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第5章 魔人国、後編
5-9 神の武器、エインリッヒ リターンズ
しおりを挟む「頭が高い、ひれ伏せ」
私のその命に塵芥がひれ伏します。
「魔王」の強大な魔力に触れると恐慌、服従する事しか許されません。
表情が醜くなるのが最大の難点で御座いますが。
オリハ様・・・には感謝しきれませんね。
見えませんが魔力で覆われているのでしょうか?
平然としてらっしゃるという事はこの魔王め以上の魔力で・・・やはり底が見えません。
ハル様もアキも・・・
ハル様、私めの顔を指差して笑わないでください・・・
マリア・・・私めの顔で萌えないで下さい。
さて、後は私めで御座いますね。
まずは燃料になる怒りを鎮め心を冷静に保たねば・・・
放っておくと「魔王」がソレを餌にして侵食が進んでしまいます。
スキルの効果によりますと侵食が終われば「魔王」になると感じます。
どう変わるのかは検討もつきません。
ただ碌でもない事だけはわかります。
心の奥から湧き出るコレなのでしょう。
コレは私めの夢にもオリハ様の求めたモノにも不要で御座います。
必要だから利用しますが「魔王」貴方は今の世には要りません。
大人しくしていて頂きます。
塵芥が・・・おほん、衛兵達ですね。
多少人格が変わるのもスキルの特徴です。
欲望と欲求も強くなってしまいます。
一人の衛兵だけひれ伏しながら私めを拝んでおります。
原理主義者でしょう。
柱に並び崇める対象ですからね。
「そこの者・・・原理主義者か?」
「は、はい!俺、いえ私は絶対なる魔王様の崇拝者です!」
「では牢で待つが良い・・・そこの衛兵、丁重に案内しておけ」
「は、はい!」
はぁ、口調まで変わってしまいます。
どうせならオリハ様の様に不遜な感じで・・・
いえ、オリハ様を不遜などと滅相もない。
オリハ様はただ偉大なだけです。
私めがオリハ様の真似をするなど不遜であるという意味です、はい。
・・・では王城まで参りましょうか。
進むたびに悲鳴と腰を抜かす者がおります。
漆黒の魔力は伝承により魔王の証とされております。
お陰で面白いように原理主義者が見つかりますね。
崇めている者を牢に案内するよう衛兵に命じておきました。
彼らの処遇は・・・また考えましょう。
まずは母と弟です。
愚弟は父が老化時期を迎える前に出来た子です。
そして母に甘やかされたせいかマザコンに御座います。
魔王化して殴れば殺しかねませんが致し方ないです。
その時はその時です。
問題は母上ですね。
・・・何を考えているのか検討もつきません。
アキを殺そうとしたのではなく攫おうとした、と原理主義者からの言です。
そしてアキを新たな国王にして原理主義を盛り立てようと煽ったと聞きました。
しっかりと問いただして私めも白黒をつけねばなりません。
王城に入った時に声をかけられました。
「エイン」
とハル様を下ろしたオリハ様が後ろから抱きつかれました。
せ、せ、背中に柔らかなっ!お胸がっ!
慌てますが全く振り払えません。
・・・力は入れたと思います。
「お、オリハ様!何をするっ」
「じっとしておれ、時期に終わる」
そう言うと白い魔力が全身を覆いました。
身体の中から温まるような心の中が温もりを覚えます。
ですが背中の柔らかいモノがっ!
魔王化していると通常より欲求がっ!
オリハ様がそれを感じたのかこうおっしゃいました。
「終わったらご褒美をやる、だがら我慢しろ」
・・・待ちます、我慢致します、喜んでっ!
光が治るとオリハ様が離されました。
残念に思いましたが・・・侵食度が戻っております。
「これでまだ持つだろう?」
と訝しげな私めにそう仰いました。
その後オリハ様が説明下さいました。
魂の回復魔法との事です。
どうしても抱きつく必要があるのだそうです。
・・・またして頂きとうございます。
その後「魔王」についても説明下さいました。
「元々は魔王という名ではないのだ」
「どういう事だ?」
ああ、不遜な!なんと口の利き方を!
私め!私め!・・・ですが気になさらず答えられました。
「[忘虐]と呼ばれていたものだと聞いた事がある・・・その力を持つ者を周りの者が魔王と呼び、いつの間にかスキルの名前が変わった数少ない事例だとな」
さすがオリハ様!素晴らしい叡智に御座います!
しかし[忘虐]ですか、何となくわかる気が致します。
このスキルが侵食するのは心の善に関わるモノだと感じております。
愛も悲しみも忘れて憎悪や怒りの感情だけになるのでしょう。
・・・もしかしたらそれを願って生まれたスキルなのかも知れませんね。
でしたら今の世にはやはり不要な存在です。
「大切なモノを思い浮かべろ」
オリハ様がそれが侵食に抗う一番の方法だと仰られました。
ですので私め二十四時間の夢の記憶と、この後のご褒美を思い浮かべました。
「違う!それではない!・・・アキだ」
と顔を赤く染めて仰られました。
何故わかったのでしょうか?
