。
「ああ!母も大好きだ」
そう言ってあの夜みたいに強く優しく抱きしめてくれた。
変わったのは言葉とママの涙かな。
「・・・我が子にはもっと厳しくなるからな、頑張るのだぞ」
少しだけ後悔した。
~~~~~~~~~~~~~~~
「失礼します」
「入れ、何か、わかった、か?」
「冒険者の間では有名なようです、名はオリハと言うそうです」
「・・・良い、名だ、オリハ、か」
「・・・王よ、報告の間くらい拳立てをやめて頂けませんか?」
「ああ?時間が、勿体、無いん、だよ、他には?」
「腐竜殺しの聖母という二つ名のあるA級冒険者だとか、この位ですね」
「・・・男は?」
「は?」
「男、はいない、のかって、聞いてんだ!」
「グレイズの宿に泊まっているようですが、子供達と女だけのようです」
「グレイズ?・・・ああ、ネズミの、じっさまか・・・デキてる、とかは、ないな?」
「グレイズは嫁一筋でしたから恐らく・・・本気なのですか?」
「何がだ?」
「側妃と退位の話です」
「ああ、あの鼻っ柱、が強い、所も、頭の回り、が早い、所も、産まれて、初めて、儂を恐怖、させた、事もなっ!・・・ふぅ」
「・・・退位も、ですか?」
「儂ももう四十過ぎた、後十年やそこらの余生なら惚れた女でも抱いて過ごしても良いだろう?・・・もう十歳若ければな」
「あのオリハという女はそこまでお強いのですか?」
「ああ、このままでは間違いなく儂が負ける・・・執務は任せて良いな?」
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「王妃様は大丈夫なのですか?」
「・・・その話は良い、儂は暫く山にでも籠る、通信用の魔道具は持っていくから何かあれば連絡をくれ」
「畏まりました、ご武運を」
ああ、待っていろオリハ。
必ず、必ず儂のモノにしてみせるからなっ!
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