赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第4章 魔人国、前編

4-10 神の武器、包囲網

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その夜の緊急魔道具会議は朝まで続いた。
途中から専門家ではないオリハではついて行けず、もう必要ではない所まで話が進んだ。
口を挟む事もないので、ふむふむと頷くだけになった頃、ハルが起きたのでエインに断り離席しようとした。
だが「朝食を準備致します」と食堂に案内された。

食事もせずにエインがニコニコとそこにいた。
パンと魔物肉のソテーが出されたので、パンに切れ目を入れソテーを挟んでみせた。
「成る程」とメモを取ってマリアに渡していた。
オリハの控えているレシピを渡してもいいかもしれない。

それからはバタバタした日々が続いた。



「「「ありがとうございました!」」」

気がつけば七日目の訓練が終わっていた。
素振りも三連撃まで行えた。
一度だけトムが早い素振りの最中にきれいな脱力と力の伝導をさせ、勢いで前につんのめり木剣を地面に突き刺した。
これはドワーフの老人がティダに一年かけてさせていたものを理論的にさせていたものだ。
その感触を得ても商人の道を歩むかは彼次第だろう。

ニコの魔法による身体強化も術式の訓練により格段に上がった。

ミゲルは下位の詠唱破棄まで出来るようになった。

D級推奨の魔物であれば問題ないだろう、とはオリハ談だ。

だが成人して冒険者登録をするまでは、決して街の外には出ないように念を押した。
強くなったと過信した時が一番危ないからだ。
今までの訓練も必ず続けるように、模擬戦をするなら最初の頃の様にゆっくりから始めるように、と。
そして危なくなったら必ず逃げる、無理はしないように、と釘を刺した。
我が子認定しなくとも過保護なオリハである。

「また顔を出す」と子供達と神父、シスターに見送られながら手を振り返す。

そこには当然のように公爵家の執事が車で待機していた。
逃す気は無いようだ。

オリハはギルドで報酬を受け取ってそのまま逃げようと画策していた。
勝手に友人認定した勢いで、王族たる公爵様に水をぶっかけ呼び捨てにしたからだ。


「公爵殿はどうしておる?」

「大変お忙しくされております、とても楽しそうに」

この四日の間たまに見かけたがいつもニコニコしていた。
恐らく十年の内には国内の魔素対策を整え、他国に働きかけ始めるだろう、とオリハは予測する。
やる事は山の様にある。
魔道具の作成、農作物の育成、畜産にも手をつけるだろう。
料理人を他国から雇い入れたり、従事する者共の住む家も手配しなければならない。

魔人国の名産品もいずれは出来るだろう。
「美味しい」と顔を綻ばせる者達も増えるだろう。
それを思うとオリハも心踊らさずにはいられない。

「・・・農場へ出向かれたり、ああ、本日はオリハ様をお迎えする、と張り切って朝から歓待の準備を整えて屋敷に待機されております」

「くっ!?」

やはり逃げる事は認められていないようだ。


屋敷に着くとマリアが待っており、先に離れの研究所へ案内された。
開発の成果を見てもらいたいらしい。

「オリハ様!お待ちしておりました」

ニコニコしているがまともに寝てもいないのだろう。
丸盆の三本線の間に二つの隈がある。
だが体形は全く変わっていない。

「エイン殿も元気そうで何より」

「その様な他人行儀な!豚かオークかエインと!」

咎められる心配はないのだが、あれ以来会うたびにずっとコレが続いている。

「善処する」

「・・・私めにいつでも水を掛けて頂いて構いませんので」

「ぐぬっ!」

「豚かオークかエインと」

ずいずいと迫ってくる。

「わ、わかったエイン」

そう聞きあの時より丸盆の上の線が細くなった。

その後、開発した魔道具を一通り見せてもらった。
農場用のミスリル付きは問題ないらしい。
建物や冷蔵庫、街道など固定する分も問題なく稼働しているとの事。
改良が必要なのが持ち運び式と車などの移動用らしい。
動かす度に高濃度の状態になるので吸収が間に合わない事があるそうだ。
車に関しては強力な物を複数個積む事で対応出来るが、鞄などは当然つけられない。
鞄の布自体に高価なミスリルとはいかないが伝導率の高いものを練り込んだりと開発に時間がかかりそうだ。

「ふむ、かなり進んでいるようだな」

「ええ、すぐ量産体制も整えますので、もう暫くお待ちください」

「・・・待つ、とは?」

「各地にて魔道具の配布や使い方の説明、料理の仕方など教えて回らねばなりません」

「我もか?!」

口元に指を当て首を傾げる。
だが全然かわいくはない。

「最後までのお付き合いをと願い出て、お手柔らかにと契約を御了承頂きましたので」

「なっ!?」

「既にその分の報酬もオリハ様のギルドカードを経由した形で、ギルドの方に預けさせて頂いております」

今回の魔道具作成のアドバイザー料として・・・
ここから十年で予測される経済効果の10%を・・・
料理のレシピを頂いた分が・・・
同行して頂く護衛費として・・・
同行先での調理実習費が・・・
新兵の訓練内容の貢献として・・・
今回の三人の訓練費が金貨十枚ですので、と全報酬の書いた紙を手渡した。

「なっ!!!」

「・・・ちなみにその額を満額下ろせる冒険者ギルドなどこの世に存在致しません」

と肉肉しく微笑んだ。

「そ、そんな、どうやって勝手に金を預けるなど!」

「私め、こう見えても王族でございますので」

と肉肉しく深々と一礼をした。

「それとこの依頼が終わればA級に昇格されます」

「ど、どういう事だ?!」

「B級までしか上げられない、と言うギルドの方々に御納得頂くのは少々骨が折れました」

「はぁ?!」

「魔人国の一大事業です、貢献度で言えばS級でもおかしくなかったのですが・・・」

やれやれと手を上げ首を振った。
そして呆然とするオリハにとどめを刺した。

「大丈夫です、もかけません」

そう言うとかんらかんらと笑った。

屋敷の方へ案内されながら、試験的に魔法で農作物を育てる実験を、この後その農作物でお食事を、お泊り頂いている宿にも、宿の料理人は人族の国から手配を、と公爵様の手際を垣間見る、ならぬ垣間聞かされた。


「私め、試食だけで肥えてしまいそうです」

とホクホク顔でロールキャベツを食べている。
既に肥えているだろうとは突っ込まない。

マリアに確かにこの料理のレシピは教えた。
使っている材料も同じだ。
がそれ以上に美味しいのは肉の差なのだろうか?
料理人の腕の差なのだろうか?

(いや、構わない、野菜、美味い)

と心の中で片言で涙ながらに久方振りの野菜を堪能するオリハ。
ハルも「おいしい!」と手をぶんぶんして食べている。

「温泉宿に手配した料理人の方にこちらで作って頂きました、明日の朝より宿で調理の指導と責任者として従事して頂く予定です」

とマリアが説明してくれた。

「で、では!?」

にいる限り食事でオリハ様を悩ませる事はありません」

ニッコリと微笑むエイン。

こうしてエインリッヒ・フォン・ドゥエムル公爵によるオリハ包囲網は完成された。


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