ですので私め愛息のアキを思い浮かべました。
愛らしい顔を思い浮かべます。
もうアキは私めの息子です。
オリハ様と私めの息子です。
誰のものでもありません。
心の中に丸い暖かいものを感じます。
誰にも侵食にも負けない気がしてきます。
感謝を述べようとオリハ様を振り返ります。
普段の私めではボンテージ姿のオリハ様を見る事など畏れ多くて叶いません。
ですが魔王めとなった今なら見る事が叶います。
魔王万歳で御座いますね。
漆黒の魔力の背後に立つそのお姿は仰られた通り「似合う」と思いました。
マリアも・・・顔を見た途端萌えないで頂きたい。
しかしいけません。
顔を見ると欲してしまいます。
自分だけの物にと激しく欲求してきます。
ですがこの欲求は侵食によるものなのでしょう。
頭を振りアキを想い進みました。
「開けよ」
「は、はい!」
玉座の間の扉が開きました。
・・・久方振りの対面で御座います。
愚弟は怯え震えております。
昔はよく泣かしたものです。
王座を譲った決め手は弟には王しか務まらない、そう思ったのもございました。
争いたくなかったのです。
ですが・・・叱るのは兄の務めです。
アキの母のためにも。
それが兄として父としてのケジメに御座います。
母上は玉座への段の前に立っております。
・・・あの様な醜いお顔だったでしょうか。
優しさに溢れた面影は何処にもありません。
まずは母上に今回の真偽を問わなければなりません。
「母上、これは一体なんだ?」
「どうしました?王の御前です、無礼でしょう?」
「私は魔王だ、そこの矮小な物にひれ伏すなどあり得ない」
下衆でニヤけた顔で母上が笑っております。
・・・あり得ません。
あれが母?あの母上か?
ああ、何故だか苛立ちが募ります。
「聞き方を変えよう、何故原理主義者を操って愚弟を王座から引きおろそうとしたのか!・・・そして貴様もっ!愛すべき嫁がありながら侍女に手を出して孕ませるなど何を考えているのだっ!」
愚弟は息を呑み震えたまま口を開きません。
代わりに母上が答えた。
「ああエイン、全て母が悪いのよ」
「・・・母上が?」
「お酒と魔法とお薬で・・・だからエイン?悪いのは私なの」
その一言に愚弟が目を閉じ震えを増しました。
真実なのか?
「・・・王妃はどうした?」
「幽閉していますよ、王子と一緒に」
「・・・何故この様な事を?」
この醜く高笑いをする女が私の母?
優しく誇り高かった母上か?
弟を溺愛して私を毛嫌いしたのはまだいい。
だがっ!何故だっ!?
「そうね・・・面白そうだったから?」
「なっ!?」
「そこはエインがいけないのよ?本当は兄弟で骨肉の争いをさせようと思っていたのに逃げ出すのですから」
「は、母上、お願いですからっ・・・元に戻って・・・妻と子を・・・」
弟がそう涙しながら呟いた。
いつからだ?
あの時から?
私は何を見ていた?
くっ、くそっ侵食がっ!心がっ!乾くっ!
「いいのよエイン・・・呑まれなさい」
知っていたのか!魔王を!それが目的だったのか?!
解除っ・・・が出来ない?!
緩めると侵食が一気に襲ってくる!
・・・何故、母上は・・・私の「魔王」を前に平気なんだ?
「地に伏して!声を上げるは卑しき下女に御座います!尊大なる御方を前に語る口も御座いません!ですが!何卒!何卒!お聞き届けをっ!!」
お、オリハ様?やめて下さい!何故貴女が地に頭を伏されるのですか!一体何を?!
「・・・申してみなさい」
「ああ!下賤なる私めの言葉をお聞き届け頂き恐悦至極で御座います!そこのエインリッヒ様に見初められ、かの様な姿をさせられておりますっ!」
いえいえ!オリハ様それは・・・
「夜な夜なここを踏め、あそこを踏めと強要され、この胸に顔を埋められ、子も出来ないだろうと・・・子種を・・・幾度も幾度も・・・」
いえ、それは私めの夢でございます!
夢の話で、しかも強要された側に御座います!
それにもう子はアキがおりますっ!
おや?・・・いつの間にやら侵食が止まっております。
成る程、では私めは・・・
「き、貴様っ!口を開くなっ!」
これでよろしいでしょう。
後は侵食に苦しむ演技でしょうか?
「まあ可哀想に・・・良いですよ、私が許します、口を開きなさい」
「ああ!尊大なる恩方、叶うのなら御恩を奉仕にて返させて頂きたいのです!もう!もう嫌なのです!どの様な命にも従います!何卒お聞き届けをっ」
「だ、黙れと言っておるだろう!ぐっ!」
私めも中々の演技派に御座います。
駄目押しはこれで良いでしょう。
オリハ様が地に伏しておられるままなのは納得致しかねますが。
とはいえ・・・相変わらず全く読めません。
ですがオリハ様ならあの時の様に。
「良い、そこなエルフの娘よ、私の命に従う限り安全を保障してやろう、さあ手を取るが良い」
「あ・・・ああ、ありがとうございます!ありがとうございます!ああ・・・本当に・・・本当に反吐が出るっ!」
そうしてオリハ様は・・・
母の手を取り引き寄せ抱きしめました。
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